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第3章
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しおりを挟む「アルテアが、わかってくれていればいい」
「でも、クリティアスさん」
「いいんだ。……それに人間界に勝手に行ったことが知られたら、罰せられる」
「もう、罰は十分受けてると思うけど」
その言葉にクリティアスは、泣きそうな顔をした。
アルテアは、頭痛が酷くなっていくのをどうにかしようとしていて、深く考えて言葉にしていなかった。
「……あの時、兄貴じゃなくて、俺があんたに出会っていたら」
「?」
「今はなかったかも知れないな」
「……」
クリティアスはそんなことを言った。それにアルテアは、意味がわからずに首を傾げた。
いや、アルテアにはわかっても良かったのだが、頭痛でわからないことにしたかったのもあった。
「何で……?」
「俺が忘れない限り、ここで俺が覚えている限り、あんたの記憶がそんな風になることはさせなかった」
「……それって、私を知る人がこの世界にいなかったから、こうなっていたってこと?」
「今は、兄貴のことで共有された。だから、少し思い出せたんだろう」
アルテアは、何とも言えない顔をしてしまった。
(それなら、何で私がここに居られたんだろう? 他にも私を知ってる人がいるってことなんじゃ……?)
一番最初にアルテアは、突然現れたのだ。この世界には必要とされる者しか来られない。人間なら特に理由がなければ、入っては来られない。そういうところのようだ。
クリティアスの過去だけでなくて、アルテアの過去もわかったが、アルテアはまだ曖昧な部分があった。
(貴族でもない庶民が、魔法の素養を持っているわけがないって言われたのよね。それって、つまりは……)
その言葉が、アルテアはずっと引っかかっていた。そこに答えがあるはずなのに考えると……。
(頭が痛い。痛くて深く考えられない。これって、もしかして、風邪でも引いた……?)
そんな風に思って深く考えられずにいた。
その上、桁外れなものがあると言われたのだ。測定すれば、その数値が出るのに扱えないのだ。まるで、ストッパーがかかっているかのように使えないままだった。そのことも深く考えられずにいた。
それに教師は、首を傾げていた。
「長らく人間の生徒も見て来たが、君のような生徒は初めてだ」
「……」
「君のご両親について、覚えてることはないか?」
教師は、それを他の人たちのように笑いものにするためには聞いていないのがわかったが、アルテアの答えは変わらない。
「何も覚えていません」
「そうか。どちらかが、貴族だったのか。いや、だが、そうなれば、獣人の血があるはずだが、君には見られない」
「……」
そこまで言われて、アルテアはため息をつきたくなった。そんなこと、とっくにアルテアが調べていることだ。
(八方塞がりね。埒が明かないわ。……これ、先生にわからないなら、私にわかるわけないわよね?)
そんなことを思って苦笑してしまった。目の前の先生は、そんなアルテアに気づいていない。もう、何だかんだその答えにたどり着く気力もない。そんなことより、アルテアが気になったのは……。
「先生。私、特待生のままでいられますか?」
「ん? あぁ、そうだな。特殊な事例だが、数値に問題はないわけだから、特待生ではいられる。ただ、毎月調べることになるが」
「それで、数値に変動が見られたら……?」
「いや、数値の変動があっても、君を学園から追い出すことにはならない」
「……」
(何で?? 前まで、特待生に相応しくないとなれば、すっぱり切り捨てられるみたいに言われていたのに)
アルテアは、理由を聞きたそうに先生を見ていると明々後日の方向を見つめたまま、こう言った。
「あー、森の主と近くの森の小さな主が、君のことをよく木々の世話をしてくれると言っているんだ。君の保護者もそうだが、あの森の主たちに気に入られることは、今は稀だ。近くの森は、王都の要でもある。陛下が、愛娘であられる王女のいる人間界の方ばかりを気にしておられる今、特にな」
「……」
ここでも、陛下がこの世界より王女のために人間界を気にかけすぎているかのように言うのにアルテアは無反応でいた。
(最近は、そればっかり。そのせいで、この世界の人たちが段々と病気になり始めているみたいに言われているのよね。実際のところ、原因ははっきりしていないみたいだけど。先生も、噂を真実みたいに言うのね)
これでは、生徒が噂していても注意なんてできるわけがない。噂を広めているのに先生も含まれているのだ。
そんな先生に特待生のことを確認するアルテアは、げんなりしてしまっていた。こういう先生が担当していると森の主であるユグドラシルたちは、把握しているから先回りをしてくれていたようだ。
そこに行き着くのは早かった。
(あとで、お礼に行かなきゃ)
そう思いながら、先生が言ったことが気になった。特待生うんねんのことではない。
この王都では病気の人は少ないし、森の主の近くに住む者たちの中では、病気の者は少ないようだ。だが、そこから離れたところにある街や村では、病気の者が増えてきているようなのだ。
それなのに陛下は、国民より王女のことを気にかけているとして、不満は日に日に増えていっているようだが、王都ではまだそこまでにはなっていない。
近づいてきていても、自分たちの身内が病気にでもならない限りは、他人事でしかない。それが、王都の人たちの多くの者の考え方のようだ。
(それにしても、今日は身体が重く感じるな。熱はないのに。変だな)
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