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しおりを挟む神山千沙都は、両親と1つ違いの兄の怜久と暮らしている。どこにでもいるような女の子だ。彼女の第一印象は声を出さなければ、おっとりしていてのんびりしているように見える癒し系とやらに見えるようになったのは、高校に入ってからだ。
それまでの第一印象は、違っていた。高校デビューをして様変わりしたわけではない。……まぁ、ちょっとはあるが、中学の時にやっていた部活を引退してから徐々に変わっていったため、高校になって劇的なビフォーアフターがあったわけではない。
千沙都は、この春から高校生となった。中学までは運動部に所属していたこともあり、部活に勤しんでいる時は辛うじて髪が結べる程度の長さの髪をしていた。
そんな彼女は高校では帰宅部を満喫するつもりでいた。もとより、彼女の部活に対するモチベーションの持ち方が、人よりズレていた。そもそも、小学校でも、中学校でも運動部に所属する気がなかったのだ。
特に中学校では文系に入るはずだった。それが、体育ではっちゃけ過ぎてしまい、そこからスカウトされてしまったのだ。流されるまま、気づけばその部活に所属することになって、あっという間にレギュラーになってしまっていた。
何の部活に入っていたかは、内緒にしておく。それこそ、部活の名前を言えば、そんなんでよくレギュラーになれたなと言われるようなところしかない。持って生まれた運動神経と体力が他の女子よりあるのが、大きかったようだ。
だが、千沙都は初対面の人間やよく知らない人から見ると運動部に属しているようにも、運動神経がいいようにも見えないらしい。むしろ、運動音痴にしか見えない。そのせいか、レギュラーだったというのに相手選手に大したことないと思われていたが、レギュラーから脱落したことはない。
見えない人たちからすると千沙都は、おっとりとして見えるせいで、運動は苦手にしか見えず、運動部だったと言うとこぞって、マネージャーをしていたのだと思われるほどだった。
千沙都は面倒くさくて、何をしていたかを言うことはなかった。そういう時に思うことは、いつも決まっていた。
(そんなに私が、運動部でレギュラー落ちしたことがないようには見えないってことよね? そんなに鈍臭く見えるってこと?? 顔? 顔が、やる気なく見えるとか? ……その辺のこと聞けば、どう見えているかわかるのだけど、聞く勇気がないのよね。なんか、聞いたら凹んだまま戻れなくなりそう)
千沙都は、どう見えるかを聞かずにいた。それが、一番いいやり過ごしのように思えた。自分のためにそれがいい気がして、触れようとしなくなった。
中学の時に引退してからは、短めな髪を伸ばすようになり、高校生となった今ではロングになっていた。髪の長さだけで、益々そう見えるというわけではないはずだが、引退したせいで気が抜け過ぎていたことが大きかった気がする。
(そうよ。ただ、気が抜けてしまっているだけよ。そうに違いない)
千沙都は、あらぬ方向に必死になっていた。ちょっと、第一印象のことでナーバスになっているところもあった。
そんな千沙都だが、中学の時は引退する時も、後輩に惜しまれ、卒業する時も泣かれたりしたほどだ。千沙都が部活に所属していた頃は、同学年の人数が多かったこともあり、レギュラーになれない者もいた。後輩で、優秀な子もいて、その子がレギュラーになったことで、色々と部活内でぎくしゃくしたりもした。千沙都が引退した頃には、和気藹々としていて卒業する頃には、そんなぎくしゃくがあったなんて思えないほどアットホームになっていた。
厄介な先輩たちが居なくなると思って、ホッとしていたのもちらほらいたようだが、千沙都はその辺に気づかないふりをして卒業した。
そう知らぬ存ぜぬの方が、面倒がないと思ってのことだ。
「千沙都先輩。会えなくなると思うと物凄く寂しいです」
「……」
「卒業おめでとうございます!」
「ありがとう」
会えなくなるとか、寂しいと言う後輩より、おめでとうを言ってくれている後輩の方が泣いていた。
(言葉と態度が、こうも噛み合ってないのは変わりがないわね。全く会えなくなることを寂しく思っていない態度で言われても、反応に困るわ)
その辺の指摘は、千沙都はしなかった。関わりたくないのだ。他の卒業生も、当たり障りのないことを言って、ひたすら寂しいと言う後輩の何人かをスルーした。
それよりも、おめでとうを言ってくれて泣いている後輩が可愛く見えて仕方がなかった。
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