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第4章
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しおりを挟む(久しぶりに行こうとしているから? それとも、今の私には資格がないってこと? もう、わけがわからない)
そんなことをりらは思ってしまったが、その意味がりらにはいまいち理解できなかった。
りらは父に関して思い出すたび、ネガティブなことをよく思うようになっていた時期があった。
本当は、会いたくないほど好かれていなくて、むしろ嫌われているのではないか、とか。
会う約束をしていても、きちんと守ってくれた記憶がないせいで、物凄く嫌われていたのを知ってしまって、その辺のことを覚えていたくなくて、あの家でのことが曖昧で思い出せないのではないか。
そんな厄介な存在に会うよりも、深く知らないまま、仕事の方を優先しようとし続けた、とか。
でも、萌音とその父親の言葉で、それは勘違いだとも一時期、思っていた。
でも、他にもそう思う理由があったのを思い出してしまった。その話を萌音たちにしたことはない。それをしたら、まともに愛されていないことを知ることになると思ったのだ。
それが、どんなに素敵でも、わかりあえているようで親子で側にいても、心の距離が遠いこともあることを知ることにもなった。
(私は、萌音に言えなかったこともあった。それを話していたら、彼女はまだマシって私のことを可哀想がっていたのかな。私は、そんな風に比べられても、萌音が安心するなら……。あー、でも、そんなことを平気でする萌音とは仲良くできないかも)
りらは、父から誕生日にプレゼントが届いたことがなかった。クリスマスにも、お年玉も、父からの贈り物が一つとしてりらの手元に届くことはなかった。
大切にしていて、愛してくれているのなら、プレゼントがなくとも、手紙の一つでも寄越してくれてもよかったはずだが、それもなかった。
いや、本当はあったのかも知れないが、母と祖父母がそれを渡さなかった可能性はある。そうだとしたら、お礼の一言もない娘にあちらは嫌われているとか。いい印象を抱くことはなかっただろう。
それが原因で、父娘の関係がぎくしゃくすることになったとしたら、恨むべきは全てそんなことをして遠ざけようとしていた人たちに向けるべきだ。
りらとしては、そうであってほしいところが大きかった。恨む相手がいるのなら、父ではなくて、母と祖父母であってほしかったのは、りらにとってとっくに答えが出ていたことが大きかった。でも、それをりらは気づかないふりをした。
だって、母も、祖父母も、りらにそういったものをくれたことがなかったのだ。
それにあの家まで行っていたのだ。1人で行っていた時にプレゼントを渡そうと思えばできたはずだが、それもなかった。
(そもそも、一緒に住んでいても、そういうものがない人たちだったのよね。娘や孫に何もしないって、変よね。おめでとうの言葉も、他の人がしてた時についでのようにしてた。それがないとあの人たちから、おめでとうは聞けなかったのよね)
自分たちの誕生日や敬老の日。母の日には、高価なものを買っているのは知っていた。普段から、好きなものを食べて着ていたが、それよりも記念の日だからと奮発していた。
その出所が、父からのりらに対しての養育費だったようだ。そのお金で、あの人たちは好きな物を食べて、旅行にも出かけていたが、りらはそこに連れて行ってもらったことがなかった。
それこそ、母と祖父母はそれぞれに出かける予定を立ててりらを1人置き去りにして帰って来ないこともあった。
(生活費をまともに渡しもしないで、家事全般させて使用人みたいにこき使うし、置き去りにするんだもの。最低な保護者がいたものよね)
りらは、もう亡くなっている人たちにそんなことを思ってしまった。
そう思ってしまうのは無理はないはずだが、そういう人たちと長らく暮らしていたせいで、どこがどう変でおかしいのかがわからなくなっていた。
それが、りらの日常だったのだ。普通がわからなくなっても仕方がないとも言える。必死にりらが普通にしようとしても、普通を知るのは母たちからではなかった。いつも周りからだった。
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