与えてもらった名前を名乗ることで未来が大きく変わるとしても、私は自分で名前も運命も選びたい

珠宮さくら

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第4章

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(もう、何が正解なのかがわからない。母が死んだのも、その恋人が本命を巻き込んで死んだのも、ある意味では自業自得のはずなのに。全然、スッキリしない)


それでも、大学に何事もなかったように行った。でも、何事もなかったようには振る舞えていなかったようだ。それもそうだ。母のことで、週刊誌が面白おかしく書き立てるためにりらだけでなくて、母やあの車に同乗していた人のところに行ったようで、悲しむよりも疲れてしまっていた。身内の死を悲しむ余裕もないくらいだった。

いや、そもそも、母の死を悲しいと思っているのかも怪しいところはあったが、1人でなく車の事故だったせいとりらと同じくらいの若い恋人やらがいたことを知って、以前の警察沙汰を思い出してしまったのもあった。


(どうあっても騒ぎを起こさずにはいられない人ってことよね。そんなことで目立っても、仕方がないのに)


母のことでそんなことを思っていた。


「りら。大丈夫?」
「……」
「ちょっと、大丈夫なわけないじゃない」
「気を落としすぎないでね」
「ありがとう」


母が亡くなったことを知って大学の友人がたくさん話しかけて来てくれた。りらは大半が顔を見ても名前がわからない人が多かったが、この機会に仲良くなろうとする男子が多かった気がする。

そんな男子を寄せ付けまいとしてくれていた女子は、りらのことを思っての行動ではなかった。いいなと思っている男子が、りらとお近づきになろうと奮闘しているのをただ阻止したかったようだ。

そんな彼女たちも、りらの母が何をしようとしていたかを半分ほどしか知らない。週刊誌のネタになっていることが真実だと思っているようだ。

あの車で死んだ人たちは、痴情のもつれだけではなくて、犯罪を犯そうとしていたことを知らない。まぁ、そちらは未遂だったが、痴情はもつれにもつれていたことまで知らないはずだ。


(全部を知られなくてよかったと思うところだけど、娘と同じくらいの恋人に逆上せあがっていて、その男からは金づるとしか見られていないなんて知られたら、もっと大変だったはずよね)


りらは、そんなことを思っていた。やはり、何をしていてもスッキリした気分になれることはなかった。それどころか、身体が疲れをためていく一方のようになっていた。


(休んだら、楽になると思っていたけど、日をおうごとにしんどくなる。こんなの初めてだわ)


どんよりとして、疲れきった顔を隠しきれずにりらはいた。化粧で誤魔化せなくなっていた。

そんなりらに父のところに来ないかと連絡が来た。あちらは母の葬儀のことを知っていたのか。知らなかったのかはわからなかったが、疲れ切った声音で応対するりらに日帰りではなくて、しばらくは父のところで過ごしてはどうかという提案をしてくれたのだ。それにりらは驚いてしまった。


(それを向こうから言われるのは初めてだわ。泊まるなんて考えたこともなかった)


「夏の間、いてもいいと?」
「それ以上でも構わないそうです。全ては、りら様がなさりたいようにして構わないと」
「……私のしたいこと?」


りらは、それを聞いて首を傾げたくなった。これまで、夏の間いてもいいなどと言われたことはないのだ。それどころか、夏はあちらが忙しいからとずっといるのは迷惑のような感じを受けていた。

それが、今回は真逆のことを言われた。すぐにいつもと状況が違うせいだと思った。


(母さんの葬儀にも出て来なかったけど、知らせがうまくいってなかったみたいだし、娘の私のことは気遣ってくれてるってことでいいのよね?)


父がそうしろと直接言っているのを聞けたら疑うことはなかった。いや、言ってくれていても、本心かどうかを見極めることになるから、腹の探り合いに終わりはないが、それでも今までと違うことが起こったことにりらは良いように捉えたかった。それ以外のことを考えたくなかった。

それだけ、りらは傷ついていたようだ。母のことで、いい思い出が何一つ思い出せない。というか、ろくな思い出がない。むしろ、散々な目にあって、迷惑をかけられまくっていた記憶なら、無理に掘り起こさなくとも出てくる。それでも、母親だと思っていた。いや、母は母なのだと思わされていたというか。刷り込まれていた。

母の言葉にりらは、ずっと従うしかなかった。従った理由は簡単だ。あの人のことが物凄く怖くて、逆らうなんてことができなかったのだ。幼い頃から刷り込まれたものがあったのだ。

そして、その怖い顔が母だけでなくて、その両親である母方の祖父母やその親戚たちも、りらには怖く見えてたまらなかった。

でも、祖父母が先に亡くなり、母がその時、どこにいて何をしていたかを知ってからは、りらは親戚たちから色々言われなくなった。言うより無視されるようになっていて、母の葬儀の時は世間体を気にして葬儀にも来ない人たちばかりだった。


(薄情な人たちよね。そういうところ、本当にそっくり)


りらは最悪な葬儀は、祖父母の時だと思っていたが、その上があるとは思ってもみなかった。上には上がある。そんなことを知りたくなかった。


(もう、最悪な目には、もう早々あわないわよね)


でも、それがフラグになるとは、りらは思ってもみなかった。


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