上 下
38 / 111
第2章

13

しおりを挟む

“凄いことになりましたね。あなたが、妖精の救い主に選ばれるとは……”


ユグドラシルは、アルテアの話を聞くよりも、アクセサリーを見て、そう言葉にしていた。森の主は、前にも見たことがあるようだ。声音がとても懐かしそうに聞こえた。


「ユグドラシル様、妖精たちはみんな凄く元気でした。お菓子は、長らく食べれていなかったらしくて、妖精の王子が両親や古い者に聞くばかりで食べたことがなかったみたいです」
“そうでしょうね。他の王族には会えましたか?”
「いえ、カレル王子だけです」
“……そうですか”


ユグドラシルは、他の王族を気にしていたのは、アルテアにもわかった。世代交代していても、知っている者がいないかと思ったのだろう。


「妖精たちは、蜂蜜のお菓子をどれも気に入ってくれました。ただ、妖精全員分には全然足りていませんでした。あと2回は同じ物を届けることになりました」
“2回。……そうですか。私が知る頃より、妖精たちは少なくなったようですね”
「……」


それだけでも色々と様変わりしていることがわかったようだ。


(それだけ、あそこを行き来できる人がいなかったということよね)


アルテアは、何とも言えない顔をしていた。


“そのアクセサリーがあれば、あなたがあちらに行けば、すぐにわかります。下手な約束をするよりも、断然良かった。それに妖精たちは、王家の花を咲かせた者には絶対的な敬意を払います。王族すらも、そうです”
「みたいですね。王子に急に様付けで呼ばれて、名前で呼んでくれと言われて、流石に呼び捨ては慣れるまで無理だと答えてしまいました」
“それも仕方がありません。でも、呼び捨てせずに様付けで呼び合うのは良いかも知れません。王子というなら、まだ年若い分類に入るはず。まだ、王位を継いでいない状態ですから、あなたに対等のように話ができると知れれば、皆の目もそういう風に見られていくはずです”


(妖精の世界も色々とあるのね。でも、護衛している妖精も、王宮に仕えている妖精も、王子のことを蔑ろにはしてなかったし、他の妖精たちのことも思っていた。あれを見聞きしてしまうと早くみんなと同じものを食べて、次のお菓子の話をしたいと思ってしまうわ。色んなお菓子を堪能してほしいし、好きなお菓子をチョイスして食べてもらいたいものだわ)


アルテアは、そんなことを思っていた。


「そうだ。ユグドラシル様、街の本屋で妖精のところで採れるもので、今のニーズにあったものを売れないかを調べて、その代金でお菓子の材料を買えるようにしたいと思ってるんです。カレル王子は半年に1回でみんなが食べられるといいと言っていたんですけど、私思わず月1で考えていると言ってしまって」
“月1。それくらいなら、無理なくできそうですね。……本当なら、毎日のおやつが買えるようにしたら喜びもひとしおだと思いますが、また食べられなくなった時の反動を考えれば、妥当でしょうね”
「ですよね」


食べられるとわかって、食べ過ぎてしまうと大変だと思うのは仕方がないと思う。

それに物々交換になるとはいえ、無理をしすぎれば、あの場所が荒れかねない。


(でも、何が売れるかを調べてみないとわからないのもあるのよね。妖精の作ったものだとバレるわけにもいかないし、花を加工したり、染め物に使ったりするとか。花の実を売るとかよね。加工してもらうのは、街の人たちに依頼した方がいいような気がするけど)


そんなことを思ってユグドラシルに話した。


“確かに全部を妖精たちのところで作ったのを売ると値は上がるでしょうが、どこで作ったものかを聞かれて、この森の特産だと言っても妖精のことに行き着く者も現れるかも知れません。できれば、それに行き着かないように上手く誤魔化せる方がよいと思います”
「えっと、とりあえず、持ち出してもいい花の種もいいと言ってましたが、珍しい花だと危ないですよね?」
“そうですね。花の種は、この森で育てる方向にした方がいいでしょうね。その花の特徴が蜂蜜にあえば、新しく花畑を作ることにして、街の人たちに育てやすいものなら、花屋で売ってもらうことにしてもいいかも知れませんね”
「花屋。それもいいですね」


とりあえずは、アルテアが花について調べることにして、どんなものが売れそうかをアルテアが見聞きして、後で、妖精のところで話し合うところにユグドラシルも、参加することになった。


「ユグドラシル様も、あちらに……?」
“あなたが、救い主となったことで、私も、街のオノマルコスと話すような場所で会話が可能になっているはずです。その辺りも、王子に聞いてみてくれれば、わかるはずです”
「わかりました」


(ずっと間に入り続けることになるかと思ったけど、話し合いをいっぺんにできるなら、それが一番よね)


アルテアが、そんなことを思っていると女王蜂たちがやって来て、どの蜂蜜が一番だったかを聞きたがって大変だったが、甲乙つけがたく喜んでいたことに蜂たちはご満悦だった。

あと2回で妖精みんなが食べられると知って、食べたあとの反応をまた聞きたいも女王蜂たちは言っていて、アルテアは必ずすると伝えた。


(やっぱり、他の巣には負けたくないっていう闘志を感じるわ。まぁ、それで美味しい蜂蜜になるんだから悪いことではないはず)


アルテアは、そんなことを思わずにはいられなかった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約者とその幼なじみの距離感の近さに慣れてしまっていましたが、婚約解消することになって本当に良かったです

珠宮さくら
恋愛
アナスターシャは婚約者とその幼なじみの距離感に何か言う気も失せてしまっていた。そんな二人によってアナスターシャの婚約が解消されることになったのだが……。 ※全4話。

問い・その極悪令嬢は本当に有罪だったのか。

風和ふわ
ファンタジー
三日前、とある女子生徒が通称「極悪令嬢」のアース・クリスタに毒殺されようとした。 噂によると、極悪令嬢アースはその女生徒の美貌と才能を妬んで毒殺を企んだらしい。 そこで、極悪令嬢を退学させるか否か、生徒会で決定することになった。 生徒会のほぼ全員が極悪令嬢の有罪を疑わなかった。しかし── 「ちょっといいかな。これらの証拠にはどれも矛盾があるように見えるんだけど」 一人だけ。生徒会長のウラヌスだけが、そう主張した。 そこで生徒会は改めて証拠を見直し、今回の毒殺事件についてウラヌスを中心として話し合っていく──。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?

つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。 平民の我が家でいいのですか? 疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。 義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。 学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。 必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。 勉強嫌いの義妹。 この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。 両親に駄々をこねているようです。 私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。 しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。 なろう、カクヨム、にも公開中。

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

【完結】え、別れましょう?

須木 水夏
恋愛
「実は他に好きな人が出来て」 「は?え?別れましょう?」 何言ってんだこいつ、とアリエットは目を瞬かせながらも。まあこちらも好きな訳では無いし都合がいいわ、と長年の婚約者(腐れ縁)だったディオルにお別れを申し出た。  ところがその出来事の裏側にはある双子が絡んでいて…?  だる絡みをしてくる美しい双子の兄妹(?)と、のんびりかつ冷静なアリエットのお話。   ※毎度ですが空想であり、架空のお話です。史実に全く関係ありません。 ヨーロッパの雰囲気出してますが、別物です。

婚約者とその幼なじみがいい雰囲気すぎることに不安を覚えていましたが、誤解が解けたあとで、その立ち位置にいたのは私でした

珠宮さくら
恋愛
クレメンティアは、婚約者とその幼なじみの雰囲気が良すぎることに不安を覚えていた。 そんな時に幼なじみから、婚約破棄したがっていると聞かされてしまい……。 ※全4話。

元侯爵令嬢は冷遇を満喫する

cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。 しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は 「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」 夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。 自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。 お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。 本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。 ※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

処理中です...