上 下
9 / 111
第1章

しおりを挟む

そのうち、若き木を治したことや他の木たちも水分不足でまいりすぎることもなく過ごせたことが、話題にのぼらない日はなくなっていくことになった。木々の連絡網は本当に凄いようだ。

それこそ、頼んでもいないのに若い木たちが枯れてしまうと彼女だけが、危機感を持って行動していたのは明らかになっていた。

いつか、雨が降ると楽観視されていた。更には、森の主が目を覚ませば、どうにでもなるかのように古株の木々は思っていたことも大きかった。


“まだ、やってるのか”
“いい加減にやめりゃいいのに”


古株の木々たちは、少女を全く歓迎してはいなかった。少女のことを色々言っては非難してばかりいた。

それが聞こえていないのか。少女は、いつもそれを見聞きしても、何も残らなかった。散々なことを言う言葉だけが、彼女の耳には入ることがなかったのだ。

人間の小娘やツキノワグマが配る水やりなんかに頼らずとも、森の主がどうにかしてくれると思っているところが大きかったのは明らかだ。

その森では、それが当たり前になりすぎていたところもあった。古株の木々だけではない。森に住まう誰もが、そこまで最悪な状況になることはないと思っていた。そこにクリティアスも含まれていた。

でも、少女だけが違っていた。森の新参者だが、これから起こることを森の主がいれば何とかしてくれるという目では見ていなかったのだ。

森の主に会ったことはない。困っていたら、桶を貸してくれた。彼女が頼むとすぐに動いてくれた。

少女は気づいていないが、薬草や木の実を動物たちが届けていたのも、森の主からだったが後者のことは知らないままだった。

目覚めたら、どうにでもなる。いつも、そうしていたから、この森のみんなは自然に頼りすぎてしまっていたようだ。

そんなつもりはなくとも、そうなっていた。特に古株の木々が、既に頼りすぎた考え方が当たり前になりすぎていた。

そんな中で少女だけが、無意識にすぐに動いていた。少女だけだったが、無意識すぎて本人にも説明不能なことでしかなかった。

それから、数日が過ぎた。


(これ以上は、まずい。これからの水を確保しないと)


川の水が低くなりすぎる前に水を色んなところに確保していた。それらは、水やり用のためだけの水ではない。


“雨”
「もうしばらくは降らないわ」
“……わかるの?”
「何となく。ごめんね。たっぷり、あげられなくて」


雨が降るのを切望していたのは、木々だけではなかった。動物たちも、雨が降るのを待っていた。

少女は、水が飲めるところを動物たち用に確保していた。それを汲んでためておいた。それを手助けしてくれたのも、森の主だった。水瓶は、貸してくれた。

そこにせっせと水をためる少女をクリティアスが、眺めていたのは、少し前のことだ。彼的には、そこまで必死にならずとも、雨が降ると思っていたのか大きかったが、そうはならなかったのは数日経ってか、川の量で明らかになった。


「川の水が、ここまで減るのは初めて見た」
「……あとは、雨が降ってくれるのを待つしかなさそうね」


クリティアスは、少女を見ていた。あの時点で、こうなることがわかる者など、彼女しかいなかったことに驚いていた。そして、貯めた水瓶を見た。水やりだけでも、どれだけ大変だったことか。

それをかなりの水瓶に水をいれてストックしたのだ。その量からもわかるが、彼女は自分のことだけを考えて行動をしていたわけではないのは明らかだ。これまでのことでもそうだ。彼女は、自分1人の分だけを確保するなんて考えをしない少女だった。

彼女は、クリティアスが見ていることにも気づいていなかった。気にしていたのは、空だ。少女は、最近は空を見つめていた。


(雨は、まだ当分は無理ね。……あと、私にできることは、あの貯めた水でもち堪えるために策を練ることくらいね)


それが、上手くいくことだけを少女は願い続けた。この森にいるしかできず、他に行くことができない者たちが、雨が降らないことで居場所を追われることになるのは何としても避けたかった。


(何とかしてみせる)


少女は、森の主に起きてもらうことを急かすことも、どうにかしてくれると思うこともなかった。眠っているのなら、ゆっくりしていてほしかった。

そんなことを思いながら、時折、桶やら水瓶やらを頼んだりしていたが、その中を常に水でいっぱいにしてくれとか。水やりをしてやるのに力を貸してくれと頼むことはなかった。必要最低限なことしか頼まずにあとは自力でできることをし続けた。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約者とその幼なじみの距離感の近さに慣れてしまっていましたが、婚約解消することになって本当に良かったです

珠宮さくら
恋愛
アナスターシャは婚約者とその幼なじみの距離感に何か言う気も失せてしまっていた。そんな二人によってアナスターシャの婚約が解消されることになったのだが……。 ※全4話。

問い・その極悪令嬢は本当に有罪だったのか。

風和ふわ
ファンタジー
三日前、とある女子生徒が通称「極悪令嬢」のアース・クリスタに毒殺されようとした。 噂によると、極悪令嬢アースはその女生徒の美貌と才能を妬んで毒殺を企んだらしい。 そこで、極悪令嬢を退学させるか否か、生徒会で決定することになった。 生徒会のほぼ全員が極悪令嬢の有罪を疑わなかった。しかし── 「ちょっといいかな。これらの証拠にはどれも矛盾があるように見えるんだけど」 一人だけ。生徒会長のウラヌスだけが、そう主張した。 そこで生徒会は改めて証拠を見直し、今回の毒殺事件についてウラヌスを中心として話し合っていく──。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?

つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。 平民の我が家でいいのですか? 疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。 義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。 学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。 必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。 勉強嫌いの義妹。 この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。 両親に駄々をこねているようです。 私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。 しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。 なろう、カクヨム、にも公開中。

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

【完結】え、別れましょう?

須木 水夏
恋愛
「実は他に好きな人が出来て」 「は?え?別れましょう?」 何言ってんだこいつ、とアリエットは目を瞬かせながらも。まあこちらも好きな訳では無いし都合がいいわ、と長年の婚約者(腐れ縁)だったディオルにお別れを申し出た。  ところがその出来事の裏側にはある双子が絡んでいて…?  だる絡みをしてくる美しい双子の兄妹(?)と、のんびりかつ冷静なアリエットのお話。   ※毎度ですが空想であり、架空のお話です。史実に全く関係ありません。 ヨーロッパの雰囲気出してますが、別物です。

婚約者とその幼なじみがいい雰囲気すぎることに不安を覚えていましたが、誤解が解けたあとで、その立ち位置にいたのは私でした

珠宮さくら
恋愛
クレメンティアは、婚約者とその幼なじみの雰囲気が良すぎることに不安を覚えていた。 そんな時に幼なじみから、婚約破棄したがっていると聞かされてしまい……。 ※全4話。

元侯爵令嬢は冷遇を満喫する

cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。 しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は 「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」 夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。 自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。 お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。 本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。 ※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

処理中です...