上 下
74 / 111
第4章

しおりを挟む

りらの作品を萌音の母親は、色んなところに娘の作品として、手当たり次第に応募していた。

それがわかったりらは、こんなことを思った。


(そういえば、どうせ捨てるのだから、私がサインするのも変だって言われてから、サインしてないのよね。それに萌音のサインに拘るように言っていたのよね。あれって、こういう意図があったのね。娘のサインを偽造するなんて、信じられない)


仕上がった作品を捨てているのかと思っていたが、そうではなかったのだ。捨てられていた方が、りらは良かった。

直前に先生が変わったが、前の先生はとても良い先生だった。りらが、そう思ったのは、その先生だけだった。りらがすることなすことを楽しそうに見ていてくれた。


「今日は、学校で嫌なことでもあったみたいだね」
「……わかるんですか?」
「わかるよ。ずっと、君の筆さばきを見ていたからね。せっかくの絵が、嫌な絵になりそうだとは思わないかな?」
「でも、絵を描くのは好きなんです」
「なら、楽しい気分になってから描けばもっと良くなる。丁度、萌音も退屈しているようだ。カードゲームをするのは、どうかな?」


萌音も、その先生を気に入っていた。特にこうして、楽しくなるように遊ぼうと誘われるからだろう。

そんなことをする先生だった。2人共、先生が好きだった。なのになぜ、変わったのだろうかと、りらたちは思っていた。

新しい先生はお金に目が眩んでしまっていたようだ。萌音の作品として応募する手助けをしていたのだ。サインを真似て書いていたのも、その先生だった。

母親の方は、頑張ってもうまくできずに台無しにしてしまったらしく、それからは先生まで巻き込んで、そんなことをしていた。

りらたちが一番素敵な先生は、それを提案されて拒否したことで辞めさせられてしまったようだ。それをりらたちに言えなかったのは、圧力があったからだろう。


(そこまでやる? 先生が、関わっているなんて信じられない。お金がもらえるからって、サインの偽装だけでなくて、コンクールに応募までしていたなんて……)


そんなことをしていたことに気づいた時には、色んなところで賞を取ることになっていて、萌音はあっという間に時の人になっていた。

みんなが、萌音が描いたと思ってちやほやしていた。そうでなくとも、萌音は学校の成績もよくて、家柄もよく、父親がどこかの社長をしているとかで、その界隈では有名な娘だったようだ。

そのため、萌音の名前が、他の人よりも広まるのは、とても早かった。


「ママ! 何てことしたのよ!!」
「りらを教えてあげていたのでしょう? なら、りらの作品も、萌音の作品よ」


それを耳にしたりらは、萌音の母親の言葉に苦笑していた。


(そういうことにしたのね。私が、私でいてもいいと言われたから、隠すことなくしたことで、こんなことになるなんて……。普通でなくて、本気になった結果が、こんなことになるなんて……。ただ、好きな絵を描いていただけなのに。それが、こんなことになるなんて。萌音と一緒の時間を過ごして、好きなことをしていた結果が、こんなことになるなんて思わなかったわ)


りらは、いたたまれない気持ちになってしまった。でも、りらが萌音の母親に何か言うことはなかった。

その代わりのように萌音が激怒していた。


「そんなことしてないわ! 同じ先生に習っていたのよ。私は、りらを教えてなんかない! むしろ、その逆よ。私より、できるのは、りらだもの!」
「違うわ! あんな子より、できないわけがない。あなたの方が、家柄も何もかもが、恵まれていて、上なのよ。負けるわけがないの。あんな片親が何してるかもわからないようなのと一緒にいるのも、そもそも変なのよ」
「なんてこと言うのよ!」
「事実よ。いい加減、自分の立場を理解しなさい。あなたは、あんなのと暮らす世界が違うのよ」


頑なに萌音は事実を言い続けて、母娘の喧嘩となったのを聞いているのは辛かった。りらの家庭のことを色々言われて悲しかったが、ずっと萌音はそんなこと言う母親に言い返していた。


(そう思われていたのね。何となくわかってはいたけど、このままじゃまずいわ。でも、おじ様なら、おさめてくれるはず)


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

冷遇妻に家を売り払われていた男の裁判

七辻ゆゆ
ファンタジー
婚姻後すぐに妻を放置した男が二年ぶりに帰ると、家はなくなっていた。 「では開廷いたします」 家には10億の価値があったと主張し、妻に離縁と損害賠償を求める男。妻の口からは二年の事実が語られていく。

だってお義姉様が

砂月ちゃん
恋愛
『だってお義姉様が…… 』『いつもお屋敷でお義姉様にいじめられているの!』と言って、高位貴族令息達に助けを求めて来た可憐な伯爵令嬢。 ところが正義感あふれる彼らが、その意地悪な義姉に会いに行ってみると…… 他サイトでも掲載中。

私の兄を尊敬している幼なじみの婚約者は紳士の条件を履き違えているようです。そもそも、それって紳士のすることなんですか?

珠宮さくら
恋愛
伯爵家に生まれたルクレツィア・テスタには、5つ離れた兄がいた。ルクレツィアが幼い頃は、とても頼りがいがあって優しくて自慢でもあり、周りからもよく羨ましがられていた。 そんな兄が婚約することになったのだが、そこから少しずつおかしくなっていくとは思いもしなかった。 以前の兄ではなくて、おかしくなっていった兄の方をルクレツィアの幼なじみの婚約者が尊敬していると言い出して、真似るようになったことで、益々おかしなことになっていく。 それは紳士とは名ばかりのことだったが、そんな2人のやることなすことに巻き込まれることになったルクレツィアと幼なじみは、そのおかげで幸せになれるとは思いもしなかった。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

全てを奪われ追放されたけど、実は地獄のようだった家から逃げられてほっとしている。もう絶対に戻らないからよろしく!

蒼衣翼
ファンタジー
俺は誰もが羨む地位を持ち、美男美女揃いの家族に囲まれて生活をしている。 家や家族目当てに近づく奴や、妬んで陰口を叩く奴は数しれず、友人という名のハイエナ共に付きまとわれる生活だ。 何よりも、外からは最高に見える家庭環境も、俺からすれば地獄のようなもの。 やるべきこと、やってはならないことを細かく決められ、家族のなかで一人平凡顔の俺は、みんなから疎ましがられていた。 そんなある日、家にやって来た一人の少年が、鮮やかな手並みで俺の地位を奪い、とうとう俺を家から放逐させてしまう。 やった! 準備をしつつも諦めていた自由な人生が始まる! 俺はもう戻らないから、後は頼んだぞ!

前世の祖母に強い憧れを持ったまま生まれ変わったら、家族と婚約者に嫌われましたが、思いがけない面々から物凄く好かれているようです

珠宮さくら
ファンタジー
前世の祖母にように花に囲まれた生活を送りたかったが、その時は母にお金にもならないことはするなと言われながら成長したことで、母の言う通りにお金になる仕事に就くために大学で勉強していたが、彼女の側には常に花があった。 老後は、祖母のように暮らせたらと思っていたが、そんな日常が一変する。別の世界に子爵家の長女フィオレンティーナ・アルタヴィッラとして生まれ変わっても、前世の祖母のようになりたいという強い憧れがあったせいか、前世のことを忘れることなく転生した。前世をよく覚えている分、新しい人生を悔いなく過ごそうとする思いが、フィオレンティーナには強かった。 そのせいで、貴族らしくないことばかりをして、家族や婚約者に物凄く嫌われてしまうが、思わぬ方面には物凄く好かれていたようだ。

【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?

つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。 平民の我が家でいいのですか? 疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。 義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。 学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。 必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。 勉強嫌いの義妹。 この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。 両親に駄々をこねているようです。 私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。 しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。 なろう、カクヨム、にも公開中。

嘘つきと言われた聖女は自国に戻る

七辻ゆゆ
ファンタジー
必要とされなくなってしまったなら、仕方がありません。 民のために選ぶ道はもう、一つしかなかったのです。

処理中です...