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第3章

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ある時から、こんなことが王都のそこかしこで言われ始めていた。それが心配事というか。気になることのようで、ひそひそと大人たちが話しているのだが、そんなことをしていたら逆に目立つことに気づいていないようだ。

それこそ、目立たないわけがないのだが、大人たちにもそんな余裕がなくなっていたようだ。

いや、余裕があってもなかろうとも、王都ではそれが当たり前だったようだが、この時のアルテアはそれを知らなかった。


「陛下の唯一の愛娘が、人間の世界で生まれ育っているせいで、陛下はこの世界より人間の世界の方が気になって仕方がないようだ」
「なら、こちらに王女をお招きすればよいのでは?」
「それが簡単にはできないから困っているんだ、古くさいしきたりに従っておられるんだ」


従っている者など、そうはいないのに陛下の周りが煩くしているようだとも言っていた。


「貴族たちは、人間との子供を持ちたがっているからな。能力や才能のある者が生まれやすい。今やそういう子供が跡を継いでくれなくては、次の世が心配になる」
「陛下も、それを見越してあちらで子供を設けたのだろう?」
「それが違うようだ」


貴族たちは、陛下と唯一の王女のことでもちきりになって、次第に好き勝手なことを話すようになっていた。

学園にアルテアが入ってすぐ辺りから、そんなことを彼女はいたるところで耳にしていたが、そこまで気にかけてはいなかった。


(王女? そんな人がいたんだ。というか。王族なんて、想像できないな。貴族が、あんな感じなら、あんまり期待し過ぎても駄目よね)


アルテアは、最初はその程度でしかなかった。貴族の人たちに使える庶民として、懇意にしてやるからと追いかけ回されたりもした。


「アルテアさんは?」
「わからないわ」
「逃げられてばかりね」
「全く何が気に入らないんだか」
「庶民って、わからないわね」


そんなアルテアが、魔法がうまく操れないようだとわかってからは、蜘蛛の子を散らしたようにそういう人たちが去って行って、やっと静かになったかに見えた。


「あちらに行きましょうか」
「そうね」


アルテアを見ても、追いかけ回すこともなくなり、側にいたくもないのか。別のところにこれ見よがしに移動する者が多かったが、アルテアはそんなこと気にしていなかった。

それは図書館の司書と同じだった。王都では、これが普通のようだ。いつからなのかをアルテアは気にしていなかった。こんなに嫌な連中なのだから、前々からだろうとすぐに思ってしまったが、エウフェミアがいた頃はそうではなかったことを失念していた。

そこまで頭が回らなくなっていたのだ。アルテアも、今の王都の重苦しい空気にすっかり飲み込まれていた。

そして、それが誰よりも影響を及ぼしていることに本人も、近くにいた者も気づいていなかった。


(これで、やっと静かになりそうね。勉強に集中できる。なんか、今なら丁度いい火加減で、燃やせそう)


これまた、何を?と心の声を聞ける者がいたら、アルテアにツッコんでいたことを思ってしまっていた。まだまだアルテアは疲れているようだ。いや、以前よりももっと疲れているようだ。

それこそ、丁度いいと思いながら、何もかも燃やし尽くしてしまいたい思いもアルテアの中にあった。今にも爆発しそうな何かがあったが、それは利用できる者と思って追いかけ回していた生徒たちに引っ掻き回されたからだと思っていた。

でも、それだけではなかったことにアルテアはたどり着くことはできなかった。

アルテアは、それでもこの時、喜んでいた。煩わしい日常から、自分のペースで好きにできると思っていたのだ。でも、それもつかの間のことになるとは思っていなかった。


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