見た目だけしか取り柄のない残念な犬好きの幼なじみと仲違いしたので、私は猫好き仲間との恋に邁進します

珠宮さくら

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「物々交換できるものないの?」
「は? んなの急に言われても……」


こういう時、怜久だけが未だにこのノリについてこれないのだ。それどころか。毎回、何の交渉もできない。何も思いつかないのが、怜久だ。


(ん? でも、あれって……)


千沙都は、母の持つチラシに違和感を覚えて、自分のもらったものと見比べていた。違和感の正体に気づいたのは、すぐのことだった。


(あ、そういうことか。もはや、流石としか言えないわ)


千沙都は、チラシの違いに気づいてしまった。


「仕方がないわね」
「いいのか? サンキュー、……って、これ、開催するって予定だけじゃん!?」
「そうよ? 割引チケットもらえるとしたら、千沙都が行った時にもらえるんじゃないかしら?」
「その時は、ちゃんと物々交換するんだぞ?」


それまでに何かしら用意しておけと両親は怜久に言いたいのだ。


(やっぱりね)


千沙都は、そんなことではないかと思っていたが、その通りだったようだ。

怜久は、助けを求めるかのように妹を見たが、千沙都はにっこりと笑っているだけだった。


(ここで、何もなくもらえるとは思わないわよね?)


それを見て、兄は交渉のつもりなのか。こんなことを言った。


「千沙都。どうせ、カレシいないんだから、カップル限定の割引チケットなんて必要ないだろ?」
「……」


千沙都は、その言葉に頬がひきつってしまった。よりにもよって、カチンとくる言葉を投げかけて来たのだ。


(何で、そんなこと言うかな。カノジョと上手くいくように散々サポートしたのに。……というか。こんなにデリカシーないのにフォローしなきゃ、すぐ愛想を尽かされそうだわ)


両親は、不容易なことを口走った怜久に眉を顰めていた。


「怜久。それは、失礼すぎるわよ。千沙都は、とっても可愛いのよ? その頃には、カレシができてる可能性は高いわ」
「確かに千沙都は、可愛いからな。確率は高いが、高いのは認めるが……」


母と煮えきらない父の援護射撃に千沙都は苦笑してしまった。父親としては、カレシがいる確率が高いのはわかるが、できてはほしくないのだろう。


「いや、ほら、スイパラなんて続けて行ったら、確実に太るだろ?」
「あ゛?」
「っ、」


太ると決めつける怜久に思わず、恐ろしい声が出てしまったが、千沙都は悪くないはずだ。


「千沙都。物々交換なんて生ぬるいことしなくてもいいわよ」
「そうだな。することない」


こうして、両親が兄のデリカシーのない言葉を耳にして、そう言っていた。千沙都も言われなくとも、その気はなかったが微笑んだだけだった。


(こんなんで、カノジョと上手く付き合っていけるのかしらね)


千沙都は、そんなことを思って兄のことを白けた目で見つめた。

兄のあり得ない言葉を理解したのか。愛猫が、怜久の足に爪とぎをしていた。


「いでぇー!!」


(ざまぁみろ)


そう思った千沙都は、悪くないはずだ。


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