22 / 111
第1章
22
しおりを挟む妖精の話を聞いて、頭の中ははてなマークだらけだった。
“アルテア。蜂蜜を使ったお菓子を作れますか?”
ユグドラシルの言葉にキョトンとしたのは、アルテアだ。蜂蜜うんねんで、アルテアがお菓子に合うものについて話したことをユグドラシルに話してはいないから、どうしてここでお菓子の話になるのかと思ってしまった。
「お菓子? えっと、材料さえあれば」
“蜂蜜の良さを全面に出したものなら、すんなりと妖精たちと仲良くなれると思います”
「蜂蜜の良さをわかってもらうってことですか? 甘い物が好きなら、蜂蜜さえ採れれば自給自足できそうですけど」
(ん? それだと行き来ができなくなる前に自給自足してたかも。そうじゃないとあの花畑で甘い物なんて、たかがしれてる気がするけど)
それなら、前からしているのでは?とアルテアは思ってしまった。
“昔、蜜でベタベタになった妖精が危ういことになってからは、甘い物をあそこで作るのに細心の注意を払うようになったんです。妖精は、人間よりも、だいぶ小さいので、蜂蜜を主食にし過ぎると太ってしまいかねません。蜂蜜の美味しさよりも、お菓子にした美味しさを伝えた方が毎日食べるには問題はないかと思います”
「確かに甘い物を直に食べまくることになると大変ですよね」
(その分を私は歩きまくったことで消費した気がするけど。太りすぎた妖精は、あまり見たくないかも……)
筋肉痛は酷かったが、それ以外の疲れはなかった。
“交流がなくなって、かなり経ちます。お菓子を知らない世代が多いかも知れません”
「……えっと、自給自足はできてるんですよね?」
“花の蜜の水割り作り程度で、彼らは花を食べたり、花の実を食べたりしているはずです”
「……」
ユグドラシルの言葉を聞いていて、アルテアは気になることに気づいた。
「あの、花畑が素敵だと思って蜂蜜に拘ってしまいましたけど、あそこに妖精たちが住んでいるのなら、蜂の巣となるものを置かせてもらうより花の種をわけてもらったり、花や花の実とかを物々交換する方向が良いのかもしれませんね」
“……そうですね。蜂たちが、あそこにいたことがないのに仲良くするのも中々大変かも知れません。あそこは、妖精しか暮らしてはいませんから”
「花の種をわけてもらえたら、他でも育てられるものですか?」
“そうですね。かつて、育てられた人間がいましたが、……アルテアならできる可能性はあります”
「可能性。つまり、妖精たちのいるところには入れればってことですよね?」
“そうですね”
「……」
アルテアは、女王蜂たちに妖精たちと蜂たちが、上手く意思疎通できるか、難しい。女王蜂たちは、蜂蜜を使ったお菓子を妖精たちが気にいってくれればいいとばかりにしていた。
(うん。はっきりしてる。それにどの女王蜂の巣からわかれるかで、争うこともない方向がいいに決まってるわよね)
アルテアに色々と期待させてしまったが、女王蜂たちも蜂たちも怒ってはいなかったことにホッとしていた。
妖精たちがお菓子を気に入ったか、うんねんの話を楽しみにしているし、それ以上の話になってもアルテアが作った物を妖精に食べてもらえただけでも、光栄だとなったようだ。
でも、一番は自分の作った蜂蜜だと女王蜂たちは思っていた。
「あー、えっと、皆さんから頂いた蜂蜜を利用して、それぞれの蜂蜜の特徴を活かしたお菓子を考えてみようかと思っています」
それには女王蜂たちは驚いていた。
「あの、それで、妖精たちがどういうお菓子を好むかは、全くわからないのですけど、好むお菓子になるように妖精用に皆さんの蜂蜜をそれぞれ使わせてもらいます。あー、その、好みがわかれたりしても、大丈夫ですか? 駄目なら、一片にではなくて、会えるたびに持って行きますけど」
女王蜂たちは競うことが好きだったので、アルテアはそう聞いていた。
それぞれの女王蜂は、アルテアが一片に持って行くことを望んだ。そして、どれが一番かを選んだのを聞きたいと言ったのは、どの女王蜂もすぐのことだった。
(うん。闘争心は凄いのよね)
「わかりました。あ、でも、その前に入れなきゃ意味ないんですけど。ユグドラシル様、何も持たずに入るって失礼ですよね?」
“おすすめしません。これだけ話してから試すだけでは、問題です。お菓子を持って行くと言って、アルテアはこれからお菓子を試しに作るのですよね? 日時を指定して、来れないとわかってショックを起こした妖精たちが大変なことになったことがあります。日時は、詳しく決めないことがいいですよ”
「えっと、他にも気をつけることは? さっきのお菓子の食べ比べとかは、嫌がったりします?」
“それは、したことがないかと。でも、お菓子を食べ比べられるなんて、素敵だと思いますよ。ただ、食べられなかった者がいたら、悲しむでしょう。特に仕事中の者は、王宮勤めの護衛たちはきっちりしています。それと動けない者もいるはずです。その妖精たちのところにも届くようにすると好感を持ってもらえると思いす”
(なるほど。どれが一番かを決めるのに皆に食べ比べてもらうのには、いいかも)
そこから、ユグドラシルの覚えている注意事項をアルテアは聞いて女王蜂たちとは、その日はわかれた。
32
お気に入りに追加
92
あなたにおすすめの小説
王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
旦那様は大変忙しいお方なのです
あねもね
恋愛
レオナルド・サルヴェール侯爵と政略結婚することになった私、リゼット・クレージュ。
しかし、その当人が結婚式に現れません。
侍従長が言うことには「旦那様は大変忙しいお方なのです」
呆気にとられたものの、こらえつつ、いざ侯爵家で生活することになっても、お目にかかれない。
相変わらず侍従長のお言葉は「旦那様は大変忙しいお方なのです」のみ。
我慢の限界が――来ました。
そちらがその気ならこちらにも考えがあります。
さあ。腕が鳴りますよ!
※視点がころころ変わります。
※※2021年10月1日、HOTランキング1位となりました。お読みいただいている皆様方、誠にありがとうございます。
探さないでください。旦那様は私がお嫌いでしょう?
雪塚 ゆず
恋愛
結婚してから早一年。
最強の魔術師と呼ばれる旦那様と結婚しましたが、まったく私を愛してくれません。
ある日、女性とのやりとりであろう手紙まで見つけてしまいました。
もう限界です。
探さないでください、と書いて、私は家を飛び出しました。
余命六年の幼妻の願い~旦那様は私に興味が無い様なので自由気ままに過ごさせて頂きます。~
流雲青人
恋愛
商人と商品。そんな関係の伯爵家に生まれたアンジェは、十二歳の誕生日を迎えた日に医師から余命六年を言い渡された。
しかし、既に公爵家へと嫁ぐことが決まっていたアンジェは、公爵へは病気の存在を明かさずに嫁ぐ事を余儀なくされる。
けれど、幼いアンジェに公爵が興味を抱く訳もなく…余命だけが過ぎる毎日を過ごしていく。
お飾りの側妃ですね?わかりました。どうぞ私のことは放っといてください!
水川サキ
恋愛
クオーツ伯爵家の長女アクアは17歳のとき、王宮に側妃として迎えられる。
シルバークリス王国の新しい王シエルは戦闘能力がずば抜けており、戦の神(野蛮な王)と呼ばれている男。
緊張しながら迎えた謁見の日。
シエルから言われた。
「俺がお前を愛することはない」
ああ、そうですか。
結構です。
白い結婚大歓迎!
私もあなたを愛するつもりなど毛頭ありません。
私はただ王宮でひっそり楽しく過ごしたいだけなのです。
【12/29にて公開終了】愛するつもりなぞないんでしょうから
真朱
恋愛
この国の姫は公爵令息と婚約していたが、隣国との和睦のため、一転して隣国の王子の許へ嫁ぐことになった。余計ないざこざを防ぐべく、姫の元婚約者の公爵令息は王命でさくっと婚姻させられることになり、その相手として白羽の矢が立ったのは辺境伯家の二女・ディアナだった。「可憐な姫の後が、脳筋な辺境伯んとこの娘って、公爵令息かわいそうに…。これはあれでしょ?『お前を愛するつもりはない!』ってやつでしょ?」
期待も遠慮も捨ててる新妻ディアナと、好青年の仮面をひっ剥がされていく旦那様ラキルスの、『明日はどっちだ』な夫婦のお話。
※なんちゃって異世界です。なんでもあり、ご都合主義をご容赦ください。
※新婚夫婦のお話ですが色っぽさゼロです。Rは物騒な方です。
※ざまあのお話ではありません。軽い読み物とご理解いただけると幸いです。
※コミカライズにより12/29にて公開を終了させていただきます。
初耳なのですが…、本当ですか?
あおくん
恋愛
侯爵令嬢の次女として、父親の仕事を手伝ったり、邸の管理をしたりと忙しくしているアニーに公爵家から婚約の申し込みが来た!
でも実際に公爵家に訪れると、異世界から来たという少女が婚約者の隣に立っていて…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる