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第4章

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りらは一番最近のことを思い出そうとした。母が亡くなった後のことだ。


(そういえば、あの人、なんて名前だったっけ? あー、いや、名前なんて、どうでもいいんだけど。変な人だったのよね)


大学で夏休みをどう過ごすのかという話の時にりらは、知らない人に話を振られた。知っている人ばかりに囲まれて話していたはずだが、ふと話しかけてから、こう思った。


(この人、誰だっけ? というか、ずっといたの? 急に現れたわけではないけど、なんか声かけられるまで居たのに気づかなかった)


あちらは、りらのことをよく知っているようで、りらと同じ学科だったようだ。ペラペラと聞いてもいないことを話していたかと思えば、りらに親しげにしたのだ。

だが、りらにはどうしても見覚えがなかった。初対面のはずなのに前からの知り合いのようにしていて、不思議を通り越して、不快感を感じてしまった。そもそも、前からの知り合いならペラペラと自分のことを語る必要はないはずだ。


(変な感じ。この不快感は、前にもあったわね)


それは突然、現れた男の子の時のようだった。見目がいいのにそこにいるのが場違いな気がしてならなかった。その子と同じで、その人を見た第一印象も好きに慣れそうにないと思った。

血が沸騰するほどではないが、彼女がそこにいるのが許せなかった。人のふりをしているが、そうではない。いや、そういう人が紛れているのに不快さを感じているのではない。許可なく、そこにいることが不愉快だった。


(ここにいてはならないはず。……って、何で、そんなこと思うんだろ? 変よね。相当疲れてるみたいだわ)


そんなことを思っているとりらは、その女性に話しかけられてしまった。


「りらさん、夏休みは、どうするの?」
「えっと」 


周りは前々から知っているかのように普通にしていたので、りらは色々あって自分だけが覚えていないだけだと思った。思おうとしたが、苛立ちは残った。


(それにしても、なんか馴れ馴れしいな。話したこともないはずなのに。名前で呼ばれる仲ではないのに。親しげすぎるわ。そんなこと許した覚えはないのに)


あの男の子は存在感を消しているようで、りら以外に話しかけるところを見たことはないし、話しかけられているのを見たこともなかった。

だが、その真逆に色んな人たちと知り合いのようにしている彼女が、奇妙な感じだけでなくて、物凄くりらにとって失礼な存在に思えて仕方がなかった。


(どうして、そんなことを思うんだろ。他の人はいいけど、彼女にされるのが我慢ならない。男の子は子供だったけど、彼女は違う。そのせいかな?)


人なら許せる。それも、色々と変だが……。でも、気安く話しかけて来た人物は、そうではない気がした。そうではないのなら、人間以外の何かのはずだ。それが何を意味するのかがりらにはわからなかったが、それでも許せない何かがあったようだ。

大学で、そんなことは一度もなかったはずだ。その女性に他でも会っていたら、忘れたくても忘れられはしないだろう。あの男の子のように。


「色々あったんだもの。のんびりしたら?」


りらが言い淀んでいたら、他の友達が助け舟を出して、そんなことを言ってくれた。すると、りらが話しかけてすらしてほしくない女性は……。


「それが、いいわ。お父さんのところは? りらさんって、お父さんのところに月に何度か行って会ってるんでしょ?」
「……」
「え? そうなの?」
「それは知らなかった」


他の友人は知らないとばかりに話していたが、りらはその話を誰かにしたことは、確かにあった。でも、萌音とその父親にしかしてはいない。それ以外の人に話したことはないの。


(何で、父さんのことを知ってるの? 誰かにその話をしたことは確かにあったけど。私の名前だけでなくて、私の父をお父さんなんて、この人に呼ばれたくない。そんなこと、よくもできたものだわ)


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