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第4章
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しおりを挟む(ミハイルも、私を様付けにしていたっけ。彼にそう呼ばれても、普通にしていたけど。こうも違うのね。私が、何かを知ったからかも知れないけど………。姫君って呼ばれた。つまり、私の父ってそういう人ってことよね)
そこを詳しく聞きたくなったが、それどころではないため、りらは父のことを根ほり葉ほり聞くことはなかった。それをしたら、彼は余計なことを言っていることに気づいてしまう。
これから行くはずの世界のことをフィロンに聞いた。
「……りら様、本当に何も知らないんだな」
「だから、父の家に行っても、そこまでだったのよ。父の部屋から、その世界に行けるドア? 道? そんなのがあるなんて知らない。そもそも、父の部屋の中どころか。父の顔も見たことないし」
「家に行ってるのに?」
「そうよ。声しか聞いたことない。それも、母と怒鳴り合ってる声だけよ」
「……そんなことあるんだな。親子なのに一度も会わないままなんて、そんなの悲しすぎるだろ。名前を呼ぶのも、声をかけるのもしてないなんて……」
フィロンは、そう呟いてから、ハッとしてりらを気遣うように見た。
「私は平気よ。父の心臓とまで言われているのが本当なら、それで十分よ」
「外が、マシになったな」
「そうね」
(このままたどり着けても、私は父に会えない気がする。でも、それを諦めたら無事に着ける自信はある。……無事にも千差万別あるでしょうけど。高望みなんてしてはいられない)
それをりらは、フィロンには言えなかった。それこそ、二度と父に娘として会えなくなりそうなのだ。そうなれば、1人は確実に無事にたどり着ける。彼は、りらをこんな風に連れ回さずにいれば、安全にたどり着けていたはずだ。
(貴族に誑かされたのよね。きっと。私がたどり着けなくなれば、父の跡を継げる人か。そうなってほしい人が仕掛けた気がする。一番ありそうね。文字通り私が父の心臓だとは思ってなかったのだろうけど。あの世界が消えたら、手にできるものなんて何もなくなる。でも、私の存在を消し去れば手に入る何かがある。……一体、誰かしらね。私の死を望む者。嫌われてはいたけど、死を望まれたことなんてなかった。私が死んだら、お金がもらえなくなるもの。あの人たちですら、そこまでじゃなかった。みんなの楽園ではないみたいね)
りらは、殺意を向けられていることが真実に思えた。でも、それで手にしたいものまで壊れかけていることに殺意を向けた相手が慌てふためいているとしたら……。
(それはそれで、滑稽ね)
そんなことを思わずにはいられなかった。
あの世界にも色々と影響が出ているようだ。父が娘を文字通りに自分の心臓と言っていた通りに気にかけているせいで、そうなっているのだとしたら……。
(父の心臓にとどめを刺したのは、私が約束を破ったから。私が死んだせいで、こうなった。そして、死んでいたのを忘れて彷徨っていたから、手遅れになりそうになっている。……私に時間は残されていない。それはわかる。だからこそ、残りの時間をちゃんと使いたい。それをやらなければ、私は私でいる理由がなくなってしまう。私は、私でいたい)
フィロンの家族が、どうなっているかが気になるが、彼は家族よりりらを優先して心配して気にかけてくれていた。
きっと今頃、ミハイルや影ながらりらを守ると誓ってくれていた人たちが探し回ってくれているはずだ。それが、彼らのすべきことだ。
でも、ミハイルたちに死んだ者と話すことができないのなら、探し回っても無駄な気がする。きっと、死ぬことになることは、想定外だったはずだ。
(まだ、私のことを何処かにいると諦めないでいてくれるといいけど。でも、あちらからの助けを待ってはいられない)
りらは、未だかつてないほどの決断に迫られていた。そんな決断などしたくはなかったが、そうは言ってはいられない。それが、りらの責務だ。
ふと、あることがりらは気になった。
「ねぇ、フィロン。嘘つき呼ばわりされて、私、その女性に“二度と話しかけないで。視界に入らないで”とか、色々言ってしまったのだけど、何か影響があったりする?」
「……」
フィロンは、りらの言葉に明々後日の方を見た。運転しているのだ。道標となっているのが、りらの想いのようなものだとしても、運転はしているのだ。後部座席に座っているりらと目を合わせたくないのが丸わかりな態度をしていた。
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