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第4章
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しおりを挟むこの時のりらの周りにいたのが、母と祖父母だけだったら、とっくに父のことを悪者にして、叶える気のない約束をしているようにしか見ていなかっただろう。
それこそ、母たちに嫌われたくなくて、同じようなことを言っていたりもしていたかも知れない。そうすれば、母や祖父母に好かれるいい子だと思われるために何でもする子供だったら、そうなっていただろう。
でも、りらは同じになりたくなかった。それだけは譲れなかった。だから、同じではなくて、普通を選んで過ごそうとしていたりもしたが、萌音だけでなくて、彼女の父親も理由があるのではないかと言ってくれたのだ。
才能うんねんで喧嘩して、おかしな頼みをりらにする前までの彼女の父親は、りらが羨ましくて仕方がない理想の父親そのものだったこともあり、父親としての言葉にはそれなりの重みがあった。その言葉によって、りらの考えはだいぶ柔軟に変化していた。
そこから、周りが何を言おうとも、りらが父の家に行く約束をしないなんてことはしなかった。そこだけは、祖父母や母の顔色を伺うことはなかった。
それも、りらにそんな余裕がなくなるまでのことだったが会えなくとも、父のところにどうしても行きたいと思うことはなかった。
(父に会う約束じゃないって気づけたのも、萌音たちの言葉があったからなのよね。あの家に行く約束しかしてなかったんだもの。会える約束をしようとしたら、大変だったのでしょうけど。……今回も、そう。長居してもいいって言われたけど、直接ではないのよね。私は与えられ部屋から出ない方がいいのかな。泊まれるようにしてくれてるなら、どんな部屋だろ。父さんの邪魔にならないところがいいな。物音に気を遣わなくてもいいし。会えるかもってドギマギしなくてもいいし)
ふと、過去のことを考えながら、そんなことを思ってしまった。もはや、会わないように気を遣うかのようになっていることにりらは気づいていなかった。
それこそ、必死になって父の邪魔をしないことばかりを考えていて、気の遣い方を完全に間違えていた。
(まぁ、今あれこれ考えるのはやめておこう。到着すれば、駄目なことは真っ先に言われるはずだし。……あー、私の方から聞くべき? いや、でも、しばらく居させてもらうのにそんなことガンガン聞いたり、言ったら、その後、居辛くなるか。部屋で、のんびりしてればいいか。あそこには、追いかけ回す人たちも来ないだろうし)
そう思って、車窓から見える景色が徐々に美しいものになっているように見えたが、まだりらにとって心奪われるような景色とは程遠いものだった。
いや、それどころか。偽物の美しさのようだった。本物のはずなのにどこか、嘘っぽいのだ。
りらは深呼吸して、昔のことを思い返す方に意識を戻した。そうしないとあったことではなくて、りらの望むものしか思い出せない気がしたのだ。
(私の記憶。ちゃんとした思い出。美しいものばかりじゃなかった。もっと、思い出さないと。支離滅裂で、破茶滅茶でも、私の過去だもの)
おかしな話だが、意識を瞑想するかのように深みにしずめなければ、本当にあったことを思い出せない気がしていた。
そこまでする必要がどこにあるのだろうかと思うことなく、それをりらは無意識にしていた。研ぎ澄まされた先に本当のことが隠されている。
じっくりとりらが何がしたいのかを考えるようになったのも、祖父母や母と暮らす家より父の住んでいる家の方が、りらには居心地が断然よかったことに気づけたのも、萌音たちのおかげだ。
(都合のいいようにしろって言われる連中より断然よかったのよね。……まぁ、父も、話し出すと同じようなところがあるかも知れないけど)
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