上 下
46 / 111
第2章

21

しおりを挟む

カレル王子は王宮で賄えるものをと考えていたが、国民が少しずつ出し合ったものによって、こだわりのレシピの材料が簡単に買えるまでになり、それで作ったプリンを王妃が口にするまで、1ヶ月後のことだった。材料費は簡単に集まったが、こだわりの材料が届くまでに月日がかかってしまったのだが、王妃はそれにとても感激していた。

プリンを見るなりわかったようだ。それほど、思い入れの強いものだったのは、王妃の表情でも明らかだった。


【これは】
「ユグドラシル様が、教えてくれたレシピです」
【まぁ! ユグドラシル様は、覚えていてくださったのね!】


アルテアが最初にシェフ長に教えたプリンも、気に入ってくれて、毎日嬉しそうに食していた。他のものが食べられなくとも、プリンだけは食せることから、3食をプリンで食べてもらおうとしたが
王妃は国民が月1のお菓子をようやく食べれるように動いているのだからと自分も月1にしようとしていたが、国民がみんな王妃が元気になることを望んで動いていることを知って、1日1食を頑張つて食べるまでに回復していた。

それだけでも、医者は奇跡を見ているようだと喜んでいて、王子も感激していた。周りの妖精たちもそうだった。

あまり食欲がないせいで、すっかり痩せてしまっていた王妃だが、アルテアの教えたプリンを毎日少しずつ食べるうちに話す言葉も増えていって、笑顔も増えた。

それにカレル王子は益々感激していたし、仕えている者たちも嬉しそうにしていた。アルテアも、訪れては王妃と話した。救い主となったアルテアとカレルがお見舞いに来てくれるのにも嬉しそうにしていた。


【こんな幸せなことはないわ。救い主様とカレルが来てくれて、国民も私を思ってくれている。このプリンを食べるたび、ありがたくて涙が出るわ】


アルテアに感謝しっぱなしで、妖精たちが再びお菓子を食べる喜びで活気づいているのも感じているようだ。

だが、こだわりのプリンを目の前にした時は、それまでと違っていた。目をキラキラとさせて、子供のような無邪気な笑顔を見せたのだ。そんな反応を見せる王妃に王子や周りも驚いていたが、年配の妖精は感慨深げに見ていた。


【王妃様の一番の好物ですな】
【そうなのか?】
【はい。あの頃は、そのお菓子のおかげで勉強がよく進んだものです】


年配の妖精の言葉に王子は更に驚いていたが、王妃は気にすることなく、それを食べた。その時の王妃はそれまでと違っていた。子供のように見えた。


【懐かしい。あの頃を思い出すわ】


嬉し涙を流し、更には国民が自分たちのお菓子の代金にするのを少し王妃のためにと使うことを知っている分、王妃は更に感激していた。


【自分たちのお菓子代を私のために。これは、こだわりの材料が多いから、値も張るでしょうに】


だが、その分がすぐに集まって、今も集まっていると知って更に感激していた。

それが、よほど嬉しかったようだ。こだわりプリンを数日食べた王妃はふせっていたのが嘘のように元気になったのだ。


【王妃様だわ!】
【元気になられたのね!!】


長らくふせっていた王妃が、国民の前に姿を現したことで、国中がお祭り騒ぎになった。

それは、アルテアが最初にここに来た時よりも何倍も凄い盛り上がりだった。


(凄い。カレル王子も嬉しそう)


そのプリンは、奇跡のプリンとして、病気やふせっている他の妖精にも食べさせることになった。

それは、王妃にしたように国民がいつか、具合が悪くなった時に身内や自分が食べれるようにとせっせと寄付をして賄うことになった。

たくさん寄付に励む妖精は、王妃が特別に表彰したりすることにもしたようだ。

それを知って、それまで寄付に見向きもしていなかった妖精もしれっと寄付を始めた者もいたようで、それにアルテアは苦笑してしまったが、そんなことが決まる前から熱心に寄付する者たちが多いことに喜んでいた。


(優しいな。……まぁ、中には寄付なんてしたくないって自分のお菓子のためにしか働いていないのもいるみたいだけど。王妃からの表彰があると聞いて頑張り出す妖精もいるところが、個性よね)


元気になった王妃とユグドラシルは、週に一度は話をするようになっていた。昔を懐かしみつつ、今できることを模索するための話し合いだった。

それにカレルも時折参加して、いいアイディアが生まれるのに母と森の主の凄さを垣間見たようだ。もっと頑張らねばと王子も、そこに参加するたびやる気に満ちていた。

アルテアは、最初に会った時よりも、もっと楽しげで忙しそうにしながら、飛び回る妖精たちを見て笑顔になっていた。

ちなみにプリンは、ダレイオスの好物になった。こだわりのプリンではなくて、アルテアがアレンジしたものが好みだったようだ。


(ぷるぷるしたものが、好みだったみたいね)


王宮に勤める者たちは、お給料としてお菓子も付くことになった。彼は、毎回それでプリンを食べているのを知らない者はいないほどになったが、本人は周りにはバレていないと思っているようで、そこが可愛らしいとアルテアは思ってしまった。

王宮つきの護衛の隊長をしているのだ。威厳は保たれなければならないのだろう。それで、茶化す勇気のある者はいなかったことも大きかったようだ。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

前世の祖母に強い憧れを持ったまま生まれ変わったら、家族と婚約者に嫌われましたが、思いがけない面々から物凄く好かれているようです

珠宮さくら
ファンタジー
前世の祖母にように花に囲まれた生活を送りたかったが、その時は母にお金にもならないことはするなと言われながら成長したことで、母の言う通りにお金になる仕事に就くために大学で勉強していたが、彼女の側には常に花があった。 老後は、祖母のように暮らせたらと思っていたが、そんな日常が一変する。別の世界に子爵家の長女フィオレンティーナ・アルタヴィッラとして生まれ変わっても、前世の祖母のようになりたいという強い憧れがあったせいか、前世のことを忘れることなく転生した。前世をよく覚えている分、新しい人生を悔いなく過ごそうとする思いが、フィオレンティーナには強かった。 そのせいで、貴族らしくないことばかりをして、家族や婚約者に物凄く嫌われてしまうが、思わぬ方面には物凄く好かれていたようだ。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

【完結】悪役令嬢は3歳?〜断罪されていたのは、幼女でした〜

白崎りか
恋愛
魔法学園の卒業式に招かれた保護者達は、突然、王太子の始めた蛮行に驚愕した。 舞台上で、大柄な男子生徒が幼い子供を押さえつけているのだ。 王太子は、それを見下ろし、子供に向って婚約破棄を告げた。 「ヒナコのノートを汚したな!」 「ちがうもん。ミア、お絵かきしてただけだもん!」 小説家になろう様でも投稿しています。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

てめぇの所為だよ

章槻雅希
ファンタジー
王太子ウルリコは政略によって結ばれた婚約が気に食わなかった。それを隠そうともせずに臨んだ婚約者エウフェミアとの茶会で彼は自分ばかりが貧乏くじを引いたと彼女を責める。しかし、見事に返り討ちに遭うのだった。 『小説家になろう』様・『アルファポリス』様の重複投稿、自サイトにも掲載。

2番目の1番【完】

綾崎オトイ
恋愛
結婚して3年目。 騎士である彼は王女様の護衛騎士で、王女様のことを何よりも誰よりも大事にしていて支えていてお護りしている。 それこそが彼の誇りで彼の幸せで、だから、私は彼の1番にはなれない。 王女様には私は勝てない。 結婚3年目の夫に祝われない誕生日に起こった事件で限界がきてしまった彼女と、彼女の存在と献身が当たり前になってしまっていたバカ真面目で忠誠心の厚い騎士の不器用な想いの話。 ※ざまぁ要素は皆無です。旦那様最低、と思われる方いるかもですがそのまま結ばれますので苦手な方はお戻りいただけると嬉しいです 自己満全開の作品で個人の趣味を詰め込んで殴り書きしているため、地雷多めです。苦手な方はそっとお戻りください。 批判・中傷等、作者の執筆意欲削られそうなものは遠慮なく削除させていただきます…

処理中です...