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結局のところ、瑶は躾うんねんもあるが、動物が好きではないことと今回のように気になる女の子の気を引きたいがために飼うことにしたという不純な動機のせいで、それが思っていたのと違っていたことがわかってから、益々犬が好きではなくなったようだ。

完全なる八つ当たりでしかない。最低最悪もいいところだが、彼の気は変わらなかったようだ。そのことで、彼の家族は再三に渡って家族会議をしたようだが、瑶は周りのせいにするばかりで自分が約束したことも、なかったことにして、全く反省することはなかったようだ。

ならば、犬の新しい飼い主を探せと言われても一向に動かず、瑶の親と姉が面倒を見るのも限界となり、二度と瑶のわがままは聞かないということで、今回は親と姉が瑶の尻拭いをして動くことにしたようだ。犬というか。動物が好きでもないところで、イヤイヤ飼われるよりは、別の家で飼われる方が幸せだろうと思ってのことだ。

飼ってくれる家を探すことにしたと兄から聞いた千沙都が手を貸すことにしたのは、すぐのことだった。


「私も、学校で知り合いに聞いてみる」
「いいのか?」
「いいよ。というか、犬があんまり好きじゃないなら、世話も大変なのはよくわかるし。そのワンコのためにも、何かできるとしたら、人に聞くくらいしかできそうもないから」


(隣のクラスの男子に説教したところで、私の話なんて聞く気はないだろうし。そっちとは二度と関わりたくないないから、ワンコの新しい家族を探すくらいしかないのよね)


「あー、どう言うつもりだ? 勘違い野郎が飼えなくなった犬の新しい家族探してるとか言う気じゃないよな?」
「そんなこと言うわけないでしょ」


(兄さんじゃあるまいし)


千沙都は、怜久に言いたいことを全部言葉にすることはなかった。

兄なら、それでやらかすタイプだが、妹だとは言えやらかすことはない。むしろ、幼なじみや兄のやらかしたことの尻拭いをこれまでどのくらいしてきたと思っているんだろうか。


(イケメン詐欺師のことを話題に出して、猿渡みたいにしつこく謝れって言われるようなことは避けるわよ。全力で)

 
「兄さんのカノジョのとこで、諸事情で飼えなくなったワンコってことにする」
「それなら、ありか」
「カノジョさんに聞いてみて。駄目なら、兄さんの知り合いとか? でも、それだと私、周りに猫好きだって知られてるから、犬のことでそんな頑張るようなお人好しだとは思われないかも」


(というか。兄さんの知り合いのために頑張るってなるとブラコンか。知り合いに気があるとか余計なこと言われそうだから、あんまり使いたくないのよね)


千沙都は、思っているのと口に出すことが違っていた。


「あー、それは、俺もだわ。猫好きだから、犬の飼い主を探してるって聞かれて、カノジョにいい格好したいのに必死だって言われたし」
「そんなこと言われたの? カノジョが困ってるのに何もしないなんて、最悪でもいいとこじゃん。その人、わかってないわね」


ムスッとして兄が、珍しくいいことをしているのに酷いことを言われたのを知って眉を顰めていた。そう、珍しく役立つことをしているのにそんなことを言ってやらなくなったら困るではないか。


(余計なこと言う人って、本当にどこにでもいるもんね)


だが、そんなことを千沙都が思っているとあまりそのことで怒っていなさそうな兄はこう続けた。


「それ、カノジョが言ってくれた。しかも、そんなんだから、元カノに1ヶ月も付き合わずにフラれるんだって言ってた」


(そりゃ、フラれるわ。しかも、カノジョさんの言い負かし方、好きだな)


そんなことを思っていると連絡してくれて、千沙都も兄のカノジョの家のワンコということで、新しい家族探しをすることになった。


「千沙都に感謝してるってさ」
「感謝なら、見つかってからにしてもらわなきゃ。まだ、何もしてないんだし」


千沙都は、一希のような無類の犬好きだけど、ありえなすぎる家ではなくて普通の犬好きの家族が見つかることを願ってやまなかった。


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