与えてもらった名前を名乗ることで未来が大きく変わるとしても、私は自分で名前も運命も選びたい

珠宮さくら

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第4章

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萌音と散々な別れ方をした後で、りらは父のことを気にしてないふりすら、難しくなっていた頃に声をかけられたことがあった。

あれは、りらが小学生の高学年になった頃だったと思う。幼なじみで唯一の友達と会えなくなったことで、りらの中でぽっかりと穴が空いた気がしていた。

それが、どうやったら埋まるのかがりらにはわからなかったが、それでもりらは母たちの前で何もなかったかのように普通にしていた。普通にできていたかは怪しいが、母と祖父母はりらを置いて旅行に行ったりも平気でしていたから、気づかなかったようだ。

大事な友達が引っ越して行ったのにさよならも言わせてもらえなかったりらの落ち込みようは半端なかった。引っ越すことも直接、教えてもらえなかった。それどころか、引っ越し先の住所も教えてもらえなかった。

もう、今後一切の連絡をしてくるなと言わんばかりにされたのだ。してこないでくれと萌音に言われたわけではない。そうしてほしかったのは、萌音の両親だろう。

それにショックを受けないはずがないが、それをきちんと悲しむことも、りらにはできなかった。

そんな時に出会った子供がいた。


「気にすることないよ」
「……」


同い年くらいの男の子が、りらに話しかけて来たのだ。同じようなことを萌音に言われたことはあったが、それとは比べものにならない程、その子の言葉は違って聞こえた。


「あんなこと言ってる大半が、旦那と上手くいっていない」
「……」
「あぁやって集まっては、誰かを吊るし上げる。君のお母さんが入ったら、居ない人が標的に変わるだけで、自分もされているって自覚がないんだ」
「……」
「それを知ったら、凄く怒るのに他人がされても笑ってられるし、全く気にしない。だから、できる。人間なんて、そんなのばっかりだ。馬鹿な人間が多すぎる」
「……」


りらも年齢よりも大人びたところがあったが、その男の子は更に年上のように見えた。同い年の子供の中でも、萌音は可愛らしい女の子だった。言ってることは辛辣で毒舌なことも多かったが、それでも猫撫で声で愛想よく嘘をつくなんてことはなかったし、気に入られるために媚を売るなんてこともしなかった。

でも、その少年は見た目がいいはずなのにそう見えなかった。中身が、人間とは違う異質なものに見えて仕方がなかった。いや、中身が人間ならざる者でも、別段りらは気にしない。

でも、その子供は人間をこき下ろす言い方ばかりしていて、それについてりらに同意を求めて来るのが多かった。


(この子、自分は人間じゃないみたいに話すわね。自分は、あの人間たちとは違うなんて言い方、萌音ならしなかった。この子の言い方は、自分は人間よりも優れているって言いたいのがまるわかりだわ。人間が一番偉いともするは思わないけど、この子が一番偉いとも思わない)


りらは違和感のようなものを強く感じてしまった。母と祖父母にすら、そんなことを思ったことはなかった。

その男の子だけ、見た目が人間のようにしているが、何かが違う気がして仕方がなかった。いや、違っていてもいいのだが、彼の言い方や考え方にりらは虫唾が走って仕方がなかった。

人間っぽくしている人に他でも会った気がするが、その人とも比べられないほど、その子供に嫌悪感を抱いて仕方がなかった。そこに居てはいけない何かな気がした。


(母たちよりも、ゾワゾワする。この子、好きになれそうもないわ。好きになるどころか。物凄く嫌いだわ。何で、こんなところにいるのかしら?)


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