与えてもらった名前を名乗ることで未来が大きく変わるとしても、私は自分で名前も運命も選びたい

珠宮さくら

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第3章

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何とかたどり着けたりらは、顔色があまりよくないながらも、不思議そうにクリティアスを見た。

その顔を見て、アルテアが大人びた姿だとクリティアスにはわかったが、その表情が別人にも見えた。


「あなた」
「……」
「初めましてよね?」
「……そうだな」


クリティアスは、アルテアより少し大人びたりらを見て、その言葉に何とも言えない顔をした。もう、アルテアはどこにもいないのだと思うと泣きそうになった。


「あなた、熊さんみたいね」
「は?」


突然、そう言われて驚いてしまった。熊の獣人である要素を見せてはいないのだ。完璧な人間の姿形をしているのにりらは、熊のようだと言って懐かしそうな顔をした。

それにクリティアスは、目を見開いて驚いた。


「っ、!?」
「りら様」
「あ、ごめんなさい。なんか、急にそんな感じがして。ミハイルは、耳からして兎よね?」
「そうです。私は、兎の獣人なので」
「そうなの」


りらは、獣人を初めて見たはずなのに不思議そうにするばかりだった。ふと、りらは一緒に来たフィロン・ラリスを思い出した。彼は、りらと来たことで何があったかを聞く必要があると連れて行かれてしまっていた。


「フィロンは?」
「彼は、狐だと思います」
「狐だったんだ。急にちっちゃくなるからびっくりしたけど」
「人間の姿を保つのは中々大変なんですよ。それに人間界に行き慣れていないとあぁなるものです」
「そうなのね。……大丈夫なのよね?」
「りら様、いくら緊急事態だったとしても、許可なく人間界に行ったので、それなりの罰はあります」
「ミハイル。彼は私を助けてくれたの。罰することなんて何もないわ」
「……陛下に伝えます」
「ありがとう」


りらは、にっこりと笑った。でも、会う気がないのかと言う顔をして、直接伝えると言うことはしなかった。

そこから、りらは眠たそうにしたのは、すぐだった。


「りら様、お休みください」
「待って。フィロンと約束したの。家族が病気なんだって。父さんは、何か対策を講じているの?」
「りら様」
「この世界の人たち、病気になってるって聞いたわ。私にできることはある?」
「それは、お休みになってからにしましょう」
「約束したの。私にできることがなくとも、彼の家族のところに行くわ」
「りら様は、この世界では王女なのですよ? そんな気軽に行くことは……」
「気軽じゃないわ」


りらは、ミハイルの言葉に心外だと言わんばかりの顔をした。

クリティアスは、その顔を見てアルテアもしていたなと思って見ていた。


「父さんも、ミハイルも、私に道を示してくれなかった。ミハイルは、私が幼稚園に通っていた時から世話役をしていたのよ? それなのにあなたでも、駄目だった。そもそも、私がどうして死ぬことになったか知ってるの?」
「それは、人間界で調べました」
「面白おかしく書き立てた週刊誌のネタを真に受けたんじゃないわよね?」
「それは……」
「私は、母とその恋人にはめられたの。悪くを誘拐して、身代金を取るために利用されそうになった」
「「っ、!?」」


眠そうにしていたのが嘘のようにりらは、死ぬことになった経緯を話した。それは、後味の悪いものだった。


「母さんの新しい恋人が、私の元カレだったの。元カレって言っても、しつこくて付き合ってみないとわからないっていうから、数週間付き合っただけなのに。その人と母が付き合っていたのよ? しかも、身代金を要求するのに私に芝居して出させるだけ出させようとまでした。それに腹が立ったけど、母は彼の本命 じゃなかったことに腹が立った。その結果、みんな死ぬことになった」


それを聞いて男性陣はいたたまれない顔をしていた。

そんなことを実行して、誘拐されることになったりらはそんな人たちと死ぬことになったのだ。

なのに死んでしまったことで、全てが終わったとばかりにここ来ようとしている思いだけの状態のりらを殺そうとしたのは、父だったのだ。


(何が、心臓よ。その心臓にとどめを刺そうとしたのは、父自身だった。この世界の人たちが、色んな人たちが苦しむことになったのも、私が死んだショックからだなんて、言われたくない)


りらは、ここにたどり着くまでとたどり着いてから、腹が立って仕方がなくなっていた。それは時間が経てば経つほど、父にもミハイルにも、影ながら守っていたはずの面々にも怒りがこみ上げて来てならなかった。


(私を守ることを優先して、私のせいで色んな人が苦しむことになった。それなのに王女の自覚があるかなんて、今更、言われたくない)


りらは、休めと言うのにも頭にきていた。休ませようとするなら、もっとやるべきことをやってからにしてほしい。何もせずにいた人たちに気遣われても、それをどうにかしない限りは心から休めるわけがないのだ。

それをわかっていないことに腹が立って仕方がなかった。


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