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第4章
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しおりを挟むりらの父の父の父の……かなり前の、そう、何代か前の人が残した山奥に初代の人が、それは見るからに豪華な屋敷を建てた。かなり年数が経っているはずなのに傷んでいるところは、りらの見えるところには一切見えなかった。
それこそ、あの辺、一体が私有地らしいがりらが子供の頃に見渡す限りがそうだと教えてくれたのは、母ではなかった。
それを母たちが知っていれば、離婚した時に遺産をもっと踏んだくっていたはずだ。部屋にこもって、父は仕事をしていた。それを引き継ぐのが、父の役目だったようだが、何を引き継いだのかをりらは知らない。母も、よく知らないようだ。
母はそんな父とどこで出会ったのかは本当のところわからない。大学で母が父を見かけて以来、自分がいないと死んじゃいそうだと思ったとか何とか言っていた。そこから、猛アピールをしたようだ。母のことだから、しつこかったに違いない。それでも、父は母のしつこさに負けることなく、付き合うことはなかった。
その辺のことは母はいつも曖昧に話していたが、その辺をよく知っている人いわく。母が濁していたところも、面白おかしく話していた。
「あれは、ただのストーカーだったわよね」
「毎日、⚫くん、運転手付きの車で送迎されてたから金持ちだと思ってたのよ。現金を使い慣れてなくて、コンビニで買い物するのにももたもたしているの見たことあるもの」
「そうそう。普段、カードで支払いしていたのが丸わかりだった。必死に庶民っぽくしていたけど、全然庶民ではなかったのよね」
「彼女、玉の輿をずっと狙ってて合コンでも、そういう人を探してた。それが、ロックオンするとこっちが恥ずかしくなるくらい、場の雰囲気そっちのけでアピールするから、嫌だったのよね」
「庶民っぽく見せようとしてたから、そこを見られててロックオンされたのね」
大学の頃の母の知り合いの会話をたまたま聞いたりらは、母らしいと思うばかりだった。それが、本当にあったことかは怪しいところもあったが、大体はそうだったのではないかと思っている。
母の話すことよりも、あったことに近いはずだ。母の脚色は自分に都合よすぎることが多すぎた。
そこから、大学を卒業した母は物凄く焦ったようだ。卒業したと同時にプロポーズされて、結婚するのが母の人生プランだったようだ。
そうならない現実に焦ったようだ。父を追いかけて、住んでいる家をつきとめて、逆プロポーズの果てに結婚して、りらが生まれたのが真相のようだ。
最初の頃は、恋愛ドラマみたいな出会い方と恋の落ち方をしたかのように目をハートにしてりらに語ってくれていた。聞いてもいないのに母は、ペラペラと娘に話していた。
それが、そのうち父への愛情がなくなって、憎くてたまらなくなったかのようにそれまでの語り口と変わってしまうのも、りらはしっかり覚えている。感情と気分で脚色されるのは、いつものことではあったが、そんな話を聞かされても困る。
(出会いから間違いだったと思うのは勝手だけど、向こうから言い寄って来て仕方なく付き合ってあげたって、話しだったのに大きく脚色されたものよね。何を話して聞かせていたかを覚えてないってことになる。話して聞かせたことを忘れてるのによね。聞いてた私がちゃんと覚えてるのも変だけど。真面目に聞いてなくてよかったのよね。抜き打ちテストなんてなかったわけだし)
夢の中で、さらなる夢を見て勘違いしていただけの乙女が運命的な出会いから、結婚。りらが生まれるまでは、いい話みたいになって語っていたが、全くいい話ではない。
それを語っている間、自分に酔っているように見えた。でも、その頃の母はりらが黙って聞いているふりをしていれば、問題はなかった。
そこから、母のような引く手あまたな女性の自分が父のような冴なさすぎる男を選んでやったみたいに語ることに微妙なようで、明らかにバレるような変化をした。母の心境の変化が、ばっちり投影されていた。
そして、気づけば父のことを悪く言い始めるのだ。上手くいかなくなっていくのに比例して、散々なまでに父のことを娘の前で平気で罵倒する。
お酒を飲んでいる時は、特に酷かった。饒舌になって、罵るレパートリーが増えるのだ。
母は父が一方的に変わったかのように言うが、どう聞いても一方的に変わったのは母だとりらは思っていた。
私的に言わせてもらえば、母の愛が勝手に盛り上がって、勝手に静まって、勝手に恨み辛みに変わったようにしか聞こえなかった。そこに至るまでかなりの月日が経ったが、母の周りの人たちもりらと同じように思っているようだった。
「よく言うわよね。冴えないのは、よく覚えてるけど、つきまとっていただけなのに」
「本当よね。物凄くしつこくしていて、あちらが根負けして、結婚したようなもので、運命的なものなんてあっちは感じてなんかなかったはずよ」
「迷惑そうにしている顔しか覚えてないわ」
母の知り合いは、そんなような話をしていた。それを聞いたりらは……。
(やっぱり、そうなんだ。迷惑を回避したくて、結婚したのなら、私は生まれる前も後も、好かれてるわけがない。母を黙らせるために結婚したのなら、私は丁度よかったのかも知れないけど。子供がいたら、大人しくなるとか思ったのかも。全くそうはならなかったから、げんなりしてそう。……私なら、そう、私なら他所にその迷惑が移ったのなら、それはそれでありがたいって思うかも。でも、身内や大事な人に向けられるなら、回避しようとするけど。……父さんには、あてはまらないってことよね)
どう考えても、それが答えのように思えてならなかった。
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