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最終章
後編
しおりを挟む人間界で王の娘が失踪したとなり、王都では大騒ぎになったようだが、前のように王が道を塞ぐことはなかった。
こちらには来れないと思っているのだ。もう既に来ているとも知らず、人間界で必死に探させていると噂が流れているが、それも怪しいものだ。
なにせ、娘など見つからないままがいいと父親である王が思っているのだ。そうとも知らず、噂が飛び交っていたようだが、噂は噂でしかなかった。
「……」
アルテアは、相変わらず眠ったままだった。クリティアスは、森の中で生活しながら、アルテアが目覚めることを待ちわびていた。
妖精たちのところにお菓子が街から届かなくなったのも、ユグドラシルはアルテアが大怪我を負って眠っているからと言うことにした。
まだ、アルテアがやったことが起こっていないのだ。それを妖精たちには話していない。そんなことをすれば、もっと大変なことになる。
「アルテア。そろそろ、出会った頃と同じ時期になるぞ」
「……」
「いい加減、起きろ」
クリティアスは、起きないはずがないと思いながら、本当はこのまま目覚めないのではないかと不安に押しつぶされそうになっていた。
そんな日がしばらく続いた。
「クリティアスさん、おはよう」
「あぁ。っ、!?」
「? どうしたの?」
きょとんとした顔をしてアルテアは、何でもないようにそこに立っていた。いつも、そうしているように朝の挨拶をしたので、クリティアスは思わず普通に挨拶してしまってから、固まった。
「アルテア……?」
「ん? そうだけど?」
「っ!?」
クリティアスは、アルテアを抱きしめた。そんなこと、今まで一度もしたことはなかったが、感極まったのだ。
「わっ、ちょっ、どうしたの?!」
「良かった」
「??」
アルテアは、クリティアスが何を言いたいのかがわからない顔をしていた。ずっと眠っていた感覚が彼女にはないようだ。
だが、それを説明することはクリティアスはしなかった。
「あれ? なんか、戻ってる??」
きょろきょろと見て、アルテアはそんなことを言った。
「そうだな。お前が、ここに来たくらいだ」
「え、それって、これから雨が降らなくなるってこと?」
「いや、そうはならないだろ。ユグドラシル様は、眠ってはいない」
「え? そうなの?」
「雨が降らなくとも、お前なら魔法を使えばいい」
「いや、でも、使いこなすのが……、あれ?」
アルテアは、りらがここに来た時に難なく魔法が使えたことを知らなかったようだ。あっさりと魔法が使えることにびっくりした顔をしていた。
「え? こんな簡単に使えるものなの!?」
「……そんなに違うのか?」
「全然、違う。何で??」
「さぁな」
クリティアスは、りらの習得したものがいかされているのだと思ったが話すことはなかった。
アルテアは、目をパチクリさせて深入りするのをやめた。どうも、面倒に思えたようだ。
「まぁいいや。えっと、まずは、何から起こるんだっけ?」
「それより、ユグドラシル様に会いに行け」
「あ、そうか。そうだよね」
クリティアスと同じ、いや、それ以上にユグドラシルは喜び、りらが守ろうとした人たちも、時が来たら次々と何があったのかを思い出した。
変わらなかったのは、妖精たちだ。お菓子とアルテアを見て大喜びしたのだ。大喜びどころではなかった。小さいのに群がると大変だった。
その辺を助けてくれたのは護衛たちだ。まぁ、彼らも泣いていたが。仕事はきちんとしていたから、凄いなんてものではない。
(ふふっ、やっぱり、ここは変わらないわね)
そして、変わらないと思っていたものが、すっかり様変わりしていた。
誰であろう。クリティアスだ。
彼はアルテアと別れ、りらとも別れることになり、再びアルテアと出会うことになったのだ。
アルテアは、忘れているところがあるし、クリティアスも全てを覚えているわけではない。
アルテアをユグドラシルのところに連れて来る間に知っているのに似たことになって、一族がほとんど死ぬことになっても、周りにそのことで何を言われることになっても、もうやり直したいとは思っていなかった。
たが、アルテアは同じようなことになっていると聞いて……。
「え? そんな、じゃあ、もう一回」
「やり直さなくていい」
「え? でも、それじゃ……」
「聞こえなかったか? もう、いい」
「あ、はい。すみません」
アルテアは、コツを掴んだかのように戻ってやり直すと簡単にいったが、クリティアスは笑顔で止めた。それが一番怖かった。
(なんか、クリティアスさん、凄みが増してない??)
それもこれも、アルテアとりらが色々やったせいなのだが、本人は自分のせいだとは欠片も思っていない。
りらがいなくなっても、死んだわけではなくて失踪となったことで、どこかで幸せに暮らしていると思うことにしたようで、探すことも父である王はやめたようだ。その程度だったのかと思われていても、王は気にしていないようだ。父の中では終わったことになっている。
そんな父に会いたいと思うこともなく、アルテアはユグドラシルの森で、クリティアスと一緒に暮らしながら、やり直す前に出会った人たちと同じようでいて、もっとパワフルなことをして、楽しい毎日を過ごすことになった。
アルテアの周りはいつも笑顔が溢れ、それをクリティアスは微笑ましそうに見つめていたが、王都に行くことはなかった。
そのうち、2人そっくりな子供たちに囲まれ、アルテアの笑顔が曇ることはなかった。
幸せになる一方のアルテアたちとは真逆に王都では次第に魔法を扱える貴族がいなくなり、王も必死になって隠していたようだが、魔法を使えなくなるまで、割とすぐのことだった。
そのため、どうにかして人間を巻き込んで新しい血を残そうと躍起になったようだが、人間界に行ける者は減る一方となり、ユグドラシルのいる森近くの街が繁栄発展し続けたが、王都は衰退な一途を辿ることになった。
その全てを把握しているユグドラシルは、妖精たちの救い主のみならず、この世界の救い主になったアルテアをその後、彼女の子孫をずっと見守り続けた。
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