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第2章

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エウフェミアが趣味にしているお菓子とお茶を提供して、本をゆっくりと読める場所が、街に作られた。

魔法できちんと読んだと証明されると無料でお菓子とお茶を楽しめるようにもなっていて、回数制限はあれど読書を頑張って、お菓子とお茶を満喫しようとする利用客も増えていた。

本を読まずとも、息抜きにお菓子とお茶を満喫しに来る者も多くいた。

お菓子は、森の蜂蜜が使われていると広まっていて、それを目当てに来る旅行者も多かった。最初は、お菓子がタダで食べれると思われていたが、利用した者がまた来たいと思う魅力を持っていた。

お湯をいれると花が咲いたように見えるお茶とお菓子は、女性に人気だった。それは、妖精たちがお手製で作ったもので、花びらを集めたり、種や花の実を集めるよりも技術が必要で、街でも人気となっていた。

それを作るのが一番上手いのは、妖精の王妃だった。その作り方を毎週教えるようになり、それを取得した妖精の若い娘は、あちらこちらから求婚されるほどの人気となってもいるようだ。

月1のお菓子どころか。それができると週1で家族みんながお菓子を食べれるほどになるほどだったことも大きいようだ。


(これは妖精にしかできない作業よね)


アルテアは、王妃が教える作業工程を見学したことがあるが、とても丁寧で根気のいる作業だった。少しでも、雑なところがあるとお湯を淹れた時に綺麗に花が咲かないのだ。

そのせいでせっかちや短気な妖精は向かない作業だった。

逆におっとり、まったりしている妖精たちが丁寧に作業して王妃に素晴らしいと褒められて嬉しそうにしつつ、恥ずかしそうにする姿を見た。

そんなことが主流となり、花びらなどを使った服やアクセサリーでは服ばかりに気を取られてしまうとなり、花びらや花の実で染めた布地を服にして着ることが流行りだした。

その服の作り方を街でアルテアが教わり、そういったことが好きな妖精に教えることになった。

服のデザインは、その妖精たちが独自に考えて個性を爆発させた。アルテアが作ったものは、縮小魔法がかけられて王族が着ることになった。


(縮小をかけると粗が目立たなくなるからいいわよね。じゃないと王族が着るには耐えられないわ)


王妃も、カレル王子も、救い主となったアルテアのお手製の服に感激していた。それは、重要な式典の時に着るものとなり、アルテアは恐縮しっぱなしだった。

お針子たちは、売れた服の値段によって、お菓子を交換できるようになり、それが好きな妖精たちは色んなところでお店をオープンさせた。

その1人にアグニェシュカがいた。妖精のところに来た時にアルテアに一番最初に声をかけて来た妖精だ。


【アルテア様!】


彼女のお店が、妖精たちの住んでいるところでも一番大きなお店になるのも、すぐのことだった。オーダーから、既製のものまで品揃えも一番でアグニェシュカのところで働きたがる妖精も多かった。

お針子としての素質はなくとも、縮小やら拡大の魔法が使えて、そのお客にあったサイズにできる妖精もまた、給料となるお菓子を手にするのに一役かっていた。


「繁盛しているみたいね」
【おかげさまで。また、新しい布の見本ですか?】
「それと糸もあるわ。ここの花びらや木の実で染めたもの」
【凄い!】


そういう見本を営業している服屋に配ることになった。この日は帰る途中ということで、アルテアがアグニェシュカのところにそれを持って行った。

新しいものは、申請した順に届けられるため、アグニェシュカはすぐさまその見本を見て、どれがいいかを吟味した。

王宮に届けを出すため、一番早く飛べる妖精がそれを慌ただしく出しに行った。それを見送るのもアルテアは慣れた。

それが終わるとアグニェシュカやその店でのイチオシの服をファッションショーのように見せてくれた。


(これも、変わってないわね)


アルテアがアグニェシュカのところに来ているとわかり、ファッションショーに参加して大はしゃぎする妖精を見て笑顔になっていた。

楽しそうに笑うアルテアを見て妖精たちも、更にヒートアップして大変なことになるのも、いつものことだった。


(バーゲンセールで身動き取れなくなった人みたい)


小さな妖精たちを怪我させられないとアルテアは騒ぎが
落ち着くのをひたすら待つことにも、すっかり慣れた。

しばらくして、アルテアが妖精の住むところにいる間にはついて回る王宮の護衛たちが、助けてくれるのはいつものことになっていた。

最初から、止めないところがアルテアをよくわかっている。


(今回は、大丈夫だと思っていたんだけだ、やっぱり駄目だったみたいね)


アルテアは叱られるのを見て、いたたまれない気持ちになってもいた。アグニェシュカたちの邪魔をしている気がして、妖精のところに来ても王宮にだけ顔を出して、あとは知っている妖精のところによほどのことがないと行くことはしなくなった。


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