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第4章
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しおりを挟むあの頃のりらは、そんなことを思って不思議そうに母を見ていた。りらは、案内されるまま移動したが、母は一目散に父のところに向かっていた。
案内してくれる人にちんたら案内されたくないと思ってのことのようだ。
先に向かっていたはずなのに気づくと左右の横道から母が現れて、りらの前をしばらく歩くとまたすぐに違う方に曲がって行くのだ。
(なにしてるんだろ?)
りらの前を歩いて案内する人は、素知らぬ顔をしていた。
(あれは、おかあさんよね? ドッペルなんちゃら??)
幼稚園に通っているりらは、ドッペルゲンガーを全部覚えていなかった。気のせいだったかと思っていれば、そうではなかったようだ。
またりらが小さな歩幅で歩いていると母がイライラしながらりらの前をしばらく歩いて、横道にいなくなるのだ。
(わたしのこと、みえてない……? それとも、あれはみえてはだめなもの?)
振り返ったり、りらの方を母が見ることはなかった。まるでいないかのように前だけを見て歩いていた。
たぶん、母は近道をしているつもりだったのだろうが、りらには近道をしているようには全然見えなかった。むしろ、遠回りしているようにしか見えない。
(あんないしてもらったほうが、はやいきがする。わたしのばいいじょう、あるいていそう。よく、つかれないな。ふだん、うんどうしてないから、あした、たいへんそう)
奇妙なことになっているのを見ながら、りらは幼いながらもそんなことを思った。言葉に出したつもりはないが、前を歩いて案内している人が吹き出していた気がするが、りらの考えがわかったのではなくて、母の頑張り方に笑っていたのだと思っていた。
そして、りらが案内された部屋の隣が、父のいる部屋だったようで、母が騒ぎ立てる声が響き渡って、うんざりするのはいつものことだった。
そう、あんな奇妙な目に母はあっていても、気づくことなく、りらがゆっくり歩いても、早く歩いても、母が父のところに着くのはりらが、部屋に辿り着くのに変わりはなかった。
そもそも、怒鳴る母の声を聞いて、こう思った。
(そんなにどなってたら、わたしだったらでてこないな。でてきて、あんなこわいかおしているひとをわざわざみたくないもの)
母が父に会うために頑張っているというのに応援する気になれないりらは、そんなことを思っていた。
すると部屋まで案内してくれた人が、笑っていた気がする。
(わらいじょうろ)
幼稚園に通っているりらは、笑い上戸を間違えていたが、それに気づくことはなかった。可愛い間違いだが、その言葉の意味合いを知っているだけでも凄いはずだ。間違えている単語が、別の意味合いを持ってしまっているが、りらが何を言いたいのかは伝わるはずだ。
そして、笑いのツボにハマったようにしている案内人は、笑い過ぎたのか。疲れた顔をしていることも、よくあった。その時だけではなかったはずだ。
そんなことになっている根源のはずのりらは……。
(わらって、つかれるひともいるんだ)
そんなことを思ったが、その人が何か言ってくることはなかった。間違っていると指摘されることはなかったことで、笑われていた理由に気づくことはなかった。
そして、りらが母に自分が見ていたことをそのまま言うこともなかった。母と一緒になって、父に話しかけることもしなかった。ただ、母が今日はここまでだと帰ると言うまで、ひたすら母の怒鳴り散らす声を隣の部屋で聞いているだけだった。
(これ、いみがあるのかな……?)
りらは、何をしているのかがわからなくなって、そんなことを思ってしまった。
そもそも、父はそこに居るふりでもして、他からりらに会えるようにしていれば、りらが隣の部屋に毎回案内されるのもわかるが、それすらなかった。
(そういえば、幼い頃にそんなこと思ったことがあったっけ。本当よね。あれに意味があったのかしらね)
りらは、そんなことを思って首を傾げずにはいられなかった。
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