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第2章
23
しおりを挟む妖精たちが住むところの花をユグドラシルの森の中で育てることになった。
街の花屋で売るということも検討したが、花を上手く育てるのが難しいことから、アルテアがある程度のところまで育てないと枯れてしまうことがわかったため、売ることはやめることになった。
(広いな)
「指示してくれ」
「クリティアスさん、みんなも」
他の動物も、手伝えることがあるかもしれないと集まっていた。
「1人でやったら、また血豆を作るぞ」
「……」
(まぁ、それはある程度、覚悟していたことだけど)
そこを花畑にして新しい女王蜂が、そこで蜂の巣を作ることになった。これまで四方にある女王蜂の娘たちが、そこで蜜を集めることになり、揉めることはなかった。
特別で貴重な蜂蜜として食べられる者も限定されることになった。
その話をユグドラシルやクリティアスにはしたが、アルテアは手伝ってほしいとは言ってはいなかった。ユグドラシルが、育てるにいい場所を教えてくれた場所は、雑草が生い茂っていて、蜂たちにも、花にもいい環境なところだった。
「アルテア」
「……わかった。みんな、手伝ってくれる?」
動物たちも、クリティアスも当たり前だと言うように頷いた。
「じゃあ、まずは……」
(ここの雑草と格闘しないと)
雑草を抜いたり、土を耕して肥料を混ぜて花が育ちやすい環境を整えるまでが大変だった。
それこそ、魔法を使えば簡単にできることも、アルテアは頑なに使わなかった。その花を育てるコツが、アルテアにはなぜかよくわかった。それをちゃんとしないと種を無駄にしてしまうこともわかった。
ユグドラシルは、種を見るなり、こう言った。
“とても気難しい花のようですね。ここで、上手く育てられるのは、アルテアくらいだと思います”
「……私にできるでしょうか?」
“愛情たっぷりなら、伝わるはずです。あなたは、妖精たちの住む場所の花たちに認められた救い主です。どこであろうとも、あなたに育てられれば応えようとするはずです。純粋なものなら、なおさら応えずにはいられないはずです”
「……」
そんなことを言われたアルテアは、買い被りすぎているきがしていたが、森のみんなの手助けもあって、何とか広い場所に種を植えることはできた。
それが整うまでにアルテアは、再び血豆を作ってしまったが、それは水やりの時より大したことはないものだった。
問題は、中々芽がでなかったことだ。
(何で、芽がでないんだろう……? 私、何か間違えたかな?)
水やりをしながら、そんなことを何度も考えてしまった。それでも、朝晩と水やりをした。あまりにも芽が出ないこともあり、失敗したとクリティアスですら思ったようだが、アルテアはもう一度種をもらって植えようとはしなかった。
動物たちも、蜂たちも、アルテアですら上手く咲かせられないような花なのだと思ったようだ。
慰めようするものやもう一度やり直そうとアルテアに伝える動物もいたが、アルテアは水やりを続けた。
「アルテア」
「……」
クリティアスは、もう一度やり直しをしようと言いに来ていた。流石に2ヶ月も芽が出ないのだ。失敗したと思うのは普通のはずだ。
「だぁー、もう! みんなが頑張ってくれたのよ!!」
水やりを頑張っていることより、たくさんの森の仲間が手伝ってくれたのに芽が出ないことにアルテアは憤慨して叫んでいた。
「咲いたところをみんなに見せてあげたいのよ!!」
妖精の話をいくらしても、あそこでしか見られない花が咲いたら喜ぶと思っていた。絵を描くのは容易くとも、実物があるなら、それを見てほしい。
そんなことを思って、いい加減に咲けと怒鳴った。アルテアは、心から叫んでいたが、痺れを切らしただけだった。
それに魔法が使えるとは欠片も思っていなかったアルテアは、自分にその才能があるとまでは知りもしなかったこともあり、咲き乱れた姿を想像して声を張り上げただけで、その通りになるとは思いもしなかった。
それは、クリティアスも一緒だった。
「は?」
「あれ?」
間抜けな声音が2つと2人が見ていた景色が、ガラッと変わっていた。満面の花畑が、そこに広がっていた。
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