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しおりを挟む(あ、麻呂サンだ)
久しぶりに遠目で、千沙都は麻呂サンを見た。
(……なんか、一気に老け込んだな。でも、普通なのかな? ワンコのことは全くわからないな)
以前までは美犬だと思っていたが、そう見えなくなっていた。前まで雄犬たちから見事な健脚ぶりを披露していたが、今は散歩もゆっくりしている。シニアに差し掛かるくらいのはずだが、それにしてはかなりの歳に見える。
散歩していたのは、夕方なのに一希の母親がしていた。一希が受験生となって、散歩の担当を変えたのかも知れない。物覚えがいまいちなこともあり、成績もかなり悪くなっていて、忘れ物も多くなっているようだ。
(そういえば、塾に行き始めたとかって噂を聞いたような気がするな。学年があがるごとに成績が下がっていっても、兄さんはちゃんと大学に入れたけど。一希は、その大学選びすら、アドバイスとか。周りがすすめるところではなくて、自分の行きたいところに受かる気満々らしいとか聞いた気がするな。確か、獣医を目指すとか聞いた気がするけど……)
物覚えがいまいちな一希には難しい気がするが、やりたいことを止められても、自分の方が知識が上だと思っているのだろう。アドバイスをしている担任にすら、噛みついているようだ。
そんなことを考えていると近くで、こんな会話が聞こえて来た。
「あの、奥さんでしょ?」
「犬を連れて来て、スーパーで買い物しては、犬を忘れて行くらしいわ」
「え? 私は、連れて来てもいないのに犬がいなくなったって騒いでたって聞いたけど?」
千沙都は、そんな会話が聞こえてきて目をパチクリとしてしまった。
(相変わらずみたいね)
そんなことを思ったが、何やら前よりも酷さが増している気がする。
「他にも、高校生の眼鏡をかけた男の子が犬を連れて帰ろうとして揉めてたわよね?」
「自分が連れて来たって、騒ぎ立てていたけど、結局は違ってたらしいわ。あの奥さんみたいに連れて来てると思って勘違いしたらしいけど」
「それ、あの奥さんの息子さんらしいわよ」
そこまで耳に入ってしまい、千沙都は遠い目をしてしまった。ついに犬間違いまでするようになったようだ。
(なんか、色々と悪化してるな)
そんなことを思っているところに理人がやって来た。
「悪い。待たせた。レジが意外に込んでた。……どうした?」
「ううん。なんでもない」
理人が、買い物があるというので待っていた。ぼんやりとしていて不思議そうにされたが、千沙都は見聞きしたことを口にすることはなかった。
3年にもなるとデートなんて言ってられず、受験勉強ばかりとなっていたが、お互いの家で勉強をしていて、どちらも相手の猫に癒やされながら勉強をしていた。
この日は、千沙都のところで勉強する日だったため、理人はアインシュタインを息抜きに猫じゃらしで遊ばせようとしていたが、じーっと猫じゃらしではなくて理人を見ている愛猫に千沙都は笑ってしまった。
「……何でだ?」
「貸して。アインシュタイン」
千沙都が猫じゃらしを持って振ると目がランランとなって、荒ぶって猫じゃらしを奪うとそのままどこかに行ってしまった。
「強奪してくんだな」
「うん。持ってかれるけど、遊びたくなったら、猫じゃらし持って戻って来るのよ」
「……凄い、独特な遊び方だな」
その遊び方が、変わることはなかった。
怜久や父は理人のように観察されることもなく、うとうとと寝始めるまでになっていて、千沙都のようにアインシュタインが遊ぶ姿を見せることはなかった。
(何がそんなに違うのかがわからないけど)
千沙都は、優越感を持ってはいるが、愛猫のテンションの違いがよくわかっていなかった。
千沙都の兄の怜久は家族に大学受験は上手くいかないだろうと思われていたが、そんなことはなかった。驚いたことに合格したのだ。だが、詩とは別々の大学に行くことになった。それでも、怜久たちは遠距離でもやっていけると頑張っていたが半年ほどで破局することになった。
それはもう、この世の終わりのように落ち込んだ怜久を家族は慰めるのが大変だったが、詩の方はすぐに新しい恋を見つけたらしく、その違いに千沙都は流石だなと思ってしまった。
(まぁ、詩は美人で機転もユーモアもあるし、話しやすいから、フリーってなれば取り合いになるのも無理ないとは思っていたけど。義姉になってくれるのを期待していたのにな)
千沙都は、そんなことを思っていた。
千沙都たちも、大学が別々になることもあり、思い悩んで別れようともしたが、それでも遠距離で付き合うことにした。
色々とあったが、それでも破局することはなかった。お互いのことのみならず、実家の猫たちがいたことで遠距離でも話題に事欠くことがなかったのだ。猫様々である。
幼なじみは、大学受験に失敗した辺りで一希の父親が転勤になったらしく、一家で麻呂サンを連れて引っ越して行ってからは、どこで何をしているかを千沙都は全く知らない。
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