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第4章

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母と祖父母は、りらのことでちょっとでも周りに何か言われると喧嘩を始めるのが、お決まりのパターンだった。そうなるといつも持ち出されるのは父のことだった。

大したことはない。ただ、父親について聞かれてもろくなことを言えないことに苛立ってのことがほとんどだったようだが、散々言っていることを他人に言われるのは嫌だったようだ。

幼い頃のりらにはわからなかったが、自分は言ってもいいが、知りもしない奴らに言われたくない。それが、母と祖父母だった。今のりらにも、その辺のことはよくわからない。自分はしているのにされたくないなんて平気で言うのだ。

普通はされたくないなら、自分たちもしなければいいと思うところのはずだが、あの人たちにそんな思考は備え付けられていなかったようだ。更に思考がコンピューターのようにグレードアップすることもなかったようだ。

父が家で仕事をしているだけなのに怪しいことをしているとそもそも母と祖父母は思っているようだ。

りらは、その話になると耳を塞ぎたくなったが、そんなことしているのが見つかると長くなるので、無の境地を築き上げるまですぐだった。幼い子供が習得せざるおえない環境も中々ないはずだが、それがりらの日常だった。

りらが何でもない顔をしていないとこれまた可哀想と言われるのだ。嬉しそうにしていれば、頭がおかしくなるほど現実逃避をしているみたいに色んな風にとられてしまうのだ。噂好きな人たちは、どんなことでもネタにしたがって困る。


(はやくおわらないかな)


そんなことを思っていても、母たちの話が早く終わるなんてことはなかった。大して中身のない話をべらべらとしているのを幼稚園児の頃のりらは、相変わらず大したこと話してないなと思っていたのだから、大人び過ぎていたとしか言いようがないはずだ。

そのうち、りらは別の楽しいことを考えるようになった。暇つぶしはそれしかなかった。実際に遊び始める子供に紛れるのも、母が嫌がったせいで、それしか残っていなかった。


(ゆうはんは、オムライスがたべたいな)


食べたいものや行きたいところ。そんな風にこれからワクワクすることがあると現実逃避するようになった。

我慢しているご褒美があってもいいはすだが、そんなものりらは与えられたことはなかった。


(……でも、オムライスなんて作ってくれないだろうな)


りらの食べたいものなんて作ってくれる人たちではなかった。りらが行きたいところに連れて行ってくれる人たちでもなかった。

世間体を気にした母と祖父母は外面がよくても、娘や孫に優しい人たちではなかった。りらに優しく接するなんてことは誰かが見ている時だけで、知り合いがいなければ優しくなんて接することもなかった。

そして、そんな世間体を気にする人たちに話しかけて根ほり葉ほり聞こうとする人たちも、りらに優しいなんてことはなかった。

大人たちは、りらに配慮するなんてしてくれる人たちではなかった。止める者がいないから、拍車がかかりっぱなし。外面だけをよく見せようとすればするほど、粗が際立っていくことに母たちは気づいていなかったようだ。

そのせいで聞きたくもないことをりらは聞くことになるのに大した時間はかからなかった。


「大体、子供を産むのも反対だったんだ!」
「あんなのに似たら、ゾッとするわ。世間体もあるのに」
「わかっているわよ。でも、りらは、凄くいい子よ」
「そりゃ、私たちやお前に似たんだろ」
「そうね。あっちで育ったいたら、こうはなってなかったはずよ」


(わたし、このひとたちににてるの……?)


それを聞いた時にりらはショックだったのを覚えている。父のことのみならず、産むのを反対していたのも聞きたくなかった。

それよりも今この会話をしている人たちに良いところが似ていると言われたことが一番ショックだった。それまでで一番のショックだったと思う。


(おとうさんは、そんなにわるいひとなの……?)


りらは、それが気になって仕方がなかった。きっと、あの時、母や祖父母に聞いていたら即答されていただろう。

父は、母を言葉巧みにたぶらかした最低最悪な男だと。そんな男のことなど二度と聞くなとも言われていたのではなかろうか。

でも、それを聞くことはなかった。そんなことを母と祖父母に聞いたところで、怒鳴り散らされるか。都合の良い答えしか返ってこないのか。面倒くさいことにしかならないと思って聞くことはなかった。


(おとうさんにきいたら、こたえてくれるひとかな?)


そう思ったりらは、ある時期の間、父に答えを聞きたいと思って仕方がなかった。でも、聞く以前のことになるとは思いもしなかったし、そこから答えなんて知りたくもないと思うようになっただけだった。


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