上 下
2 / 23

しおりを挟む

晃は、知り合いが喫茶店をしているからと珠紀を連れ立って、そこまで歩くことになった。

それこそ、色々と話したはずだが、緊張しすぎていた珠紀は当たり障りのないことを答えていたか自信はなかった。

反省しても、この時の記憶を思い出すことはなかった。

晃が不愉快そうにしてはいなかったから、きっと上手く会話できていたはずだ。


(……こんなところがあったんだ)


慣れたように細道を晃を歩くのに珠紀は、どこに行くかを詳しく聞くことなく着いて行った。そこには、雰囲気のいい喫茶店があった。

それこそ、大学を出てしばらくは晃の追っかけが、珠紀とどこかに行こうとしているのを見て着いて来ていたはずが、そこにたどり着いた時には一人もいなくなって、静かになっていることに珠紀は全く気づかなかった。

カラン、カラン。

扉を開けると軽やかな音が鳴った。


「晃。珍しいな。お前の彼女か?」
「翔太」
「悪い、悪い。人間は誰も居ないから、好きなとこ座れよ」


(うわっ、これまた、イケメンな人がいる)


それこそ、こんなイケメンがいるところなら、目当ての女性たちで賑わっていそうだが……。


(あ~、でも、ここ、落ち着くな~)


そんなことを思いながら、奥まったところに座ることになったのだが……。


「猫だ」
「珠紀さん、猫は平気かな?」
「あ、はい。動物は、全般平気です」
「よかった。ここは、どこも猫が好きなように座っているから、退かさずに座れそうなのここしかなさそうなんだ」


珠紀が、辺りを見渡すと人間より、猫の方が上客のようで、それがとても可愛いくて退かすなんて無理な気持ちがよくわかった。

珠紀が座ろうとしたところの奥に丸まった猫が寝ていた。毛艶のよい真っ白な猫だった。


「えっと、隣、いいかな?」
「……」


丸まっていた猫が、嫌がらないかと珠紀は指を鼻先にやって様子を見る。晃の方にも猫がいたが、嫌がらずに喉をゴロゴロ言わせていた。

珠紀の方の猫は、珠紀の指をくんくんと匂いを嗅いでから、何事もなかったようにまた寝始めたので大丈夫そうだなと隣に腰掛けた。


「お邪魔します」


そんな行動をじっと見られていたようだ。


「白さんが、認めたな」
「え?」
「その猫、ここの主みたいなもんなんだよ」


珠紀は感心されていたようだが、見られていたことに赤面していた。


(こんな猫カフェがあるの知ってたら、通い詰めてたわ。どこもかしこも、猫だらけ。なんて、魅惑的な空間なんだろ)


珠紀のことを他の猫たちも、じっと見ていて、何やら不思議な感覚がしたが、新参者の人間を見ていると思っていた。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

聖獣の卵を保護するため、騎士団長と契約結婚いたします。仮の妻なのに、なぜか大切にされすぎていて、溺愛されていると勘違いしてしまいそうです

石河 翠
恋愛
騎士団の食堂で働くエリカは、自宅の庭で聖獣の卵を発見する。 聖獣が大好きなエリカは保護を希望するが、領主に卵を預けるようにと言われてしまった。卵の保護主は、魔力や財力、社会的な地位が重要視されるというのだ。 やけになったエリカは場末の酒場で酔っ払ったあげく、通りすがりの騎士団長に契約結婚してほしいと唐突に泣きつく。すると意外にもその場で承諾されてしまった。 女っ気のない堅物な騎士団長だったはずが、妻となったエリカへの態度は甘く優しいもので、彼女は思わずときめいてしまい……。 素直でまっすぐ一生懸命なヒロインと、実はヒロインにずっと片思いしていた真面目な騎士団長の恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は、他サイトにも投稿しております。 表紙絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID749781)をお借りしております。

諦めて溺愛されてください~皇帝陛下の湯たんぽ係やってます~

七瀬京
キャラ文芸
庶民中の庶民、王宮の洗濯係のリリアは、ある日皇帝陛下の『湯たんぽ』係に任命される。 冷酷無比極まりないと評判の皇帝陛下と毎晩同衾するだけの簡単なお仕事だが、皇帝陛下は妙にリリアを気に入ってしまい……??

『遺産相続人』〜『猫たちの時間』7〜

segakiyui
キャラ文芸
俺は滝志郎。人に言わせれば『厄介事吸引器』。たまたま助けた爺さんは大富豪、遺産相続人として滝を指名する。出かけた滝を待っていたのは幽霊、音量、魑魅魍魎。舞うのは命、散るのはくれない、引き裂かれて行く人の絆。ったく人間てのは化け物よりタチが悪い。愛が絡めばなおのこと。おい、周一郎、早いとこ逃げ出そうぜ! 山村を舞台に展開する『猫たちの時間』シリーズ7。

あやかしと付喪神のことをずっと親戚と勘違いしていたようです。みんなが笑顔でいられるのなら、身内に気味悪がられても気にしません

珠宮さくら
キャラ文芸
付喪神やあやかしたちと一緒に暮らすこととなった星蘭。 自分に特別な力や才能があるとは、これっぽっちも思っていないが、母親と妹からは気味悪いと思われ続けていたことが、役に立つことを知ることになる。 そんな星蘭が、千年近く受け継いできた生業を受け継ぎ、付喪神やあやかしたちを幸せにしようとして、逆にたくさんのものをもらって幸せになるお話。 ※全6話。2、3日おきに更新。

【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件

三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。 ※アルファポリスのみの公開です。

【完結】神様WEB!そのネットショップには、神様が棲んでいる。

かざみはら まなか
キャラ文芸
22歳の男子大学生が主人公。 就活に疲れて、山のふもとの一軒家を買った。 その一軒家の神棚には、神様がいた。 神様が常世へ還るまでの間、男子大学生と暮らすことに。 神様をお見送りした、大学四年生の冬。 もうすぐ卒業だけど、就職先が決まらない。 就職先が決まらないなら、自分で自分を雇う! 男子大学生は、イラストを売るネットショップをオープンした。 なかなか、売れない。 やっと、一つ、売れた日。 ネットショップに、作った覚えがないアバターが出現! 「神様?」 常世が満席になっていたために、人の世に戻ってきた神様は、男子学生のネットショップの中で、住み込み店員になった。

箱庭アリス

二ノ宮明季
キャラ文芸
目を覚ますと、とても可愛らしい部屋に閉じ込められていた。 私には記憶がなく、目の前で私を「アリス」と語る男が何者なのかもわからない。 全てがわからないまま始まる日常は、思いもよらない方向へと進んでいく。 ※グロテスクな表現があります。ご注意下さい。 全9話を予定しております。 『監禁アンソロジーpain 錯』に寄稿した作品を改稿したものです。 表紙イラストも私が描いております。

王子好きすぎ拗らせ転生悪役令嬢は、王子の溺愛に気づかない

エヌ
恋愛
私の前世の記憶によると、どうやら私は悪役令嬢ポジションにいるらしい 最後はもしかしたら全財産を失ってどこかに飛ばされるかもしれない。 でも大好きな王子には、幸せになってほしいと思う。

処理中です...