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(猫の姿ならまだしも、人間の姿の颯くんを抱っこして逃げるのは難しいわ。どうしたらいいの)


珠紀は、威嚇しながらも相当怖いのだろう。震える颯をどうやって逃がすかで、頭をフル回転させていたが、いい案が浮かぶことはなかった。


「仔猫は、美味しいのよ。私たちには、すっごいご馳走なの。特に王族の仔猫の味を知ってしまうと他の仔猫なんて目じゃなくなるのよ」


さらう目的が、食べることだとは珠紀は思いもしなかった。


「晃は、食べ頃を逃してしまったけど、その後の彼の弟妹たちは、とっても美味しかったわ」
「っ!?」
「まぁ、それ以外の仔猫も食べたけど、やっぱり王族の仔猫の味が忘れられなかった」


そのためにかなりのお金をつぎ込んだと話すのに珠紀は、眉を顰めずにはいられなかった。

勝ち誇った顔をする女は、ニタァ~と笑っていた。


「颯くん、猫の姿になれる?」
「わ、わかんない」


それこそ、遊園地に行くのに必死になって人の姿になれるように練習したのだ。今は耳と尻尾が出ているが、猫の姿になる方が難しくなっているのは、怖すぎることもあるのだろう。

それでも、猫の姿になった颯を抱えて、自慢話をしている女に珠紀は頭突きを食らわして、逃げることになった。


(ここが、喫茶店の近くなら、何とかなるはず)


だが、そこは喫茶店の近くではなさそうだ。


(なら、居場所を連絡できたらいけるかも)


珠紀は、自分のスマホは見当たらないが颯用の子供携帯で居場所が晃たちに知らせるアプリを起動させた。


(私のお馬鹿! こっちを先に起動させとけばよかったのに!!)


そう内心で思いながらも、走るのをやめなかった。









「颯の位置がわかった」
「……珠紀ちゃんが起動したと思うか?」
「罠かも知れません。王子は、ここでお待ちになられた方が……」
「そんなことできるわけがないだろ!」
「晃。お前は、残れ」
「お祖父様」


白が、人の姿をしていることに晃だけでなく、多くの者が驚きながら、その威圧感に頭を下げることになった。

彼は、隠居していても、王の風格をなくすことはなかったようだ。


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