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第4章

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りらが、もっと詳しいことを知りたいと思うことはあった。父が、娘のことをどう思っているのかとか、どうして顔をあわせることすらしないのか。それを知りたいところがあった。……あったはずだ。


(誰かにそのことを聞いたことがあった気がするけど、誰だったかな? ……思い出せない)


母と父との間のことなんて、りらはどうでもよかった。愛し合っていようとも、最初からそうでなかったとしても、りらにはどうでもよかった。結婚していたのにそこに愛が一欠片もなかったとしても、りらにはどうでもよかった。離婚の時期に気を遣っていたことも、娘からしたらどうでもよかった。

ただ、父がりらのことをどう思っているのかだけが知りたかった。第三者から言われるのではなくて、父の声でどう思っているか。こんなことになっているのをそのままにしている理由を知りたかった。前まで、そんなこと知らなくてもよかったが、気になり出したのは理想の親子を見てしまったせいだ。

りらがそう思うようになったのは、萌音がパパと凄く仲良くしているのを見てからだった。あれが、父親と娘の距離なのだと思ったら、自分の状況はおかしすぎると思ってしまった。


(世のお父さんっが、みんな萌音のパパみたいだったらいいのに。私のお父さんも、あぁだったら、お母さんとは過ごしてなかったかも知れないのに。母や祖父母の最悪なところを見ないで済んでいたかも知れないのに。お父さんが、私を側に置いていてくれたら、こうはならなかったのに)


萌音はママに対してよそよそしいところがあったが、パパに対してだけは、それがなかったのだ。見ていて明らかだった。萌音は、パパが大好きだと。

それを見ていて、りらがこうなっていたら幸せに暮らせていたのにと思うことも増えた。父親が、萌音のパパのような人だと思って、そんなことを考えていた。


「パパとは似ているから、一緒にいて楽しいのよ。でも、ママは私のことアクセサリーか何かと思ってるところがあるから、好きじゃないの」
「アクセサリー??」


りらは、その意味がすぐにわからなかった。首を傾げていると萌音は、こう続けた。


「自慢できれば、それでいいのよ」
「……」


辛辣な言葉にりらはなるほどと思ってしまった。いい得て妙だが、萌音がそう思うのは無理ないと思ってしまった。りらの母も、祖父母も、そういう1人たちだ。

でも、小学生になった女の子がそんなことを言えるのだ。萌音は、大人びているどころではなかったはずだ。

そんな風に親を見ているのだとしたら、中々だ。だが、そんな風に見られていることに親の方は欠片も気づいていないのだ。どちらが、上かなんて明らかだ。


(世の中の母親って、みんな娘のことをそう見ている人たちしかいないの? それとも、私たちの周りの母親が、そうなだけ? これが、類は友を呼ぶってこと?)


りらは、そんなことを思っていた。りらも中々だったが、本人は萌音には負けていると思っていた。

でも、それでも萌音は父親に愛されている。それにりらのように母だけでなくて、祖父母のようなことを言う人もいなかったはずだ。

りらの祖父母は、孫が産まれることに反対していた。ろくでもない父親の娘であって、可愛い娘を騙した男の娘でしかなかったのだ。生まれて、ある程度、育つまでは孫だと思いたくもなかったのは明らかだ。

それでも、頑なに産むことに拘った母は、子供のためというより、子供が生まれたら父が変わると思って産んだようだ。なのに結局は、何も変わらなかったことで、母は父にようやく愛想をつかしたように思えてならなかった。とっくに向こうからは、愛想の欠片もない対応しかされていなかったのに母は、自分が先に愛想をつかしたと思いたかったようだ。

片方のことばかりをよく耳にしていただけで、父に会って話したことが、何度あっただろうか。

今更になって、そこをよくよく考えたが、答えが変わることはなかった。結局、一回もなかったのだ。

父の住んでいるところに行く約束をしていても、仕事とやらで忙しくしていて、りらが父に会うことは一度もなかった。挨拶することも、どうしているかを聞かれることもなかった。学校でのこと、友達のこと、何が好きで、何が嫌だったか。そんなことを会話することもなかった。

でも、最初の頃は、こう思っていた。会う約束をしていたのにすっぽかされたのだと。

それが、いつものことだった。守れないなら、そもそも約束なんてしなきゃいいのにとあの頃のりらは常々思っていた。会ってくれると言った癖にどうせ、今回もすっぽかされると思いながら、りらは父に会えるかも知れないと期待してしまっていた部分もあった。真実を知るまでは、そう思っていた。

あそこには、父と会うために行っているのだと。そう約束しているのだとりらは思っていた。

でも、そこがそもそも、その約束が違っていたのだ。母が、そうりらに言っていたに過ぎなかったのだ。母が、父がりらに会いたがっていると言っていたのだが、そうではなかったのだ。

母の性格なら、よくわかっていたはずなのに。それを長く真に受けていたのだ。父が、会いたがっているという言葉にりらは、浮かれていたのだろう。


(父が、私に会いたがっていたわけじゃなくて、娘をダシにして母が父に会うためにしていたのよね。そこに気づくまでに私も時間がかかったものだわ。私もまだまだ、母をわかっていなかったのよね。母が都合よく話すのなんて、いつものことだったのに。あの頃の私は、都合のよいことを信じてしまうところがあった。特に父に関することでは、真に受けることが多かった)


幼稚園児だった頃の自分にりらは、当時のことを思い出して、そんなことを思ってしまった。

でも、それが幼稚園から今も続いているとは思いもしなかった。


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