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第2章
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しおりを挟む急に妖精の王子であるカレルにまで、様付けで呼ばれることになった。
【あなたは、とても優しい方ですね】
「へ?」
【だから、王家の花が咲いた。報告では、花たちが避けていたとか】
「え? あれは、その、私が困っていたから。踏んづけたら可哀想だと思って、そしたら親切に避けてくれて。その上、妖精たちがいるところの道を教えてくれたり、隠れているからって教えてくれたりしただけです」
アルテアは、みんなもしてもらえるものと思っていた。今も王家の花と呼ばれる花ににこにこしながら、本当に綺麗だと呟いていたら、すると腕に巻き付いてきた。
「え??」
王家の花は、アルテアの左手首に巻き付いて可愛らしいブレスレットに変化したことに驚いてしまった。
「これも、綺麗」
【妖精たちには、それぞれお気に入りの花があります。その花が、1つ2つその妖精の頼みを聞いたとしても、妖精みんなが一片に花たちに頼み事を聞いてもらうことは叶いません。私でも、全ては無理です】
「……」
アルテアは、目をパチクリさせた。他の妖精たちも、今は王子に対して以上にアルテアに畏まっている気がする。
(なんか、ここに入って早々にやらかし続けている気がする)
アルテアは、どうしたものかと思った。
「殿下」
【どうか、名前でお呼びください】
「カレル様」
【アルテア様は、あなたは……】
「私には、救い主とやらがよくわかりません。それより、お互い敬意を持った呼び方にしませんか? その後で慣れたら検討します」
【……それをあなたが、お望みとあらば】
「えぇ、そうして欲しいです」
【わかりました。……リストでしたよね】
「えぇ、お願いできますか?」
【もちろんです】
カレルは、アルテアの言葉に頷いた。
【聞いていたな? 食べられなかった者を全てリストにして、全員が食べられるようにしてくれ】
【畏まりました。聞いていたな? ここに食べられなかった者を記せ。食べたのに偽証した者は、今後、アルテア様のお菓子を食べることはないと思え。来れない者は、代理の者が書くように。身内が居ない者で、ここに来るのが難しい者については、こちらに記すように。その者のところには王宮の者が責任を持って届ける。護衛たちは、別途まとめて出してくれ。その方が、配りやすい】
救い主だとなったからか。揉めた姿をアルテアは見ることはなかった。
【アルテア様。お疲れでしょう? あちらで、少しお休みください】
「あの、リストアップって、どのくらいかかりますか?」
【数日はかかるかと】
「なら、今日と同じ分量だと配りきれますか?」
【今日の2倍はないと妖精全てには配りきれないかと】
アルテアは、すぐに思案した。2倍のお菓子をいっぺんに持って来る自信がなかった。
「あの、2倍となるといっぺんには持って来れないかと……」
【殿下。発言しても?】
【許す】
【護衛隊長のダレイオスと申します。護衛兵並びに警備兵は、一番最後にいただかせていただきたいと思います】
隊長の言葉に他の護衛兵や警備兵たちは、異論ないようだ。
他にも、王宮勤めはこぞってアルテアが無理なく運べる時で構わないとしたようだ。
そこからお菓子を配る順番は、すぐに決まった。アルテアが心を痛めているとなって、救い主が悲しんでいるとわかったのと待てば、必ず貰えるとわかったからのようだ。
だが、アルテアには今日と同じ量を運んでもらうことで決まった。
(具体的な日時は避けるようにするんだっけ?)
ユグドラシルにそう言われていたが、カレルたちはアルテアを急かすことはしなかった。
【それがあるので、アルテア様が入って来られたらすぐにわかります】
王家の花のアクセサリーには、そういう機能があるらしい。
(これは、ユグドラシル様にも想定外だったはず。……私も、何に驚いていいのかがわからなくなってきた)
凄く綺麗なアクセサリーにそんなことを思ってしまった。
【それと花の種と花びら、花の実についてですが、花の種は持ち出し可能な物が決まっています。これは、アルテア様が救い主でも、難しいかと】
カレルは、アルテアが言った話をよく覚えていた。
「あの、外でここでの物で、物々交換できそうなものをもっとちゃんとリサーチしてみます。そうすれば、お菓子の材料を色々買えることになります」
【妖精たちみんながお菓子を食べれるようになると思いますか? それこそ、年に一度や二度でもいいので、みんなが食べれるとよいのですが……】
「そうですね。私は、月1で、お菓子がみんなで楽しめたらと思ってます」
アルテアの言葉にカレルだけでなく、みんなが驚いていた。
(世の中、毎日のおやつタイムがある人もいるのに。ここでは、どのくらいお菓子食べられなかったのかな?)
そんなことをぼんやりとアルテアは考えていた。そのためにやることは山積みだ。
本当は、毎日でもおやつタイムがあればとアルテアは考えていたが、カレルは半年に1回ほどが限界だと思っているのにもびっくりしてしまった。
妖精たちは、ここの素晴らしさが外でどう思われるかをわかっていないようでもあった。
そこでアルテアは、歯痒さを感じずにはいられなかった。
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