与えてもらった名前を名乗ることで未来が大きく変わるとしても、私は自分で名前も運命も選びたい

珠宮さくら

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第1章

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雨が数日続いて、森の中ではお祭り騒ぎが続いた。

少女は、動物たちと一緒になって大はしゃぎしていたが、そこは人間と動物。野宿も続いていて、栄養面も偏りがちで、お腹いっぱい食べていたわけでないのも原因だったのかも知れない。それでも、少女が風邪を引く羽目になるとは思わなかった。やはり人間の毛皮のある動物は違うようだ。


(というか、みんな、タフすぎでしょ。これが、動物と人間の違い? ……なんか、違う気がするけど)


連日の野宿や水汲みをして水を与えて、誰にもそこまでする必要はないとばかりに言われた水瓶に水を貯めて、馬鹿にしていた者たちや何もしてはくれていなかった者に汲んだ水を飲ませていた。何の努力もしていなかった者たちは、水を飲ませてもらいながらも、その量が少ないことに不満そうにしてばかりいた。

それに気づかないわけがないが、少女は平然として自分は水をあまり飲まずにいた。

その後は動物たちに感情を相手に伝える方法を色々教えて文字を教えたりしているのを馬鹿にしているのも、不満のある者だった。

あんなことをしても、雨が降るわけでもないと思っていた。どうせ、最終的には森の主がどうにかしてくれると自分たちでは、どうにもできないと諦めている者も多かった。

不満ばかりの周りと違い、少女はそれまでに溜まった色んな疲れもあったのか。はたまた、人間と動物たちとの体力の違いが、そもそもあったのかも知れないが、ぐったりする少女を世話したのは、クリティアスが主だった。

会話の仕方を少女に教わった動物たちは、クリティアスに少女のことをしつこく聞いていた。それにクリティアスは、かなりイラッとすることも多かった。


「ついさっき聞いたことと変わらない。変わったことがあれば、教えるから同じ質問ばかりするな」


クリティアスは、少女のことを根掘り葉掘り聞いてくる連中に会話が成り立たない頃の方が良かった気がしてならなかった。

そこから数日して、森の中で少女が血豆の手で水運びをやめなかったことなどが、大袈裟に伝わっていた。森の危機を救った少女として、褒め称えられてもいた。

少女は、そんなことになっていることにまるで興味がなかった。全く別のことを考えていた。


(野宿で、身体がバキバキだったのに水運びで筋肉痛になって、雨が降るまで休んでいたつもりだったけど、連日の野宿で身体がまいっていたみたいね。雨に濡れて風邪まで引いた。ベッドが恋しいな。それとお風呂に入りたい。雨は、シャワーにはならないのはよくわかったわ)


川で身体を拭くくらいしかできていなかったが、大雨で服を着たままずぶ濡れになったのは、違ったようだ。筋肉痛を和らげるのにゆっくりお湯につかれたら、痛みも少しはマシになるはずだったが、ゆっくりどころか。ぐったりして筋肉痛が治ったのも、つかの間のことだった。風邪を引いて節々が更に痛くなるとは思いもしなかった。


(でも、血豆ばかりの手も、すっかりよくなった。薬草は効いたけど、繰り返したせいで、随分と手の皮が厚くなった気がする)


そんなことを思って手を見て苦笑していた。少女の風邪が良くなったことを知った動物たちが、少女の周りに常にいた。

ある日、いつもと違うことが起こった。


「森の主が、呼んでるのか?」
“うん。呼んでる”
「やっと、起きたのか」


森中が、森の主の目覚めを喜んだ。そんな彼女が真っ先にしたのは、この森を守ってくれた少女たちに感謝を表したいというものだった。

この森で一番古い木が礼をしたいと言っているのを若い木で、枝が折れたのが治った木が教えてくれた。それから、そこまで向かうことになったが……。


(森の主について、知らなさすぎよね)


少女は、森の主と聞いて桶を貸してくれと伝えた時も水瓶についても、すぐに貸してくれたのは覚えていた。

それにこの森にいるのだから、その時のお礼と挨拶くらいしとかなきゃと思ったことが大きかった。

そんな気軽さをクリティアスは持ってはいなかったようだが、少女はいつもと変わりはなかった。


(なんか、奥に進むと雰囲気が違うな。空気が凄く澄んでる)


クリティアスは、森の奥に進む前から物凄く緊張しているようだった。

それどころか。散々、行くのを拒んでいたほど、森の主とやらは凄い存在のようだ。少女は、その森の主がどこまで凄いのかが、いまいちわかっていなかった。

桶や水瓶をすぐに用意できるのに雨が降らない時の対策がなされていなかったのも、不思議だった。


(森の主だけを頼りにしすぎて、自分たちだけでどうにかするって、考えがないみたいだから、ゆっくり眠っていたくなるのもわか、なくはないかな)


そんなことを思っていた。


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