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第4章
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しおりを挟むりらの母は産まれてくる娘を山の中の家で育てることに無理があると思っていたようだ。それは、りらにも理解できる。病気になったり、具合が悪くなったりしたら、医者に診せるまでかなりの時間を要するところに家があるのだ。心配になるのは無理もない。そんなところで出産した後で新生児と暮らすのは無理がある。
それにちょっとした買い物ができるところまで、車で何時間もかかるようなところにあるのだ。子供を育てるだけでも大変だろうにそんなところで週に何度も買い物に出かけるなんて余裕があるわけがない。
そんなところで子供を産んで育てようと思う女性は少ないのではないだろうか。母も里帰り出産することにして、父もそれに関しては何も言わなかったようだ。聞いていないから、その辺のことが一方的な話しか聞いていないから本当のところ何があったかをりらはよく知らないが、母は特にその辺のことで父は何の反応なかったかのように言っていたから、母に色々言うのに疲れてしまっていたのかも知れない。
それは、りらにもよくわかる。母と会話しようとすると疲れるのだ。多分、昔から変わってはいないはずだ。いや、昔より酷くなっていても、よくはなっていない気がする。母は、そういう人だ。学習してより良い方向に向かう人ではない。自分の都合が良い方向に突き進んで、他の誰が巻き込まれて不幸になろうとも、気にもしない人だ。それは、娘のりらが痛いほどよくわかっている。
(父さんは、私より母さんと一緒にはいなかったのよね。私は、母さんと暮らしていたんだもの。今、考えるとよく暮らせていたものだと思うわ。昔の私は、頑張っていた。そうするしかなかったのだけど)
まるで他人事のようにりらは思って自嘲気味に笑ってしまった。
りらが産まれてから数年経っても、母は親子3人で一緒に暮らすことはしなかった。元々、母はあそこに戻って生活することを頭の片隅にも、そうする気はなかった。子育てを理由にして、あの家で暮らすことを回避したかった気がしてならない。
(大して世話をやいてもらった記憶もないけど)
母の実の親であり、りらにとっては祖父母となる人たちとりらは生まれてからずっと一緒に暮らすことにして、りらを父の家で父と一緒に暮らさせることをさせなかったのだ。
もっとも、りらは両親にどうしたいかを聞かれた記憶はない。母はともかく、父は母と一緒だろうと思ってのことか。母と一緒にいたがるだろうと思って聞かなかったのかもしれない。母がちゃんと子育てしていると思っていたのだとしたら、父は母を全くわかっていない。母が、誰かの世話をするのに打算がないわけがないのだ。父も、その辺のことは知っているはずだが、娘なら大丈夫だと思ったのかもしれない。
でも、そのことについて聞いてはくれなかったことにりらが、深く追求することをしようとしなかったのは、もう既に過ぎたことだからと忘れようとしたからに他ならない。……そのはずだ。
当時は、違うことを思っていた気がするが、りらは今更そんなことを考えても仕方がないと諦めてばかりいた。
あの頃、こんなことをよく言われていた。それは、よく覚えている。
「あんな辺鄙なところでなんて、暮らせるわけがないわ。りらに何かあったら、どうするのよ。検診に行くのにも一苦労だし、買い物もそうよ。ちょっとお茶しに行くだけで、1日がかりになるなんて不便なところで生活できるわけがない」
母は、りらにだから父とは暮らせないと言いたかったようだ。そして、りらがあちらで父と暮らすのもあり得ないと言わせたかったのだろう。
でも、りらには不便なところだと言われても、父は頑なにそこに住んでいるのだから何がかしらいいところがあるような気がしてならなかった。
(あそこになにがあるんだろう……?)
そんなことを母や祖父母に幼いりらが聞けることはなかった。いや月日が経っても、聞ける日はこなかった。
りらの日常は、そんな言葉で溢れ返っていた。りらが父親について知っているのは、最初の方はこんな会話でのみだった。
「あんな変人とどうして結婚したんだ!」
「そうよ! 私たちは、結婚に反対していたのに。あなたなら、もっといい男と結婚できたのによりにもよって、あんなのと結婚するなんて」
結婚に反対していたのは、耳にタコができる程、りらはその後も何度も聞くことになった。それは、りらが物心つく前から始まっていたことで、何なら胎教のBGMだったかも知れない。そのせいか。それを聞くたび、どっと疲れてしまった。
(また、はじまった)
幼い頃のりらは始まったことにげんなりしたのは、すぐのことだった。
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