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第4章
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しおりを挟むりらは思わず聞き間違いかと思って聞き返していた。
「死んだ……?」
「そうだ。母親と恋人と一緒に乗っていた車で事故に合っただろうが!!」
「っ!?」
りらは、その言葉で全てを思い出した。思い出そうとしても抵抗していたのは、現実を受け入れたくなかったからのようだ。
(そう、確か、高校の時に付き合っていた人で、すぐに別れた人だったっけ。それが、母と付き合いだしていたのよね。私のことを言葉巧みに呼び出して、誘拐したことにして身代金を父に出させようとしたんだっけ)
りらは、それを忘れていた。都合よく、痴話喧嘩の末に母親と恋人と元恋人の女性がりらのふりをして身代金を取ろうとして揉めたと思っていたが、あの車に乗っていたのは、自分自身だったことを思い出した。
それは、あまりにも酷い出来事だった。
車に乗せられて、見たことあるような男性に白けた顔をしてしまった。
「……母さんと付き合ってるの?」
「あー、金が入るって言うから。それより、凄い金持ちのパパがいるらしいじゃん。何で言ってくれなかったんだよ」
「何で、そんなことわざわざ、あなたに言うのよ」
「付き合ってたのに酷いな」
「数日でしょ。しかも、お試し。付き合ってみてから考えてくれってしつこくするから。あんなの付き合ったなんて言えないわ。割り勘どころか。お金出させようとばかりして、その癖、自分が全部出しているみたいに周りに言うんだもの。もっとも、みんな、あなたがどういう人かを知ってたから、見栄張ってるのバレバレだったけど」
「は? んなわけないだろ。嘘つくなよ」
男は、ムッとして怒るのもすぐだったが、りらは大して怖いと思っていなかった。
それを見聞きしていた母は、物凄く驚いていた。
「は? りらが、別れたがらなくて大変だったって言ってたじゃない!」
「あー、記憶違いってやつだな。りら、誘拐されたって言って、パパのとこに連絡して金出してもらってくれ」
「は?」
母が止めてくれるかと思えば、こうなったらとばかりに金を搾り取ることに躍起になっているようだ。
そんな2人にりらは、ショックを感じずにはいられなかった。そして、あまりにも似た者同士なことに頭を抱えたくなった。
(こんなところで、そっくりな人を見つけなくてもいいのに。厄介なのが2人になったわ。高校の頃、面倒くさくなって、お試しなんてしたせいで、こんなことになるなんて思わなかったわ。たった、数日で彼氏面されるなんて信じられない。それを聞いて、付き合ってる母さんにもびっくりだわ。最低度合いが増してるわ)
そこから、口論になって男が運転操作を誤ったことで、彼と母、そしてりらも死ぬことになったのだ。
(思い出した。私は、母の葬儀なんてしていない。大学にも、事故にあってからは行けていない。だって、私は死んだんだもの。一緒に死んだのに葬儀ができるわけがない)
そこまで思い出して、騒ぎ立てる運転手を尻目に外の景色を見た。
「まずい。父さんが知ってしまったんだわ」
「は?」
「私が死んだことが耳に入ってしまったってことよ。……そう、死んだ。なのに何で、ここにいるの?」
「そりゃ、半分は人間でも半分はあちらの住人だ。ちゃんとたどり着ければ、永遠にあちらの住人でいられる」
さも、当然のように教えてくれた。それが、あちらの常識ということだ。
「それ、父さんは知っているのよね?」
「知らないわけないだろ」
「だとしても、私がここに居るって知らないのよね? あなた、私に父さんのところに行かせたがっているけど、私は父に会ったことなんてないのよ」
「この期に及んで嘘つくなよ」
「嘘じゃない。会ったことなんてない。あの家に行っても、父さんは部屋から出て来たことなんてない。私も、あの部屋の中に入ろうとする気もなかった。まだ、時期ではないから。安全が確保されるまで、私はあの世界に入ることを許されていない」
「っ、」
「って、言えばわかったみたいね」
それを聞いて、運転手は顔色をかなり悪くさせた。
「嘘だろ!? そんな話、聞いてないぞ!」
「父さんにとって、私は心臓なんですってね。その私が死んだと知られたら……」
「っ、あの世界の存在が危うくなる」
「住んでる人も、生きるのが難しくなるって聞いたけど?」
「っ、あぁ、そうだ。クソッ、そんな、あんたをあの方のところに案内させて、直接頼むはずだったのに」
運転手は、頼みたいことがあったようだ。りらは、目をパチクリさせた。
「頼むって、何を?」
「……家族が病気なんだ。他にも、病気の奴が増えた。それもこれも、あんたが、娘として父親の側にいないから気が気じゃないせいだって言われたんだ。だから、あんたが死にかけているのを連れて行けば、その礼に聞いてもらえるって言われたんだ。今のあんたと話せる奴なんて、少なくなってるからな」
それを聞いてりらは眉を顰めた。
(色々聞き捨てならない言葉が出てるわね)
「誰に言われたの?」
「貴族だ。だから、人間の世界に行った。許可は、そいつが取ってくれた。話す許可は、緊急事態だから、どうにでもなるって言われたし、あんたをこちらの住人に正式にさせられたら、みんなの病気も良くなって、罪に問われることにはならないって、そう言われたんだ」
「……」
それを聞いて、彼が嘘をついているようには見えなかった。
(許可ね。だから、普通に話せるのね。私がイライラしないし)
だが、ややこしい状況に変わりはなかった。
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