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第4章
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しおりを挟む昔のことを思い出して、そこに行きあたった。一番、心が傷んでならない思い出だ。
唯一、大事な友達以上の存在との思い出が、それなのだ。落ち込まないわけがない。あのまま、何事もなく一緒にいられたら親友になっていた。
いや、もう既に親友だったかも知れないが、そう周りに言う前に言うことが叶わなくなった気がする。
(私が萌音に出会ったせいで、あんなことになってしまったのよね。私が、私らしく、普通ではなくて、本気になった結果が、あれ)
あれ以来、りらは自分らしくいることすら上手くできなくなっていた。もはや、自分らしいことが、何だったのかすら、わからなくなっていた。
そんな時に母と一緒に父の家に行っていたのをりらだけで行くことになった。
「お父さんのところに? 私だけで行くの?」
「そうよ。あなただって、お父さんに会いたいでしょ?」
「……」
(この言い方は、私を行かせたいみたいね)
母が一緒に行っていた時から、父に会えたことはない。そもそも何で約束したりするんだろうかと思っていた。
そう、会うはずだと思っていたのにりらが待てど暮らせど、娘が待っているところに父が現れたことがなかったのだ。
最初の頃の幼稚園に通っていたりらは、こんなことをよく思っていた。
(いえにきてるのに。へやからでてくるだけじゃないの?)
りらは、そこが不思議でならなかった。父が部屋から出て来てくれないのだ。そのせいで、母が激怒して父のいる部屋に一直線で向かうことも、いつものパターンとなるのも早かった。
(まぁ、おおきないえだから、でてくるのもおっくうになるかもしれないけど。やくそくしたのにやぶるなんて……)
父の家に行くたび、今日こそは会えるかもと思うより、今日も会えないだろうと思う気持ちが大きかったが、それでも父の住んでいるところに行くだけでも数時間車に乗ることになったが、りらが今日はやめると行くのを約束している限りやめたことはなかった。
でも、母は違っていた。りらに付き添うかのように一緒に来ては、そのたび会えないとなると帰りの車の中でも散々なまでに父のことを悪く言い、それを聞くのが嫌で帰宅してからはりらは部屋に戻って、ベッドに潜り込んで耳を塞ぐのが、いつものことになっていた。
母だけでなくて、その後、それが祖父母の耳に入ると更に酷く言われるのだ。
「実の娘にすら、興味がないのか」
「可哀想に。りら、気にしては駄目よ。お前は、私たちに似ていい子なんだから。あんなのにわざわざ会うことないのよ」
「……」
りらの父親なのに孫娘の父親だというのにあんなのと言うのだ。母は、それを聞いても何も言うことはなかった。祖父母と同じようにあんなのと思っているのが顔にありありと出ていた。
まだ、小学生にもなっていないりらにとんでもない刷り込みをしていたものだ。
「それ、りらのパパがあうっていって、やくそくしてるの?」
「え?」
萌音と友達になってから、りらが父親のことを話せたのは、彼女だけだった。その彼女が、そんなことを言ったことがあったのだ。
「りらのママって、じぶんがあいたいのにむすめをつかうのをへいきでやりそう。ママも、よくやるのよ。わたしは、そんなこといってないのにひどいわよね」
「……」
まだ、仲違いすることになる前に萌音にそう言われて、父親が約束しているのが、どこまでなのかと思うようになったのも、そこからだった。
萌音の方が感動していたのは確かだ。りらの悩みにケロッとアドバイスをくれるのが、いつも彼女だった。
りらにとって、とても大事な友達だったのは明らかだった。そんなかけがえないものを壊すことになるのが、りらの持って生まれた才能になるとは思いもしなかったが、この頃は違っていた。
いつも、りらに素敵な助言をもたらしてくれていた。でも、逆にりらが萌音に与えられていたものなどなかった気がして、そのことを考えると壊すことしかできなかったことに自分が嫌になって仕方がなかった。
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