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第4章
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しおりを挟むりらが、何も言わないで怪訝な顔どころか。怒りがこみ上げて仕方がなくなっているというのにそれに気づいていないようだ。
そのまま、りらが何も言わないのをいいことに根ほり葉ほり聞いて来て、聞き出そうとするのがエスカレートしていた。彼女は空気を読むということができないようだ。いや、する気がないだけかも知れない。
「ちょっと、あなた、何なの?」
「何が?」
「りらさんが、どこで夏休みを過ごそうといいじゃない」
「大体、りらのお父さんの話なんて、誰も聞いたことないけど。りら、したことあるの?」
「いいえ。誰にもしたことないわ」
(萌音たちにはしたけど、もう随分昔のことだし。あれから、誰にもしてないのに)
りらは友達にすぐに答えた。だが、友達と認めていないどころか。名前を呼ぶことを許していない女性に冷めた表情を見せていたが、彼女はケロッとしていた。
「っ、やだな~。前に教えてくれたじゃない。忘れちゃった? あ、ほら、色々ありすぎたからじゃない?」
「したことない。あなたに名前を呼ぶことを許してもいない。そもそも、父に会ったなんてない」
親しげにしていた女性が、急に真顔になって怒り始めたのは、すぐのことだった。
「は? 何それ嘘つかないで。会ったことないわけないでしょ!」
「……」
その人は、りらが父に会ったことがないと言うと鬼の形相で怒鳴り始めた。まるで、りらが嘘つきのように会っていないわけがないと言うのだ。
(何なの? 会ったことないのが、そんなに変なの?)
こんな人に怒鳴り散らされる理由などりらにはない。大体、父のことなど彼女には関係ないことのはずだ。
「嘘なんてついてないわ」
「そんなはずない! あなたが、家に行ってるのを知ってるんだから!! 会ってないわけないわ! そんな、すぐにわかる嘘をつかないでよ」
「……は?」
(何で、そんなことを知ってるの? 気持ち悪い)
その人は、りらが父の家に行くのを知っていると言ったのだ。それにりらだけでなくて、それを聞いていた友人たちも顔をひきつらせた。
まるで、監視しているかのように言ったのだ。気味悪いと思って嫌悪感をあらわにしてもおかしくないはずだ。
(それに何で認めさせようとするの? この人には全く関係ないのに。意味がわからない)
「何、それ、気持ち悪い」
「りら。行きましょ」
「ちょっと、話はまだ終わってないわ!」
だが、りらの腕を掴まえることはできなかった。りらの周りにいる女子が、それを許さなかったのではない。りらが、触られたくなかったのだ。
「私に触るな」
その声音は、りらが今まで出したこともないほどの殺気を含んでいた。
「っ、な、何よ。怒ることないでしょ」
「名を呼ぶ許可なんて、私はお前に与えていない」
「っ、それは……」
「黙りなさい。話すことも許していない。話しかけることも、そうよ。そうでしょう?」
「っ、」
りらは、それまで人に対してそんな態度をしたことはなかった。でも、目の前の女性にはしても許されるものをその時は感じていた。りらの血肉が、無礼なことを許せないとばかりに騒いで仕方がなかった。
「どこの誰だか、知らない。知りたくもない。私が、夏をどう過ごそうとお前には一切関係ない」
「あるわ! 私は……」
「ない。私は、話しかける許可を与えていないと言ったのに黙れないようなお前にそれを知らせる必要なんてない。二度と話しかけて来ないで。私の視界にも入らないで」
「っ、」
りらは、はっきりとそう言ったのは初めてだった。殺気立つのを止められないままだった。
「聞こえなかった?」
彼女が顔色を悪くさせて、可哀想なくらい震えながらひれ伏そうとしたのを見ることなく、りらはさっさとその場を後にした。
その後、彼女を大学で見かけることもなければ、話しかけて来ることもなかった。
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