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第1章
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しおりを挟む「そんなに食うのか? 太るぞ」
クリティアスの言葉にアルテアは串刺しの大きな肉が刺さったのを両手に1本ずつ持って固まってしまった。何気にクリティアスは、乙女心がわかっていないと思うことがあった。
(そこまで言う? ……確かに大きいけど、両方1人で食べるわけないでしょ)
確かに1本でも中々大きい。でも、両手に持つものを全部食べる気はアルテアには最初からなかった。
「これ、半分はクリティアスさんのだよ」
「は? 俺の?」
物物交換できるところや換金できる大手のところなど、森の主であるユグドラシルの友人のオノマルコス・ペルサキスが地図を用意してくれていて、丁寧に教えてくれた。アルテアとオノマルコスが並んでいると祖父と孫にしか見えない。
見た目からして、子供だと思われていたのだろう。話し方が、そんな感じだ。
(まぁ、見た目は10歳くらいだし、普通はそうなるわよね)
クリティアスとユグドラシルが、見た目以上に子供扱いしないせいで、アルテアはちょっとオノマルコスの扱われ方に笑顔が引きつりかけていた。丁寧過ぎる教え方が、幼子に教える感じだったのだ。
(それこそ、初めてのお使い並みな気がする)
そんなことを思って不満に感じても、オノマルコスに子供扱いするなと言うことはしなかった。それより、教えてくれたところにたどり着く前の気になる物をアルテアはちゃんと見ていた。
そこまで行く前に手軽に換金ができるところをアルテアは、オノマルコスに聞いた。
「ん? 大きなところで全部しないのか?」
「えっと、屋台があったから、その……」
「食べてから移動するのか。そうだな。時間的に食べてからがいいかもな。ほら、小遣いをやろう」
(やっぱり、孫扱いされてる気がする)
アルテアは、そう思って軽めに遠慮した。彼に悪気はないと思っているからだ。
「そんな、駄目です。色々お世話になったのに」
「あー、言い方が悪かったな。世話になるって、これくれたけどな。あの森の蜂蜜なんて、かなり高価なんだ。貰いすぎてるんだよ」
「でも、食べ比べできるように小分けにしてるので、量は大したものじゃないですよ?」
「それも、あり得ないことなんだ。ユグドラシル様が女王蜂に頼んでも、こんな数を食べ比べさせてくれるなんてあり得ない。あそこの女王蜂たちは、自分の蜂の巣が一番だって自負しているからな。比べさせるなんてことをするのが、凄いことなんだ」
その言葉にアルテアは、クリティアスを見た。彼は、こう言った。
「それぞれの良さが際立ってるから、一つだけを手土産にしたと知られたら、そっちの方が大変なんだ」
「そうか。そうなるだろうな。だが、ユグドラシル様にも頼まれた時に色々貰ってるんだ。それなのにあんたらからも、こんなに貰ったらあわせる顔がない」
そこから、屋台で食べ歩けるお金をもらって、アルテアたちは荷物を置かせてもらって、腹ごしらえをすることにした。
近くに屋台が並んでいるのを見て、いい匂いがしている屋台で、買い食いすることにした。
そして、冒頭に戻る。
「持って帰れないでしょ? 食べてお腹にしまって」
「……それ、しまうって言うのか?」
「身になるって言い方は嫌なの。ほら、食べて」
「……」
クリティアスは、何とも言えない顔をしてアルテアを見ながら、それを手にした。やはりクリティアスには丁度いいサイズのようだ。
「こりゃ驚いたな。人間の子供が、食わせてやってるのか」
「え?」
「おいおい、あんちゃん。人間の子供に金を支払わせるとは、それでも獣人か? いや、耳も、尻尾もないから、人間か? どっちにしろ。大人のやることじゃないだろ」
「……」
「ちょっと、言いがかりはやめて。ここの通貨に慣れるために彼は私に支払いを任せてくれているのよ」
アルテアは、ムッとしながら、すぐさま言った。それを聞いて屋台のおじさんは、納得したようだ。
「そりゃ、悪かった。あんちゃん、オマケさせてくれ」
「……いや、いい」
「だが」
「それより、こいつが1人で買い物に来ても、目をかけてやってくれないか?」
「1人で?」
「社会勉強よ」
「そうか。人間の子供は、軟なのが多いが、自立しようとしてんのはいいことだ。応援する。だが、もうちょっと大きくなるまでは1人にさせない方がいい。ここらへんの奴らは気がいい奴らばかりだが、余所者は金になりゃ平気で悪いことをするのが時折現れるようになったんだ。あんちゃんと一緒がいい」
「……」
「そうなの? それは、ここに住んでる人たちは、いい迷惑でしょうね」
アルテアがそう言うとかなり迷惑をしていたようだ。森の中で余所者が前まで散々悪いことをして金にしていた話を聞くことになったのだ。
(それって、あの若い木を折った奴ね)
「今は、あの森の主に気に入られた連中が住んで見回りしているから、悪さができなくなったようだがな。そのせいで、他に金になるのを探して、子供を拐う奴らも出て来た。貴族の子供なら金になるからな。何年も前にそれをやって金になった連中がいたらしくて、それを真似てるんだ」
「身代金を取るの?」
「まさか。今は迷子になってたのをたまたま見つけたって金を貰うのさ」
(何、それ)
アルテアは、信じられない顔をした。貴族は体面を気にして、誘拐されたと騒ぎ立てずに金で解決する者ばかりなようだ。
そんな話をクリティアスが苦虫を噛み潰したような顔で聞いていたのをアルテアは全く見てはいなかった。
「昔は、騒ぎ立てた貴族もいたんだがな。金を払いたくないって出し渋った奴もいて、そのせいで子供が戻って来なかったそうだ」
「っ、」
「そんなことがあってから、金を出し惜しみしなくなったのはいいが、今や世間体を気にして動いているんだ。おかしなもんだよな」
そんな話を聞いてアルテアはいたたまれない気持ちになってしまった。
それでは、おちおち1人で出かけられないだろう。
「悪い。今日は、他にも行くところがたくさんあるんだ。アルテア、さっさと食え」
「へ? あれ? クリティアスさん、もう食べたの!?」
「……あんなの腹の足しになるかよ」
そう言われてアルテアは、慌てて食べた。
(私には、一口が大きいな)
「っ、美味しい!」
アルテアが美味しいとはしゃいで食レポをしたことで、おじさんの屋台は行列になった。
(ありゃ、サクラをしたつもりはないけど。凄いことになったな)
アルテアが物珍しい人間の子供というのがあったようだ。
「お嬢ちゃん、また来てくれ!」
「は~い!」
おじさんは大喜びしてくれた。
「お嬢ちゃん、こっちのも食べてみないか?」
「甘いものは、いかが?」
アルテアが食べ歩くと行列ができることになり、クリティアスが日が暮れると屋台の並ぶところから、抜けさせるまで大した時間はかからなかった。
アルテアが、その界隈で有名になるのも時間の問題だったが、あの調子で屋台の人たちみんなに好かれるのも、大した時間はかからなかった。
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