上 下
28 / 111
第2章

しおりを挟む

(座って見る景色も、格別ね。この高さから見るのも素敵だわ。それにいい香り。寝転んで、お昼寝したら、もっと気持ち良さそう)


アルテアは、そんなことを思って眺めていた。あまりに美しい花畑に見惚れすぎていて、何をしに来たのかを忘れかけていた。……いや、すっかり忘れていた。


【誰?】
「あ、えっと、こんにちは」


声が近くから聞こえて、アルテアはハッとした。側にじっと見上げる可愛らしい妖精がいた。


(気づかなかった!?)


周りに妖精たちが他にもいた。隠れているつもりだろうが、見えている。頭隠して尻隠さずという状況だろうか。

花の側にいて、擬態しているつもりもありそうだ。


【……】
「えっと、私はアルテア。あなたは?」
【……アグニェシュカ】
「初めまして。それにしても、あなた素敵な服を着てるのね。それ、あの花びらのよね?」
【っ、そうよ! 私が、作ったの!】
「っ!?」


花びらを使った服を褒めたら、アグニェシュカは嬉しそうに作った過程を話してくれた。


(なんて、楽しそうに話すんだろ)


しかも、花びらを摘むタイミングによって見栄えが変わるらしい。一着作るのにかなりかかって、数時間しか保たないものもあるらしい。長く保たせられても、数日。花びらを使ったものだから、次の物やその先の物までの仕立てを考えたり、新しい花びらやらデザインやらを常に考えているらしいことを教えてくれた。


(凄いこだわりがあるのね)


アルテアは、アグニェシュカの言葉にわからないところを尋ねれば、そこも詳しく教えてくれた。どうやら、服やデザインやらに関するお喋りが好きなようだ。

そんなことをしていると他の妖精たちも集まって来て、アルテアが他の妖精たちの身につけているものを褒めると嬉しそうにして、ファッションショーのようなことが起こった。

割り込もうとするのも時折いたが、順番を取り仕切る妖精もいて、きちんと守らない妖精は参加させないと取り仕切る妖精までいた。


(なんか、手慣れているな)


かなり、その辺はきっちりしているようだ。普段から、よくやっていることが垣間見えた。

見た目が凄く可愛いらしいが、アルテアに見せるのが目的だからとアルテアが困らないように規制をしてくれたようだ。

そもそも、そういうファッションショーのようなことを毎月開催しているようだ。他にも、色々とやっているようだが、今はファッションショーに夢中になっていて、そういうのが好きな妖精たちが集まって来ているようだ。


(凄いな。これだけ、たくさんの妖精たちがいて、同じデザインにならないように各々がこだわりの服やらアクセサリーを付けているのね。……お菓子好き以外にも、こだわりがあるみたいね。ユグドラシル様は、知っているのかな? もしかすると外との交流が断たれてから、こうなったのかも)


こだわりについて、そんなことをアルテアが思っていると……。


【アルテア。甘い匂いがする】
「あ、うん。お菓子持って来てるの」
【っ!?】


アグニェシュカが、クンクンと匂いをかぎ始めた。アルテアが持って来た物にそんなことを言うので、お菓子のことをアルテアも思い出して、何気なく言えば妖精たちは、ピシッと固まったかと思えば、途端に大騒ぎになった。


【大変! 大変!】
【王子様に伝えなきゃ!】
「え? 王子様??」


アルテアは、ここに集まった妖精たちにお菓子を試食してもらおうとしたら、王子に会わないと駄目となったのだ。

その騒ぎっぷりは、ファッションショーをしていた時より凄いことになっていた。


(えっと、どうなっているの??)


アルテアは、順番を間違えたようだと焦ってもいた。勝手に入ってしまったままな状態なのを思い出して、呑気にファッションショーを見ていたことも、まずかったと思っていた。

するとアグニェシュカが、教えてくれた。


【王子様に謁見して】
「謁見?」
【そう。王子様に挨拶して、王子様が歓迎してお菓子を先に食べるの。じゃないと私たちは食べられない】
「……」


(あぁ、そういうしきたりなのね)


どうやら、外から来た者は、まずは挨拶しなきゃいけないようだが、別のことで盛り上がり過ぎてしまったようで、妖精たちはまずい、まずいと焦っていた。

花たちは、妖精たちが王子のところまで案内すると思っていたが、別のことで盛り上がりすぎたのをそれはそれで傍観していたようだ。

なにせ花を使った衣装やアクセサリーだ。花たちも自分たちを褒められているのが嬉しかったようで、慌てたようにアルテアが通る道を作ってくれた。

妖精たちは、お菓子があることにも気が気じゃないようだ。そわそわとお菓子の方を見ている妖精は多かった。


(凄い視線が、注がれてるわね)


【お菓子、たくさんある?】
「一応、蜂蜜の種類ごとにお菓子を作って来たんだけど。好みに合うかは試食してもらわないとわからないかな」
【はちみつ……?】


アグニェシュカは、蜂蜜がわからなかったようだ。こてんと首を傾げていた。


(やっぱり、そこからなのね。ちゃんと伝わるかな)


アルテアはアグニェシュカに話しつつ、これから会う王子が、どんな人だろうかと思っていた。

それに比べて妖精たちは、ファッションショーをしていた時よりも、更にお菓子がもらえると広まったようだ。続々と集まって来ていて、凄いことになっていることをアルテアは、この時知りもしなかった。

妖精が甘い物に目がないことを見くびっていたようだ。

それに何より花たちがアルテアの行く方向の地面を開けてくれていた。妖精たちは羽根があるから、普段は歩くなんてことはしないようだ。

アルテアの行く手をちゃんと花たちが避けるのに妖精たちは驚いていた。それも、ちょっとした騒ぎだったが、アルテアは気づいていなかった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約者とその幼なじみの距離感の近さに慣れてしまっていましたが、婚約解消することになって本当に良かったです

珠宮さくら
恋愛
アナスターシャは婚約者とその幼なじみの距離感に何か言う気も失せてしまっていた。そんな二人によってアナスターシャの婚約が解消されることになったのだが……。 ※全4話。

問い・その極悪令嬢は本当に有罪だったのか。

風和ふわ
ファンタジー
三日前、とある女子生徒が通称「極悪令嬢」のアース・クリスタに毒殺されようとした。 噂によると、極悪令嬢アースはその女生徒の美貌と才能を妬んで毒殺を企んだらしい。 そこで、極悪令嬢を退学させるか否か、生徒会で決定することになった。 生徒会のほぼ全員が極悪令嬢の有罪を疑わなかった。しかし── 「ちょっといいかな。これらの証拠にはどれも矛盾があるように見えるんだけど」 一人だけ。生徒会長のウラヌスだけが、そう主張した。 そこで生徒会は改めて証拠を見直し、今回の毒殺事件についてウラヌスを中心として話し合っていく──。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?

つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。 平民の我が家でいいのですか? 疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。 義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。 学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。 必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。 勉強嫌いの義妹。 この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。 両親に駄々をこねているようです。 私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。 しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。 なろう、カクヨム、にも公開中。

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

【完結】え、別れましょう?

須木 水夏
恋愛
「実は他に好きな人が出来て」 「は?え?別れましょう?」 何言ってんだこいつ、とアリエットは目を瞬かせながらも。まあこちらも好きな訳では無いし都合がいいわ、と長年の婚約者(腐れ縁)だったディオルにお別れを申し出た。  ところがその出来事の裏側にはある双子が絡んでいて…?  だる絡みをしてくる美しい双子の兄妹(?)と、のんびりかつ冷静なアリエットのお話。   ※毎度ですが空想であり、架空のお話です。史実に全く関係ありません。 ヨーロッパの雰囲気出してますが、別物です。

婚約者とその幼なじみがいい雰囲気すぎることに不安を覚えていましたが、誤解が解けたあとで、その立ち位置にいたのは私でした

珠宮さくら
恋愛
クレメンティアは、婚約者とその幼なじみの雰囲気が良すぎることに不安を覚えていた。 そんな時に幼なじみから、婚約破棄したがっていると聞かされてしまい……。 ※全4話。

元侯爵令嬢は冷遇を満喫する

cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。 しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は 「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」 夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。 自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。 お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。 本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。 ※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

処理中です...