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第4章
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しおりを挟むりらは、自分の死を受け入れた。すんなり受け入れたのは、それどころではなくなったからだ。
「どうやったら、あなたたちの世界に着ける?」
「この状況でたどり着けるわけがないだろ。この車は、あんたが……あ、いや、りら様が行きたいところに向かってる。王族専用の車だ。俺の行き先なんて向かってくれやしないんだ」
(王族)
彼は、もはや絶望しきった声をしていた。りらは、王族という単語に苦笑していた。自分が、何者かをようやく知った気がする。
(この人は、気づいてないみたいだけど、ミハイルが必死にこの10何年も隠していたことをポロッと教えてくれてるわ。まぁ、薄々気づいていたことだけど)
りらは、それをどうこう言う気はなかった。それより、今問題なのはたどり着くことだ。
「行くしかないわ。私は、戻れない。存在できるのは、父さんたちの居る世界だけ。あなたは、この車から降りたら、自力で帰れたりするの?」
「無理だ。この車から出たら、存在できない。それどころか。開けたら、最後。あんたも存在できなくなる。ここは、狭間だ。こんな酷い狭間なんて、見たことない。りら様の思考が迷走しているからだと思う」
(迷走。確かにそうかも)
りらは、どうしたものかと考えることはなかった。
「なら、一蓮托生ってことね。知ってると思うけど、私はりら。あなたの名前は?」
「……こんな時に自己紹介すんのか? あ、いや、なさるんですか?」
「無理やり敬語にしなくても、話しやすいものでいいわよ。じゃあ、誘拐犯って呼ぶ。それか、勘違い男」
りらの言葉に目を大きく見開いていた。どちらも嫌に決まっている。
「……フィロン・ラリスだ」
「初めまして、生き残るために知恵を絞って、そして貸して」
「生き残るつもりなのか?」
「そのつもりよ。こんなことで、死んでられないわ。私が死んだせいで、あなたたちの世界まで滅ぼしたとしたら、とんでもない悪女じゃない。私が、行ったこともない世界を滅ぼしたなんて絶対に嫌よ」
(たとえ、私が完全に死んでも、最悪なことだけは回避しなきゃ)
りらは、フィロンと名乗った青年ににっこりと笑った。何を考えているかを言葉にすることはなかった。
笑顔のりらにフィロンは目を見開いて驚いた顔をして顔を俯かせた。
「?」
「……怒らないのか?」
「怒っても、ここから出れないでしょ。起こってしまったのを正すしかない。一緒に考えてくれる? あなたを家族のいるところに帰す。病気の原因がわからないから、何とも言えないけど。私にできることがあるなら、それも頑張る。だから、私を死なせないで」
「この状況でも、俺の家族や病気の奴の心配してくれるのか?」
「するわ。病気の人がいるのも気になるもの。……まぁ、そんなこと言って、何もできることないかも知れないけど」
(私のところにこんな風に来るくらいだもの。よほど、切羽詰まっているはず。……どんな対処の仕方をしてるか知らないけど。上手く回っていないのは明らかね)
そう思ってしまったが、病気の状況がわからないのだ。医療従事者でもない。りらにできることなんて、ほとんどないかも知れない。
「手を握るとか。ご飯を作るとか。あ、家事全般は得意なのよ。病気を治せるかとかは約束できないわ。口約束でも、できるかわからないことを軽々しく約束できない。でも、私ができることをやるって誓うわ」
「っ、」
フィロンは、りらの言葉に泣きそうになっていた。
「ごめんなさい。今は、それくらいしか約束できない」
「いや、それで十分だ。りら様は、絶対にあの世界にたどり着かないと駄目だ」
「様付けなんてしなくともいいのよ」
「そう呼ばせてくれ。あんたは、いや、あなたは、我らが姫君だ。本当にすまない。俺は、自分の家族のことしか考えてなかった」
りらは困った顔をした。それまでの態度以上にフィロンの気持ちというか。心が変化したようだ。
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