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第1章

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妖精の話を聞いて、頭の中ははてなマークだらけだった。


“アルテア。蜂蜜を使ったお菓子を作れますか?”


ユグドラシルの言葉にキョトンとしたのは、アルテアだ。蜂蜜うんねんで、アルテアがお菓子に合うものについて話したことをユグドラシルに話してはいないから、どうしてここでお菓子の話になるのかと思ってしまった。


「お菓子? えっと、材料さえあれば」
“蜂蜜の良さを全面に出したものなら、すんなりと妖精たちと仲良くなれると思います”
「蜂蜜の良さをわかってもらうってことですか? 甘い物が好きなら、蜂蜜さえ採れれば自給自足できそうですけど」


(ん? それだと行き来ができなくなる前に自給自足してたかも。そうじゃないとあの花畑で甘い物なんて、たかがしれてる気がするけど)


それなら、前からしているのでは?とアルテアは思ってしまった。


“昔、蜜でベタベタになった妖精が危ういことになってからは、甘い物をあそこで作るのに細心の注意を払うようになったんです。妖精は、人間よりも、だいぶ小さいので、蜂蜜を主食にし過ぎると太ってしまいかねません。蜂蜜の美味しさよりも、お菓子にした美味しさを伝えた方が毎日食べるには問題はないかと思います”
「確かに甘い物を直に食べまくることになると大変ですよね」


(その分を私は歩きまくったことで消費した気がするけど。太りすぎた妖精は、あまり見たくないかも……)


筋肉痛は酷かったが、それ以外の疲れはなかった。


“交流がなくなって、かなり経ちます。お菓子を知らない世代が多いかも知れません”
「……えっと、自給自足はできてるんですよね?」
“花の蜜の水割り作り程度で、彼らは花を食べたり、花の実を食べたりしているはずです”
「……」


ユグドラシルの言葉を聞いていて、アルテアは気になることに気づいた。


「あの、花畑が素敵だと思って蜂蜜に拘ってしまいましたけど、あそこに妖精たちが住んでいるのなら、蜂の巣となるものを置かせてもらうより花の種をわけてもらったり、花や花の実とかを物々交換する方向が良いのかもしれませんね」
“……そうですね。蜂たちが、あそこにいたことがないのに仲良くするのも中々大変かも知れません。あそこは、妖精しか暮らしてはいませんから”
「花の種をわけてもらえたら、他でも育てられるものですか?」
“そうですね。かつて、育てられた人間がいましたが、……アルテアならできる可能性はあります”
「可能性。つまり、妖精たちのいるところには入れればってことですよね?」
“そうですね”
「……」


アルテアは、女王蜂たちに妖精たちと蜂たちが、上手く意思疎通できるか、難しい。女王蜂たちは、蜂蜜を使ったお菓子を妖精たちが気にいってくれればいいとばかりにしていた。


(うん。はっきりしてる。それにどの女王蜂の巣からわかれるかで、争うこともない方向がいいに決まってるわよね)


アルテアに色々と期待させてしまったが、女王蜂たちも蜂たちも怒ってはいなかったことにホッとしていた。

妖精たちがお菓子を気に入ったか、うんねんの話を楽しみにしているし、それ以上の話になってもアルテアが作った物を妖精に食べてもらえただけでも、光栄だとなったようだ。

でも、一番は自分の作った蜂蜜だと女王蜂たちは思っていた。


「あー、えっと、皆さんから頂いた蜂蜜を利用して、それぞれの蜂蜜の特徴を活かしたお菓子を考えてみようかと思っています」


それには女王蜂たちは驚いていた。


「あの、それで、妖精たちがどういうお菓子を好むかは、全くわからないのですけど、好むお菓子になるように妖精用に皆さんの蜂蜜をそれぞれ使わせてもらいます。あー、その、好みがわかれたりしても、大丈夫ですか? 駄目なら、一片にではなくて、会えるたびに持って行きますけど」


女王蜂たちは競うことが好きだったので、アルテアはそう聞いていた。

それぞれの女王蜂は、アルテアが一片に持って行くことを望んだ。そして、どれが一番かを選んだのを聞きたいと言ったのは、どの女王蜂もすぐのことだった。


(うん。闘争心は凄いのよね)


「わかりました。あ、でも、その前に入れなきゃ意味ないんですけど。ユグドラシル様、何も持たずに入るって失礼ですよね?」
“おすすめしません。これだけ話してから試すだけでは、問題です。お菓子を持って行くと言って、アルテアはこれからお菓子を試しに作るのですよね? 日時を指定して、来れないとわかってショックを起こした妖精たちが大変なことになったことがあります。日時は、詳しく決めないことがいいですよ”
「えっと、他にも気をつけることは? さっきのお菓子の食べ比べとかは、嫌がったりします?」
“それは、したことがないかと。でも、お菓子を食べ比べられるなんて、素敵だと思いますよ。ただ、食べられなかった者がいたら、悲しむでしょう。特に仕事中の者は、王宮勤めの護衛たちはきっちりしています。それと動けない者もいるはずです。その妖精たちのところにも届くようにすると好感を持ってもらえると思いす”


(なるほど。どれが一番かを決めるのに皆に食べ比べてもらうのには、いいかも)


そこから、ユグドラシルの覚えている注意事項をアルテアは聞いて女王蜂たちとは、その日はわかれた。


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