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第2章
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しおりを挟む前回までの話を一通り話し終えて、ユグドラシルをまじえた話も終えたところだった。
これで、妖精たちみんなが同じお菓子を食べれることにアルテアは安堵していた。
(個人的には、王宮付きの妖精たちには、もっと他のお菓子も食べてほしいと思ってしまうことばかりだけど、そんなことしたら大変なことになるわよね)
そんなことを思っていると王子が、他の妖精を近くに来るように呼んだ。
(誰だろう?)
アルテアは、見覚えがない妖精に首を傾げていた。
【この者は、王宮付きのシェフ長でバルトシュと言います。アルテア様におりいって頼みたいことがあるのです】
「頼み……?」
アルテアは、首を傾げた。シェフ長を連れて来た理由が色々浮かんだ。
(お菓子のレシピのことかな? ここで、自給自足したいとか?)
だが、レシピはレシピでも今回のものではなかった。
【この者に病人にも食べやすいお菓子を教えてはもらえませんか?】
「病人??」
【その、私の母なんです。アルテア様が持って来てくれているお菓子は実に美味しいのですが、長くふせっていて食事も喉越しのよいものしか食べれないんです。でも、母にも甘い物を食べてもらいたいんです。アルテア様なら、お菓子に精通しているようなので、ご存じではないかと思って】
王子の頼みにシェフ長も、必死だった。護衛たちも、王妃の話題に何とも言えない顔をしていた。そこから察するものはあった。
(お加減がよくないのね。……そこまでとは思わなかったわ)
アルテアは、頭の中をフル回転させた。
「食べやすいもの。ん~、パッと思いつくのは、プリンとかかな」
【ぷりん??】
【あの、食材は?】
「えっと、卵と牛乳と砂糖ですね」
【……】
シェフは、メモを取ろうとしていたが、途中で固まった。卵と牛乳、砂糖と聞いた全てに固まったようだ。ここでは、用意するのは難しいのだろう。特に砂糖は、貴重なものとされているようだ。
「えっと、材料を用意しましょうか? 作って来るのは簡単ですけど、こちらで一緒に作りますか?」
【よろしいのですか?!】
「もちろん。あ、器についてなんですが」
【器ですか?】
シェフ長は、材料に意気消沈していたが、今度は思ってもみなかった器と聞いて、きょとんとしていた。
シェフだけではなくて、王子も器と聞いて首を傾げていた。
(まぁ、そうなるわよね。どう説明したらいいのかな……?)
アルテアは、悩みながらも話した。
「えっと、こういう感じの器で冷やして大丈夫なものが必要なんです。あと、砂糖を水で煮つめたりするので、火を使えてできたものを冷やせる場所が必要なんですが……」
【王宮の厨房には魔法の設備が充実しておりますから、その辺は大丈夫です。器も、いくつか候補がありますので、すぐに準備できます。すぐに用意させるので、ご確認していただけますか? それで、駄目なら別のものを用意します】
「あー、プリンって、固まったものをお皿に出して食べたり、そこにトッピングをして食べたりするんです。もちろん、そのままの器でも食べて問題ないんですが。そのままだと、カラメルソースがそこにある状態になるので、できるなら固まった中身がひっくり返してちゃんと出てくるものがいいかと」
【それだと、試してみないとわかりませんね】
「えぇ、そうなりますね」
【……】
(うーん。こういう時に絵を描けるといいんだよな)
「……あ、私が描いたイラストを皆さんに見やすいように縮小してほしいんですけど」
それまで、黙って聞いていた王子が、護衛隊長を見た。
【ダレイオス。その魔法を使えたな?】
【はい。ですが、大きさからして、他の者も数名呼んだ方がよろしいかと】
【必要なだけ呼べ】
【はっ。近くにいる縮小を使える護衛をあと2人、呼べ】
【隊長。俺も使えますけど?】
【わかってる。だから、あと2人だ】
【了解です】
その護衛は、廊下に出るなり大声で呼んでいた。それが丸聞こえでアルテアは笑ってしまった。
【あの、馬鹿】
王子も、笑っていた。シェフ長も、何とも言えない顔をしていた。
アルテアは、荷物の中にいれていた紙と街で買った色えんぴつで、プリンのデコレーションやら、そのままのものやらを描いた。
【本物みたいだ】
【凄いな】
【美味そうだ】
そんな声がして、咳払いをしたのはダレイオスだった。護衛たちに紛れてカレルやバルトシュも色々と言っていたが、アルテアは気にせず描いていた。
「よし。これを皆さんに見やすい大きさに縮小してもらえますか?」
【わかりました】
そうやって、プリンがどんなものかをわかってもらえたと思う。
(ダレイオスさんが、ずっと見てるな。こういうのが好きなのかな?)
お菓子の食べ比べの時は反応せずに職務を全うしていた彼が、プリンのイラストに釘付けとなっているのにアルテアは、そんなことを思って見ていた。
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