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第1章
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しおりを挟むそこから、数日して誰もが待ち侘びた雨が降ったが、森に住んでいる動物たちも少女が水を確保していなければ危なかった。
でも、雨が降るまで少女は何かと頑固さを披露してもいた。特に水の節約に人一倍気をつけて率先していた。
「水だ」
「私はいい」
クリティアスは、何度も少女に水を飲めと言ったが、ほぼほぼ断られていた。
体力を温存するのに木にもたれて、少女は空を見ていた。見ているだけで雨が降って来るわけでもないが、そうしてやり過ごすことが増えていた。
もたれかかる木は、少しでも過ごしやすいように葉で少女を太陽から隠そうとしていた。
「無理やりにでも飲ませるぞ」
「……なら、あなたが先に飲んで。そしたら、飲む」
「……」
少女ばかりを気にしていた彼も、同じことをしていて少女にはバレていた。
森の中の動物たちも、少女たちのところに避難して来ていた。ここに来れば、水を飲めると思ってのことだ。その動物たちにみんなで、耐え忍ぶことを伝えて、節水を心がけてもらった。
「みんなで、乗り切りましょう」
動物たちは不安そうにしながらも、身を寄せ合って助け合うことにした。
誰もが、森の主がどうして目覚めてくれないのかと思っていたが、その代わりのように現れた少女のおかげで、不安でパニックになることはなかった。
そのうち、少女は言葉を話せない動物たちに文字を教えたり、絵で会話ができるように教え始めた。せっかく、集まっているのだからと思いが伝わる方法を教えようとしたのだ。
クリティアスは、そんなことしても何も変わらないと思っていた。そう思っていた動物たちの方が多かった。
そんなことをしても雨が降って来るわけではないと投げやりになっているのもいたが、少女が教えるのをやめることはなかった。
「本当に頑固だな」
クリティアスは、それでも少女を見ていた。
少女の側にいる動物たちは、自分の感情や考えていることをわかってもらえる手段を得て、嬉しそうにしていた。
そんな風にしているのは、この森にやって来てからクリティアスや他の者たちも初めて見る光景だった。
それは、森の主が起きていた時にも見たことのない光景だった。
「あなたたちは、覚えるのが早いわね」
薬草や木の実を少女に届けてくれたリスやうさぎは、群を抜いていた。すぐにちょっとした会話ができるようになって、いきいきとし始めていた。
更には、少女に褒められ、頭や身体を撫でられて嬉しそうにしていた。
それをクリティアスは、ずっと眺めていた。木々たちも、少女たちが何をしているのかを邪魔しないように見ていた。古株の木々は相変わらず、手助けをしようとはしていなかった。
習う気のない動物たちは、白けた顔をして見ていた。そんなことをしても、一滴の雨も降らないと思っているようだった。
そこから、待望の雨が降って来た時だった。熱心に習っていた動物たちが、雨が降って来たことを少女に、雨を喜んでいることや雨に濡れた気持ちいいことなどを彼女に伝えたのだ。
「そうね。私も、雨が降ってくれて、凄く嬉しいわ。それに濡れるのも、気持ちいいものね」
自分の伝えたいことが伝わって動物たちは嬉しそうにして、雨が降ったこと以上に興奮していた。
それを見て、クリティアスは自分が間違えていたことを痛感した。自分の気持ちを表せる方とそうでない方に明らかな差ができていたのを目の当たりにした。
「クリティアスさん! 恵みの雨よ!」
「あぁ、そうだな」
動物たちと一緒に少女は大はしゃぎしていた。その中心に人間の女の子がいた。
そして、木々たちも喜んでいた。この森の中で、喜んでいないものは誰もいなかった。
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