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第2章
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しおりを挟むアルテアは、その店員にこう言った。
「あー、蜂蜜を使ったお菓子をいくつか作ってるんです。できればレパートリーを増やしたいと思っているので、よければ試食して感想をいただけますか? それと蜂蜜もお分けできるとしたら、オリジナルのレパートリーと交換してもらえたりしますか?」
「そんなの決まっています。関わらせてくれるなら、レシピ全部をあなたにあげるわ」
「っ、」
エウフェミア・ガウラスというおばあさんは、前のめりになってアルテアに即答した。
(おっと、そう来たか)
「えっと、蜂蜜は4種類ほどあるんですが……」
「そんなに?! それじゃ、私のレパートリーなんて足りないかしらねぇ」
「え? いえ、そんな、その4つを使ったそれぞれのお菓子と蜂蜜ですよ?」
「駄目よ。それは、貰いすぎになってしまうわ」
「……」
彼女もまた、おじさんと一緒のようだ。
(物々交換に払い過ぎを気にするんじゃなくて貰いすぎを気にする人って、絶対にいい人よね)
アルテアは、そんなことを思ってしまった。
アルテアは、本屋のおばあさんことエウフェミアと初対面のそのやり取りから、すっかり仲良くなった。
そのお菓子を提供しつつ、本が読めるカフェがあるとみんなが楽しめるのではないかとアルテアが言うとそれに食い付いたのも、凄かった。
他で、森の蜂蜜を利用したお菓子を提供するより、本を読む時に食べれる方が活字離れをしているのを食い止められると思ってのことだ。
「私、本もお菓子作りも、どちらも好きだけど、それを合わせようとは思ったことがなかったわ。素敵な案ね」
しかも、エウフェミアは本を収集するのもしていたようで、それを王都の図書館のように貸し出すのもいいと思ったようだ。
もっとも、それをアルテアとエウフェミアだけでできるわけがないため、オノマルコスがユグドラシルと話をしてくれて、街の偉い人とも話して進めることになった。
アルテアが、街の偉い人に会えば、あの森に住んでいるのが、誰かが特定されてしまう。それを避けるためにユグドラシルに入ってもらうことになった。
あとから、とんでもない方向に話がいっていることをユグドラシルに伝えたが、森の主以上に女王蜂たちが、街の人たちにも食べてもらえることに大喜びしていて、それにアルテアはホッとした。
(勝手に色々決めちゃったけど、これまた良い方向に進んでくれて良かったわ)
エウフェミアに初めて会った時にクリティアスは、アルテアにこんなことを言った。
「誰とでも仲良くなるな」
「そうかな?」
「普通は、お菓子に蜂蜜使っているなら蜂蜜だけは出さない」
「そう? だって、あれを紅茶に淹れても美味しいにホットケーキにかけても美味しいし」
「この辺の奴らは、蜂蜜の美味しさなんて、知らないぞ。あの森の入り口付近より先に進むのはユグドラシル様が許可した者だけだ。それ以上は怖いもの知らずの余所者だけだ」
「……」
「今は、お前がいるから、ユグドラシル様が危険な者を決して入らないようにもしている」
「え? そこまで?!」
「そうだ。だから、あそこの出入りするのも注意が必要だ」
クリティアスの言葉にアルテアは……。
「つまり、今後は宅配を頼めと?」
「それか、バレないようにしてくれ」
「目立つなと? それ、無理だと思う」
ただですら、人間の娘だ。あの街でも目立っているはずだ。
「そうでもないだろ。ユグドラシル様が付けた名前があるから、今は必要以上に目立っていない」
「あぁ、そっか。特別らしいからね」
(カレル王子は、即反応していたけど。オノマルコスさんやエウフェミアさんも、私の名前にちょっと反応した気がしなくもないな。他は、騒ぎ立てることもないし、これもユグドラシル様が付けた名前のおかげだとしたら、凄いな)
やることが増えていく状況にアルテアは、遠い目をした。とりあえず、本を買ったのを読みあさりたいし、エウフェミアのレシピも気になる。
(言い出しっぺは、私。全部をやってやる!)
アルテアは、変にやる気を漲らせていた。
エウフェミアとは、お互いに本の話題でも盛り上がり、お菓子のことでも盛り上がった。
「この蜂蜜にあったお菓子を考えるなんて、アルテアちゃんは凄いわ」
「そんなことないですよ。エウフェミアさんのレシピ集に比べたら、私のなんてまだまだです。ぜひ、この蜂蜜にあったお菓子も考えてみてもらえませんか?」
「そうね。それも楽しそうね。森の蜂蜜を使ったお菓子が食べられて、本を読めるカフェの方も、森の主様が街の偉い人に素敵な企画だと言ってくれて、協力してくれることになったから、街に王都に引けを取らない図書館みたいなものも、遠くない未来にできそうよ」
「良かったですね」
「えぇ、でも、ここの人たちは本をわざわざ読もうとしないから、呼び込むのにも工夫が必要そうなのよね」
「……なら、お菓子で釣ったら、どうですか?」
「お菓子で?」
「何回かは、無料にするんです。その期間を過ぎたら、お菓子にハマっているか。本にハマっているかで、リピーターにすればいいんですよ」
「あら、それ、いいわね」
そんなこんなで、新しいお菓子を創作することになったエウフェミアは、益々元気になり、そのお菓子とお茶を提供しつつ、本が読める場所を作ることになり、そこでしか森の蜂蜜入りのお菓子は提供されないことになり、街でも有名な場所になった。
読み書きが苦手な者も多いようだが、本をちゃんと読んだら魔法でわかるようになっているものを取り入れたことで、読書をする者が増えた。
それが証明できるとお菓子とお茶がサービスになるため、子供たちだけでなくて、大人も利用する者が増えたのだ。
それには、エウフェミアは喜んでいた。趣味のお菓子作りと本を読む人が増えたのだ。無料提供も、回数制限を設けたが、有料となってもお菓子を食べたくなったり、静かに本が読みたくなった者がそこを訪れて賑わうことになったのだ。
アルテアが妖精のところに数回行った辺りから見られる光景で、その後はこの街では当たり前のことになった。
(あの蜂蜜って、凄いわね。妖精も、獣人たちも、人間も、虜にしてく)
アルテアは、そんなことを思っていた。
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