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第2章

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(なんか、要領よくしているのと全然たどり着けてない妖精もいるわね。その辺は、どこも一緒みたいね)


そんなことを思って見ていたが、そんな妖精たちの邪魔にならないようにアルテアは、移動するのも一苦労だった。


(ううっ、妖精にぶつからないようにするのって大変だわ。先に避難しとけば良かった)


【アルテアさん、こちらに。彼女を安全なところに避難させろ】
【はっ! 皆、聞いたな?】
【【【【【はい!!】】】】】
「あ、すみません」


すると王子の護衛たちが総動員してくれて、アルテアは何とか安全なところに避難することができた。


「ありがとうございます」


王子のみならず、護衛たちにもアルテアは礼をのべた。護衛たちは、礼を述べられると思っていなかったようだ。護衛たちの何人かは、律儀にぺこりとお辞儀してくれたりしてくれていた。

警護している面々はお菓子を見ていたが、それだけだった。そわそわしているそぶりもしては駄目なようだ。ここでも、任務を遂行している。本当に凄い。


(凄いプロ根性。この妖精たちも、食べたいだろうな)


妖精は、20cmほどが一番背が高い分類に入るようだ。

王子は、そのくらいの身長をしていた。護衛たちも、背が低い者はいない。彼らは、お揃いの制服を身に着けていた。

アグニェシュカは、15cmほどでアルテアに食べた感想を伝えに来てくれた。


【アルテア! あなた、天才!】
「ありがとう。えっと、どれが美味しかった?」
【どれもよ! 食べ比べなんて、凄い贅沢!】


どうやら、アグニェシュカの意見にカレルも同じようだ。うんうんと頷いていた。

サクサク、ふわふわ、しっとり。どれも、素晴らしいと言うばかりで、一番が決められない妖精がほとんどだった。駄目と言えば、二度と食べられないと思っているのもあるようだ。


(これは、先にリサーチしてから、お菓子を持って来るべきだったかな。あー、でも、そうなると女王蜂たちが喧嘩になりそう。これは、甲乙つけがたいことになっていたと言うのが一番良さそうね。事実だし)


アルテアは、ユグドラシルが話してくれていたことを思い出していた。


(そうだ。食べられない者にも配慮しろって言われてたな。どのくらいの妖精が、食べられなかったのかな?)


食べられない者も、やはりいたようだ。

アルテアは、凄いことになっているところを覗けるところにいた。人間なおかげで、作り的に見えるところにいた。

王子も、このお菓子騒動がどうなるかが気になっているようだ。


【ううっ】
【泣くなよ。ホント、お前って、とろくさいよな】
【だって】
【……半分、食べるか?】
【っ、いいの?!】
【ちょっと! 私に頂戴よ!】
【お前、食っただろ】
【でも!】
【ほら】
【ありがと】


何やら二組の妖精たちが、そんなことを話していた。彼らだけではない。食べられない者がかなりの数、落ち込んでいた。


(やっぱり、足りなかったか)


「えっと、ごめんなさい。どのくらいの妖精が住んでいるかをその知らなくて」


泣いていたり、落ち込んでいるのをアルテアは見ていられなかった。アルテアは慎重に妖精たちに近づいて、座り込んで話しかけた。彼女たちを泣かせたかったわけでも、悲しませたかったわけでもなかった。


(先に話せば良かった。足りないなら、後から追加を持って来るって……。いや、それも、まずいか)


そんなことを思っていると話しかけた妖精たちが……。


【そんな、謝らないでください】
【そうそう。こういうのは、早い者勝ちだもの】
【……】


妖精たちも、食べた者と食べられなかった者では、一喜一憂っぷりが違っていた。


(こういう時に人間性が出るのよね。……ん? この場合は、妖精性か。このままにはしておけないわ)


アルテアは、勝ち誇った顔をする妖精にイラッとした。悲しんでいる妖精に追い打ちをかけられて我慢ならなかったのだ。


「あー、えっと、殿下。食べられなかった方たちをリストにすることってできますか?」


カレルは、アルテアの申し出にすぐに頷いた。


【それは、可能ですが、どうなさるおつもりですか?】
「えっと、ほら、今、お仕事中で食べられない方たちもいるようですし、突然のことで間に合わなかった方たちも居ますよね? ここの今後のこともあるので、皆に理解してもらいたいんです。食べられない方たちにも食べてもらえたらと思っています。リストにある方に行き届くようにしたりってできたりしますか? ここに来たくとも来れない方もいるかもですし」
【……アルテアさん】
「ごめんなさい。出過ぎたこと言ってますよね。でも、皆にお菓子を食べてほしいんです。できれば、これからずっと。妖精の皆さんに笑顔でいてほしいから」


(あんな我先にお菓子を食べるより、ゆっくり食べてもらいたいのよね)


アルテアは、そんなことを思っていた。すると花がアルテアの近くに咲いた。いや、咲き乱れた。


「わっ、凄く綺麗!!」
【その花は、王家の花です】
「へ? 王家??」
【かつて、ここに来れる人間がそれなりにいましたが、その花を咲かせられたのは、ただ1人だけだったと伝えられています。アルテア様は私たち妖精の救い主だ】
「……」


カレルが真っ先にアルテアに跪いていた。すぐに護衛たちが、そして他の妖精たちもが地面に降り立って片手を胸元に当てて頭を下げた。


(救い主??)


よくわからないが、アルテアは困惑しっぱなしになってしまった。

そんなアルテアを他所に王家の花は咲いていた。


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