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第1章
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しおりを挟む(森の主って、この森の親とか。そんな感じかな? 頼めば、桶も水瓶も貸してくれたけど、眠っている間でも、ちゃんと応えてくれていた。最低限の力を貸してくれたのよね。あとは、自力でどうにかしろってことだとしても、寝てても私みたいなのに力を貸してくれてたなら、安眠なんてできないわよね)
少女は、ふとそんなことを思ってしょんぼりしていたが、クリティアスの方はそこまでのことはしていないと少女に付き合っていただけのように言っていた。
それでも、最終的に一緒に行ってくれることになったのは、少女が心配になったからのようだ。ずっと、こんな感じのせいかも知れない。多分、何を考えてるかが、ずっと一緒にいたせいでわかるようになったのではなかろうか。
全部を口にはしていないし、顔にも出していないはずだが、全部でなくとも中々のことを言葉にしている自覚が少女にはなかった。
それを気にしていたのかも知れない。森の主の前で、少女がとんでもないことをしそうだと思ってもいたのかも知れない。
今回は、最初は安眠妨害なことをしていたと大反省をしていたが、クリティアスが考えを改めたのを不思議に思っていた。
その辺の期待を彼女が裏切ることはなかった。もっとも、クリティアスはそれを期待していたわけではなかった。それをやらせないためについていたのだが、少女は……。
(私、そんなに迷子になりやすいと思われてるのかな? 確かに水やりの時に木々が教えてくれないと迷子になっていたとは思うけど……。森の中って、似たりよったりだから、私が迷子になりやすいってわけじゃないと思うけど)
クリティアスの気遣いをそんな風に勘違いしていた。少女は、常にこんな感じが通常運転となっていた。彼が、こんなことを思っていそうだと見ている以上のことを思っていたのは確かだ。
それに血豆の手で、痛いと言うことは決してなかった。それどころか、痛そうな顔すらしていなかった。そんな酷い手をしている人間の子供なんてクリティアスは見たこともなかった。
それにこの森の中に突然現れて、できることを率先してやろうとして、森のピンチを救ったのだ。何でもない顔を彼女はしているが、とんでもないことをしたのだが、どうにもその自覚がないように見えてならない。
彼女に会ってからのことを考えて神妙な顔をするクリティアスに少女は、不思議そうにした。
「クリティアスさん?」
「こんな奥まで来た奴は、この何百年といないはずだ。あんたみたいな人間や俺が、気軽に来れるところではない。簡単に許されるわけがない」
「……」
怖いもの知らずというべきか。熊と会話して、木たちと話せるのだ。記憶はないが、それが普通のことではないことは、少女にもわかった。
何なら動物の姿で、話せないだけで居場所を追われた者たちも、少女の周りをうろうろし始めていた。
決して邪険に扱わず、嫌味なことも、馬鹿にすることも言わない少女に心を許し始めているようだ。
それも、クリティアスが長年ここで暮らしていて初めてのことだった。彼は、話せないのに話しかけるなんてしたら、更に傷つくと思っていたが、そうではなかったようだ。
少女が困っていれば、何に困っているかを見て、解決できるように手伝う者もいた。それに気づくたび、少女は礼を言っていた。人間には、同じようにしか見えないはずだが、見分けがついているようだ。
そんなことをクリティアスが思案している頃、少女は……。
(相変わらず、名前だけがピンとこないのよね。他は、覚えていることがポロッと出てくる。驚いてないから、自然なのか。驚きすぎて落ち着いているだけかが、そもそもわからないのよね。ただ単に鈍いだけ? 記憶を失くす前の私も、今と変わりないってことなのかな?)
そんなことを思っていると何千年も経っていそうな木がそびえ立っているのが見えた。その木の側にたどり着くまで、まだまだ距離があるというのにその木が見えた時点で、その木に少女は釘付けとなった。
(凄い。なんて見事な木なの。こんな木があるのね。樹齢何千年かしら? ここの木は、みんな、この木の子供ってことになるのかな? ん~、でも、この木と同じ木は見なかったな。やっぱり特別ってことなのかな? 若い木は私でも簡単に腕を回せたけど、この木は私が何人いたら一周できるんだろうか。歩くだけでもかなりかかりそう)
そんなことを思っていると若い木々のように頭の中に直接響くような声音がした。でも、その声はそれまで聞いた木々の声よりも、温かみがあった。
そこから、森の主ことユグドラシルに感謝を伝えられた。
“本当は、もっと早く目覚める予定だったのですが、ここを任せられる者がいなくて、眠るのをずっと短い周期にしていたせいで、今回はその反動がでたようです”
「それは、お疲れが出たのですね。もう大丈夫ですか?」
“えぇ、いつぶりかわからないほど、とても清々しい気分です。ですが、その間にあなたがいてくれて本当に良かった。感謝してもしきれません”
他の木よりも、声音に重みを感じた。でも、慈愛と慈悲とそしてユグドラシルがいることで、この森は守られているのも感じられた。
この森にいることをユグドラシルが許してくれているから、居られる気がしてもいた。きっと、少女だけでなくて、クリティアスもそうだ。他の動物たちも、行き場がない者を守っているのも、ユグドラシルがしている。それは、少女にもわかった。
(みんなのお母さんみたい。……なんて、こんなこと思うのも、失礼よね)
そんなことを少女が考えているとあれよあれよと言う間に住むところを与えてもらえることになっていた。その前に色々と話したはずだが、緊張し過ぎていたのか。あまり良く覚えていない。いや、緊張ではなくて余所事を考えていたせいだ。
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