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第2章
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お気に入りのふかふかのベッドで目が覚めたアルテアは、寝足りない気分を振り切ってパチッと目を開けて起きた。
この家に住むようになって、起きる時間は感覚的なものになっているが、今のところ寝過ごすなんてことをしたことはなかった。
クリティアスに起こされないとずっと寝ていることもなかった。そのため、クリティアスもアルテアを起こさずとも、勝手に起きてくるものと思っている。それが、この家での普通になっていた。
いつ寝たかは思い出せないが、美味しそうな匂いがしていて、二度寝をしようとする気も起きなかった。
(今日の朝食も美味しそう)
朝はクリティアスの方が早く起きていることが多いため、自然と彼が作ってくれるようになっていた。そのため、極々自然にアルテアは朝食を満喫していた。そのおかげで、二度寝する気が起きないのかも知れないが、本人はそこに全く気づいていない。
これまた、昨日の夕食と同じくクリティアスのお手製が並んでいるのを見て目を輝かせた。
(クリティアスさんの料理も、手が込んできたな)
アルテアが料理をするのを見て覚えたものもある。作り方をアルテアに聞いてきたこともある。たまにクリティアスのオリジナルもあったりする。失敗したものは、食卓に並ぶことはない。並ぶのは、大丈夫そうなもので、そういう時は反応が気になるようでクリティアスが側にいたりする。
今日は、クリティアスの姿がないからそういうものはないようだ。
美味しそうな朝食を前に座ってから、そう言えばと思ったのだが……。
(なんか、変な夢を見ていた気がするけど、思い出せないな。凄く疲れる夢だった気がするけど。……疲れる夢って、どんなの見てたんだろ?)
起きた時には、すっかりどんな夢を見ていたかを忘れていた。覚えていてもいなくとも、夢の中でも疲れることをしたのだけは感覚的に残っていて、それにアルテアは首を傾げるだけだった。
それでも、しっかりと朝食は食べていた。思案しながら食べていたせいか、クリティアスが何とも言えない顔をして立ち尽くしていたことにも気づいていなかった。それにも気づかないまま、慣れたように無意識のうちに片付けを済ませていた。
「……どうした?」
「ううん。何でもない。それじゃ、私はユグドラシル様のところに行くわね」
「途中まで一緒に行く」
アルテアは、ユグドラシルに会いに行った。クリティアスだけでなく、途中でアルテアは色んな動物たちに会うことになった。まぁ、この日は四方八方から動物たちがアルテアに寄って来て大変なことはなかった。
「っと。顔面に飛んで来るのはなしよ。……頭に不時着するのも、体当たりもなし。お互い怪我したくはないでしょ?」
昨日のこともあり、アルテアは動物たちに朝からいつも以上に遭遇することになった。疲れていても、条件反射でアルテアは避けていたし、毎回同じ説明をしていたのだが、クリティアスが……。
「いい加減にしろ!!」
ツキノワグマの怒鳴り声によって震え上がった動物たちは、すぐさまチリチリにいなくなった。アルテアの怒るのとは迫力が違っていたようだ。
(耳元で、怒鳴られるのはきついかも)
「クリティアスさん」
「今は避けられても、そのうち怪我をすることになる」
動物の姿のままの面々は、無邪気なところもあった。悪気はないのが、一番厄介なのだ。
それに比べて、アルテアはただの人間だ。雨に打たれただけで風邪をひくほどだ。動物たちが、そんなことで風邪をひいていたら、外でなんで生活していられないのはわかるが、クリティアスはそれだけ弱い種族だと思っているようだ。
(まぁ、天然の毛皮がない分、そうなるってことよね。根気よく教える。それしかないのよね)
みんなでやれば怖くないみたいになっているのをどうにかしたかったのもあるのだろう。それに3歩ほど歩くと綺麗に忘れる子も中にはいる。
教えても、教えても、駄目なことにアルテアはげんなりしたこともあったが、頭の中にはちゃんとあるらしく、身体が覚えている子も現れ始めて、無駄なことは何もないのだと変な感激をしたこともあった。
(子育てって、こうなのかも。それか、幼稚園とか。必要最低限のことだけは、きっちりと覚えてもらわないと。誰かが怪我してからでは遅いもの。特に怪我するとしたら、私がしそうだし)
アルテアたちの家のところで、勉強を教わる時は大人しくできても、別のところで会うと暴走してしまう動物もいた。
それでも、誰かと会話できる方法を必死になって覚えられるのだから、他も覚えられるはずだが、いっぺんに何もかも上手くいくのは難しいのは仕方がない。
(ちょっとずつよね)
アルテアは、少しずつ良くなっているのだからと思って、怒っているクリティアスとなぜ怒られているのかがわからないで、きょとんとしている動物を見て苦笑せずにはいられなかった。
(前途多難だけど、これはこれで平和な悩みよね)
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