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第1章

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(蜂蜜を使ったレシピ。結構、色々思いついたな)


アルテアは、記憶を失くす前から、お菓子作りが好きだったのかも知れない。蜂蜜を食べ比べて、どんなレシピにするのが合うかを考えたら、すんなり出てきた。

アルテアが、そんなことをしているクリティアスが何かとサポートするように動いてくれていた。いや、普段からそうだが、川で魚を取ったり、木の実やら他の食材やらを持ち帰って来て、彼でもできる料理を振る舞ってくれていた。それらは、ちょっと味気ないものが多かったが、それでもアルテアがこれは食べれないと言う物をアルテアに食べさせることはなかった。

それを食べながら、アルテアは……。


(香辛料とか、お肉もほしいのよね。それにお米とかも食べたい。一番は、お菓子の材料になる小麦粉やら卵やらがほしいところね。お菓子作るのに、他にも欲しい物はあるけど、一応シンプルな物をお菓子は作る予定だけど。酸っぱい木の実を蜂蜜でつけたのも、美味しいけど、冷たい水で飲むより、炭酸水とか、サイダーがあったら、もっと美味しくなると思うのよね)


アルテアは、そんなことを思っていた。

すると街の話を若木がしてくれた。アルテアが欲しているものなら、街で簡単に買えると教えてくれた。

森の主であるユグドラシルも、アルテアがクリティアス以外の者に会うのもいいだろうと色々と森の外のことを教えてくれた。

あの花畑の中にアルテアが入れたとして、無事に蜂蜜の売り込みができて、蜂の巣は置かずに花の種や花びら、花の実などでも物々交換が可能になるかを調べているようだが、どれもアルテアは欲しいが少し手を加えないと街では売れなさそうで、それにも頭を悩ませていた。


(一手間ね。染め物や押し花とか。お茶とか。香りを楽しむ物とかかな)


ユグドラシルも、妖精たちとアルテアが仲良くなれたらと思って色々としてくれているようだ。

そんな中で、クリティアスだけがアルテアが街に行くことに難色を示し続けていた。


「どうしても、行くのか?」
「えっと、クリティアスさん。暗くなる前に帰って来るよ? それにユグドラシル様が、古い友人に教えてくれたの。その人なら、色々と親身になって教えてくれるって」
「……」


クリティアスは、それに怪訝な顔をしたままだった。


(街に嫌な思い出でもあるのかな?)


何とも煮えきらないクリティアスにそんなことをアルテアは思っていると……。


「……俺も行く」
「え?」
「だから、俺も行く。だが、すぐには無理だ」
「?」
「今月末まで待て。そうすりゃ、荷物持ちもできる」
「クリティアスさん」


どうあっても一緒に行くと譲らないクリティアスにアルテアは、苦笑した。水やりで血豆だらけの手になったのを気にしているのかも知れない。


「わかった。月末ね」
「……あぁ」


無理することないとは、アルテアは言えなかった。明らかに無理をしようとしているように見えるが、そこまでしてアルテアについて行くと言うのだから、よほど危なっかしいと思われているのかも知れない。


(荷物持ちしてくれるのは助かるけど、本当に大丈夫なのかな?)


そこから、クリティアスと約束したのだからと根ほり葉ほり彼に聞くこともせずに街で交換できそうなものを考えた。アルテアが1人で行くよりたくさんの物を持ってもらえるのもありがたかった。

そのためにアルテアは準備をすることに専念した。それが楽しくなってしまったアルテアは、ウキウキしたのを隠しきれずに過ごしていて、その姿をクリティアスが何とも言えない顔をして見ていたことにも気づいていなかった。

月末になって、驚くことが朝から起こっていた。昨日は、アルテアはそわそわして中々眠れなかったが、そんなことを全部忘れたかのようになっていた。


「え?」
「……文句あるか?」
「その声、クリティアスさん、なの?」
「……そうだ」


アルテアは、人間の姿となって現れたクリティアスに目を見開いて驚いてしまった。そして、こう思ったのは、すぐのことだった。


(人間の姿になれるんだ。通りで人間っぽいと思うわけね)


20代の真ん中くらいだろうか。そのくらいの男性が立っていた。声も良かったが、人間の姿は声に負けず劣らずのイケメンだった。熊の姿でも、格好良さが滲み出ていたから、人間でも格好良いのは当たり前かも知れないが、アルテアには見慣れないものがあった。

普通は、ツキノワグマの方が見慣れないはずだが、アルテアには人間の姿になったクリティアスが見慣れなかった。


「熊の方が楽なんだよ」
「……えっと、この世界の人たちは、みんな、あなたみたいなの?」
「完全に獣になれる奴は減ってる。それに完全に人間の姿形になれる奴も減ってる。大概は、耳や尻尾が獣のままだ。その方が、人間の格好の時より、力が使えるからな」
「……それって、私も、獣になれたりするのかの?」
「いや、お前は人間だ」
「何でわかるの?」
「子供の頃は、人間の格好に完全になれる奴はいない。一番、不安定な時期だからな」
「それって、私、物凄く珍しいってことになる?」
「人間の子供が1人でいたら、目立つだろうな」
「……」


(つまり、物凄く危険な目にあいかねないってことなわけね。木の実を取るのに枝を折るようなのもいるのだもの。珍しいってだけで、大変な目にあいそう)


だから、着いて行くと言っていたようだ。アルテアは、ようやくクリティアスが頑なに1人で行かせたくなかった理由がわかった気がしていた。

更にアルテアには気になることがあった。


(何で私は1人であそこに現れたんだろ……? どうして、何も覚えていないんだろう? この世界のことはわからないことだらけだけど、慣れ親しんだ常識はあるみたいだし)


そこが不思議でならなかった。でも、そんなことをアルテアは思案している場合ではなかった。街に行くのだ。約束したことを実行しなくてはと思う方が早かった。


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