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第4章
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しおりを挟む(こんな風になったことあったっけ? なかった気がするけど。……わけがわからない)
そんなりらの顔色は、物凄く悪くなっていたが、運転手はりらに話しかけることはなかった。見るからに具合が悪そうなのにそれをすることはなかった。
そして、りらも車を運転してくれている人物がいることをすっかり忘れていた。
まるで、自動運転がなされている車に乗っているかのように誰かが同じ空間にいるとは思っていなかった。
それよりも、りらはすぐに別のことを気にし始めた。頭痛や気分の悪さを紛らわせる唯一の手段のように記憶を探った。
母が言っていたことだが、昔それを聞いた時も思ったが、あれから十年以上経った今、思い返すと疑問がいくつもあった。
頭痛が酷い今になって色々気づくのだから、その時に色々気づいてもよさそうだが、そこに行き着かなかったようだ。それが不思議でならないが、たぶん、昔のりらはどうでもよかったのだろう。
(そもそも、母さんなら引く手あまたまではいかずとも、それなりに手八丁口八丁で将来が有望な人を掴まえそうなのよね。それなのにどうして、父さんを選んだんだろ? それを自分がいないと駄目だと思って追いかけて行って結婚したなら、顔がイケメンだったとか? お金には全く困っていない人なのは明らかだけど、贅沢三昧するために利用してたってこと? 母さんは、父さんの何を見て、グイグイいったんだろ?? 運転手付きの送迎を見ていたからって理由だけで、父と結婚するのは変な気がする。お金があるって、どこで察知したんだろう? お金の使い方を知らなかったから? 日本の通貨に疎いだけとは思わなかったのかしら? 外国暮らしが長いとかなら、そういうこともありそうだけど)
だが、母は冴えない人と散々言っていた。イケメンだったら、冴えないなんて言うはずがない。金目当てならば、まだわかる。いや、わかると言うのも変かも知れないが、母はそういう人だ。
打算的で、勝ち組であり続けることに祖父母と同じく拘っていた。それなのに父と結婚したことが今更になって、不思議に思えたのだ。
養育費はかなり出ていたようだ。りらのために使ってくれてはいなかったようだが、母と祖父母が時々贅沢するのには困らなかったようだ。
その分、りらは使用人のように扱われ、母や祖父母の残り物を食べたり、大したおかずもなく、もやし料理のバリエーションを増やしたりして凌いだりしていた。
それも、祖父母が亡くなって、1人暮らしをするまでのことだ。給食がない高校でお弁当もなく、昼を買うお金もなかったのだ。そうなれば、りらは倒れていたに違いない。
かといってバイトをしても、そのお金を家にいれろと言われることになったはずだ。それがなくなってよかったと思うし、1人暮らしを始めて生活費がりらの手元に直接入るようになって、驚いてしまった。
(あれが、1か月分とは知らずに数ヶ月分だと思ってたのよね。マンションの家賃は、支払ってくれてたのに1人暮らしの高校生が、どのくらい使うと思っていたんだか。大学生になったら、増えていて、それにもびっくりしたっけ)
どうやら、父の金銭感覚がずれているようだ。いや、父の周りにいる人の感覚がおかしかったのかもしれない。あるいは、その両方かもしれない。
(まぁ、そのお金で母の葬儀の手配やら色々な支払いができたからよかったけど。使いこなせなくて逆に困っていたのよね)
だが、あちらは支払いがまだだと思っていたようで連絡をよこした人は驚いていて、その説明をりらがすると初めて知ったかのような反応をしていた。
いや、そもそも母の葬儀が終わるどころか。葬儀があったことに驚いていたようだった。
(もしかして誕生日とかも、あのお金で好きなのを買っていいってのもあったとか? だとしたら、母や祖父母が好き勝手に記念日だからって散財してたのは、私の養育費だったってことよね?)
りらは、そんなことを思ってしまい、今度こそ頭を抱えた。お金について何のお礼も言わなかったのに父の方は、減らすことをしなかった。それどころか、増やしたのだから、母たちが豪遊しまくった影響は出ている。
(それって、私のことを気にかけてくれてたからってことになるのよね? じゃなきゃ、減らすか。なくしているわよね?)
そんなことを思うとりらの頭痛も、気持ちの悪さも急速に減った気がした。
でも、そんなにお金があることを母が、第六感のようなもので感知していたとしたら、それに驚かずにはいられない。恐ろしいとすら思ってしまう。
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