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第3章

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りらは、ムスッとした顔をして、アステリアのところにいた。おかしくなったのも、何もかもなかったように周りは元に戻っていた。


“りら。どうしたの?”
「うんざりしてるの」
“学園で、魔法が自由に使えるようになったのでしょう?”
「……」


森の小さな主であるアステリアのところに何度目になるか。りらは気分転換に訪れるようになった。この日は、それまで以上に不貞腐れているようにアステリアには見えた。

それは、アルテアの頃にもしていた。不機嫌なことをここでは隠そうとしないのだ。それは、りらも同じようだ。


「そうね。前までストッパーがかかっていたみたいに桁外れの魔法の要素をうまく扱えなかったみたいだけど、難なく使えるわ」
“よかったじゃない”
「まぁ、思うままに使えるのは楽しいわ。でも、そのせいで、取り入ろうとする連中がお茶会だの。パーティーだのと招待して来るのよ。断っても断っても、こっちの都合はお構いなしに」


りらはそう言いながら、王女として必要な勉強もしていた。お茶をする時間も、パーティーに出る余裕も、りらにはない。

それこそ、アルテアの時と何ら変わっていないのだ。


(学園の勉強は、そんなに苦もなく、すんなり頭に入るのよね。アルテアの時の勉強が、今の私に繋がってるってことなのかな? 庶民の暮らしの方が、王宮暮らしよりも、すんなり対応できるのも、それがあってこそみたいなのよね。クリティアスと街に出かけて、色々やっていたみたいだし。……私も
その暮らしの方がいいな。それにもう一つの名前をつけてくれたユグドラシル様にも会ってみたい。それに妖精たちにも会ってみたい)


でも、それはりらのしたことではない。名をつけてもらったのも、今のりらではない。

それが複雑な気持ちを生み出していた。それを全く気遣わない周りにうんざりしすぎていた。


“それ、アルテアもげんなりしていたわ”
「やっぱり。でも、使えなかったことで、嘘つき呼ばわりされていたんじゃないの?」
“誰かに聞いたの?”
「簡単に想像できるわ。最低最悪な人たちが身近にいたから」


りらは、やっとそういう人たちと縁が切れたと思っていたのに再び周りにそういう人たちが群がって来ていることにげんなりしていた。


(ここに来たら、フィロンのところに行くはずだった。なのに私の約束なんて度外視されてしまっている。ちゃんと調べているって口先だけで言ってはいるだけで、陰的一々そんなのに取り合っていられないって言っているのを耳にした。王女のわがままみたいに聞き流されてる)


ミハイルは世話役だったが、りらがブチギレて以来、長らく影として守ってくれていた者たちもそうだが、りらがすっかり怖くなってしまったようだ。


(あれを学園でもやれば、もう寄って来なくなるのでしょうけど。コントロールできることじゃないのよね)


そのため、りらの世話役を父は、クリティアスに頼もうとしたが、彼はそれを断った。

父に頼まれて引き受けたら、自分の意志とは違うことでも、やれと言われたらやることになるから断ったようだ。

それこそ、りらが頼めばまた別になるだろうが、それをりらは頼めずにいた。それは信頼していないわけでも、信頼していないわけでもない。


(私ではないもう1人を探している。私は、もう1人がいたから、ここにたどり着けただけ。ここにいるべきは、私ではない)


りらは、この世界の多くが王女となったりらを大事な存在だと認識していた。

でも、本当に大事な存在だったのは、もっと前からいたのだが、アルテアのことを覚えている者はよく関わっていた者のみに成り代わろうとしているようだ。

それでも、よく関わっていた者とりらの中に急に増えたものによって、複雑な思いを抱いていた。


「りら様」
「クリティアス」
「勉強の時間だ。先生が待ってる。王宮に戻れ」


クリティアスは、りらの側にいた。アルテアの時のように保護者代わりから、兄代わりのようなポジションになっていた。

アステリアとユグドラシルが、一目置いている存在がクリティアスだ。そういう存在をこの世界の王であろうとも、好き勝手できない。

ましてや、この世界を脅威から守ると誓っている王が、娘のことで世界を危険に晒したのだ。そのせいで、すっかり陛下はお飾りの王のようになっていた。

それに比べて評価が上がったのは、りらだ。アルテアが、残ることよりりらが、この世界に無事にたどり着くためにアシストしたのも高評価だったようだ。

結局はりらとアルテアが、この世界を守ったのだ。そして、アルテアをよく知るクリティアスが、りらを彼女を助けたのだ。

娘を思っていたはずの父も、世話役を長らく任されていたミハイルも、影でりらを守っていた者たちも、何もできなかったのだ。今は、りらに震え上がっていて、おいそれと話しかけることもできなくなった。

父は、りらとどうやって接していいのかがわからずにいて、おろおろした姿しか見せていない。


(会わないままの方が、夢と希望があったのよね。父に関して、知らないままがよかったと後悔する日が来るとは思わなかったわ)


「りら様」
「……わかった。戻る」


クリティアスに名前を呼ばれて、りらは諦めることにした。今、やるべきことは、勉強だ。それでも、りらは……。


(フィロンの家族は、どうしているのかな?)


気になるのは、フィロンの家族のことと彼がどうしているかだった。


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