与えてもらった名前を名乗ることで未来が大きく変わるとしても、私は自分で名前も運命も選びたい

第４章

２１

母の一方的な話の中ではなくて、周りに時折、食事会をするのに現れる母の友人知人が、両親のことでこんな風な話をしていたのを聞いた気がする。

りらの両親のことをよく知っている人たちで、りらを連れて行くと娘がとてもいい子だと褒めちぎるのにりらの母は鼻を高くしていた。

もちろん、子供はりらだけではない。他の子供たちもいたが、その中でもいい子に見られるようにりらがしていたせいで、褒められているのもあったが、それだけではなかった。


（娘は、凄くいい子だって言われているのもあったのよね。母は自分が育てているからだって勘違いしていたみたいだけど、内心ではあんたの子供にしては凄くいい子って皮肉られていたのよね）


そんなことを思い出して、りらは苦笑してしまった。褒められていると図に乗るところがあるのだ。子供のりらでもわかってしまったことを母は、わからずに喜んでいた。

せっかく、気分よくなっているのにわざわざ本当のことを言うつもりはなかった。言ったら、怒られるだけで信じるはずはない。そんな母の機嫌が良いままなことをりらは願わずにはいられなかった。機嫌さえ良ければ、りらに害はほぼない。

あの食事会は、中々よかった。りらが好きな物を頼んでも母は何の文句すら言わない。周りに知り合いが居ないとりらが食べれるものは、一番安いものだったが、そのうちそういうところに行く時にりらは連れて行ってもらえないことも増えたが、その頃は違っていた。

そうなっていくとは思いもしなかった。割と最初の頃の話だ。つまり、りらが幼稚園に通っていた時の頃だったはずだ。

父は、代々の仕事を引き継ぐので忙しいからと母との結婚は無理だと拒んでいたのだが、それを父の生家まで追いかけて行って、父のようなのを面倒見切れるのは自分くらいしかいないからと結婚しろと門前で怒鳴った挙げ句、そこから逆プロポーズをしたらしいようなことを耳にした。見ていたわけではないようだが、母が自慢した中にでもあったのだろう。


（あれ？　違うか。母さんの友人や知人からではなかったかも。凄く迷惑することをして、門前で怒鳴り散らして恐ろしかったって言ってたから、父の知り合いだったかも。何だっけ。死んでやるとか騒いでいたんだっけ？）


その話してくれたのは、りらが父の家に行った時に相手をしてくれていた人物が話してくれた気がする。

そこに行き着いてりらは、眉を顰めずにはいられなかった。頭痛が酷くなった気がして、頭を抱えたくなったが、それはせずにこめかみ辺りを手で揉んでやり過ごした。


（これも、父のところに行こうとしているから？　あそこに行こうとしているのは、間違っているの？　ううん。間違いうんねんより、私にとって負担になっているってことになるのかも。……そんなつもりないのに。こんな風になるくらい私は、堪えているってこと？）


だが、あれこれ悩んでも引き返すということをりらはしなかった。したら、二度と父のところには、父の住んでいるあの家には行けない気がした。父に会うことはできずとも、あの家に二度と行くことが叶わない不安がついて回った。

そんな不安をどうして感じるのかがわからないが、車を少し止めてくれと頼むこともしなかった。それすら、やっては大変なことになる気がした。