与えてもらった名前を名乗ることで未来が大きく変わるとしても、私は自分で名前も運命も選びたい

珠宮さくら

文字の大きさ
上 下
107 / 111
第4章

42

しおりを挟む

(ミハイルも、私を様付けにしていたっけ。彼にそう呼ばれても、普通にしていたけど。こうも違うのね。私が、何かを知ったからかも知れないけど………。姫君って呼ばれた。つまり、私の父ってそういう人ってことよね)


そこを詳しく聞きたくなったが、それどころではないため、りらは父のことを根ほり葉ほり聞くことはなかった。それをしたら、彼は余計なことを言っていることに気づいてしまう。

これから行くはずの世界のことをフィロンに聞いた。


「……りら様、本当に何も知らないんだな」
「だから、父の家に行っても、そこまでだったのよ。父の部屋から、その世界に行けるドア? 道? そんなのがあるなんて知らない。そもそも、父の部屋の中どころか。父の顔も見たことないし」
「家に行ってるのに?」
「そうよ。声しか聞いたことない。それも、母と怒鳴り合ってる声だけよ」
「……そんなことあるんだな。親子なのに一度も会わないままなんて、そんなの悲しすぎるだろ。名前を呼ぶのも、声をかけるのもしてないなんて……」


フィロンは、そう呟いてから、ハッとしてりらを気遣うように見た。


「私は平気よ。父の心臓とまで言われているのが本当なら、それで十分よ」
「外が、マシになったな」
「そうね」


(このままたどり着けても、私は父に会えない気がする。でも、それを諦めたら無事に着ける自信はある。……無事にも千差万別あるでしょうけど。高望みなんてしてはいられない)


それをりらは、フィロンには言えなかった。それこそ、二度と父に娘として会えなくなりそうなのだ。そうなれば、1人は確実に無事にたどり着ける。彼は、りらをこんな風に連れ回さずにいれば、安全にたどり着けていたはずだ。


(貴族に誑かされたのよね。きっと。私がたどり着けなくなれば、父の跡を継げる人か。そうなってほしい人が仕掛けた気がする。一番ありそうね。文字通り私が父の心臓だとは思ってなかったのだろうけど。あの世界が消えたら、手にできるものなんて何もなくなる。でも、私の存在を消し去れば手に入る何かがある。……一体、誰かしらね。私の死を望む者。嫌われてはいたけど、死を望まれたことなんてなかった。私が死んだら、お金がもらえなくなるもの。あの人たちですら、そこまでじゃなかった。みんなの楽園ではないみたいね)


りらは、殺意を向けられていることが真実に思えた。でも、それで手にしたいものまで壊れかけていることに殺意を向けた相手が慌てふためいているとしたら……。


(それはそれで、滑稽ね)


そんなことを思わずにはいられなかった。

あの世界にも色々と影響が出ているようだ。父が娘を文字通りに自分の心臓と言っていた通りに気にかけているせいで、そうなっているのだとしたら……。


(父の心臓にとどめを刺したのは、私が約束を破ったから。私が死んだせいで、こうなった。そして、死んでいたのを忘れて彷徨っていたから、手遅れになりそうになっている。……私に時間は残されていない。それはわかる。だからこそ、残りの時間をちゃんと使いたい。それをやらなければ、私は私でいる理由がなくなってしまう。私は、私でいたい)


フィロンの家族が、どうなっているかが気になるが、彼は家族よりりらを優先して心配して気にかけてくれていた。

きっと今頃、ミハイルや影ながらりらを守ると誓ってくれていた人たちが探し回ってくれているはずだ。それが、彼らのすべきことだ。

でも、ミハイルたちに死んだ者と話すことができないのなら、探し回っても無駄な気がする。きっと、死ぬことになることは、想定外だったはずだ。


(まだ、私のことを何処かにいると諦めないでいてくれるといいけど。でも、あちらからの助けを待ってはいられない)


りらは、未だかつてないほどの決断に迫られていた。そんな決断などしたくはなかったが、そうは言ってはいられない。それが、りらの責務だ。

ふと、あることがりらは気になった。


「ねぇ、フィロン。嘘つき呼ばわりされて、私、その女性に“二度と話しかけないで。視界に入らないで”とか、色々言ってしまったのだけど、何か影響があったりする?」
「……」


フィロンは、りらの言葉に明々後日の方を見た。運転しているのだ。道標となっているのが、りらの想いのようなものだとしても、運転はしているのだ。後部座席に座っているりらと目を合わせたくないのが丸わかりな態度をしていた。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界転生ファミリー

くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?! 辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。 アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。 アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。 長男のナイトはクールで賢い美少年。 ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。 何の不思議もない家族と思われたが…… 彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?

歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。 それから数十年が経ち、気づけば38歳。 のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。 しかしーー 「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」 突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。 これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。 ※書籍化のため更新をストップします。

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!

ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。 退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた! 私を陥れようとする兄から逃れ、 不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。 逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋? 異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。 この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!

桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。 「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。 異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。 初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~

緋色優希
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

巻き込まれ召喚・途中下車~幼女神の加護でチート?

サクラ近衛将監
ファンタジー
商社勤務の社会人一年生リューマが、偶然、勇者候補のヤンキーな連中の近くに居たことから、一緒に巻き込まれて異世界へ強制的に召喚された。万が一そのまま召喚されれば勇者候補ではないために何の力も与えられず悲惨な結末を迎える恐れが多分にあったのだが、その召喚に気づいた被召喚側世界(地球)の神様と召喚側世界(異世界)の神様である幼女神のお陰で助けられて、一旦狭間の世界に留め置かれ、改めて幼女神の加護等を貰ってから、異世界ではあるものの召喚場所とは異なる場所に無事に転移を果たすことができた。リューマは、幼女神の加護と付与された能力のおかげでチートな成長が促され、紆余曲折はありながらも異世界生活を満喫するために生きて行くことになる。 *この作品は「カクヨム」様にも投稿しています。 **週1(土曜日午後9時)の投稿を予定しています。**

処理中です...