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第3章

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今回、アルテアがクリティアスに頼み込んでいなければ、どうなっていたかはわからない。父が悲しみのあまり人間界に行き来できないようにしようとするのは、父親としての行動ならわからなくは……。いや、わかるものは少ないかも知れない。

でも、この世界を先祖代々守り通して来たはずであり、その役目を今背負うことになった存在が、娘にかまけて国民を蔑ろにしていることが、りらは許せなかった。

それなのに父より、りらがこれからしようとしたことをミハイルが止めようとしたことも許せなかった。


「私がここに来れたのは、誰のおかげなの?」
「りら様」
「あなたでも、父でもないのでしょ? 私を守ってくれたのは、誰なの?」
「……あなただ」
「え?」


クリティアスは、りらにそう答えていた。それにりらは、目をパチクリとさせた。


「あなたが、ここに来れたのは、あなたが純粋に自分の命よりも、先ほどの男とこの世界の住人を守りたいと思ったからだ。それによって、俺は5年前に10歳ほどのあなたに会った」
「クリティアス。りら様は、お疲れだ。その話は後で……」
「続けて」
「りら様」
「私は聞きたい」


りらは、クリティアスを真っ直ぐに見つめた。

ミハイルは、それをりらには聞かせたくないようだ。都合が悪いのだろうことはよくわかった。


「ミハイルは、私の問いに答えてくれなかった。でも、彼は答えた。なぜ、そう思うかを全て聞く。それが、世話役であろうとも、私のために動こうとしている者たちであろうとも、私の邪魔は許さない。あなたたちは隠そうとしてばかり。それで、こうなったのよ? もう、忘れたの? 本当のことを知って判断するのは、私がやる」
「っ、」
「それでも、止める? 私をそこまでして止められる?」


ミハイルだけではない。りらの言葉に部屋の中や外からも、その効力にひれ伏しそうになっていた。

唯一、平然としていたのは、クリティアスだけだった。


「自己紹介がまだだったわね。私は、りら。あなたは?」
「クリティアス」


りらは、にっこりと笑った。ミハイルに向けた顔とは違っていた。この世界で、存在することになったりらは王女としてのみならず、この世界の崩壊をも救った者として、力を持ったことを突きつけたようなものだった。

そこから、クリティアスはアルテアの話をした。


「森の主……?」
「この世界で一番古い木だ。ユグドラシル様という」
「そう。その方が、記憶を失くした私に名前をつけてくれたのね。アルテア、ふふっ、素敵な響きだわ」


楽しげにアルテアのことを聞いていた。疲れた顔をしていたはずが、今はそんなことなかったように生き生きとしていた。

一通りの話を終えたのは、日付が変わっていた。


「アステリア様のところに行かないと」


りらは、王都の小さな森の主のことを聞いて、すぐに様子を見に行こうとした。

立ち上がったりらはふらついて、それを支えたのはクリティアスだった。


「休んだ方がいい」
「でも」
「……俺が見て来る」
「駄目よ」


りらは、それを止めた。そして、まっすぐにクリティアスを見た。その瞳は、アルテアの時と同じだった。


「あなたは、私の近くに居て。ここでは、私をちゃんとわかってくれてるのは、あなただけ。ミハイルも、私を王女としてしか見ていない。ここに無事に来れた途端、私を縛ろうとしている。でも、私は何も知らないまま、縛られたくない。代々やって来たことだから、引き継ぎをしろと言われても、私にはそんなことできない」
「……」


クリティアスは、りらを見ていた。


「私は、世界を知ってから決める。この血肉が、何をすべきかを自分で決める。そのために、あなたに側にいてほしいの。じゃないと私は、この世界で私らしくいられない」
「……それはない」
「やっぱり、わがままよね。ごめんなさい。忘れて」
「違う。そうじゃない。あなたは俺がいなくとも、あなたらしさが損なわれるなんてことはない。あなたは、俺の兄に会っている。だから、縛られすぎることなどない」
「え?」


りらは、目をパチクリさせた。その表情はアルテアもしていた。

クリティアスは、その後、兄がストーカーであり、幽霊だと思われていたことを知って大笑いしたのは、すぐのことだった。


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