7 / 111
第1章
7
しおりを挟む“手、それ、効く”
「これ、私に?」
森に住んでいる動物が、薬草を持って少女の側までやって来た。直ぐ側までではない。木々に頼まれたのかと思ったが、これも森の主のしたことだったようだ。眠っていても、森のためにしてくれた者に礼を尽くすのが、森の主と呼ばれるだけはあるようだ。
ちらちらと動物たちは少女を見ていた。でも、少女の手の届くところまでは来なかった。恐る恐るそこまで運んだが、怖がっているように見えた。
「届けてくれたのね。ありがとう」
リスとうさぎの数匹が、少女の側にそれを置いて、お礼を言われたことに驚いた仕草をしたかと思えば、すぐに居なくなってしまった。
(? クリティアスさんが、怖かったのかな?)
そんなことを思ってクリティアスを見ていたが、彼が口にしたのは別のことだった。
「あいつらは、話せない。あのままだ」
「それって……」
(どういうこと?)
あのままという意味が、少女にはよくわからなくて、ただ彼を見た。
「家族に追い出されたり、役立たずとして捨てられた連中だ。この森の木々たちと暮らしている。他に行き場がない」
「そうなの」
「言葉を理解しているが話せないから、関わりたくないんだろう」
「どうして?」
「自分たちが話せないからだ」
「? それなら、ボディランゲージとか。会話の手段なら、他にもあるでしょ?」
「……」
「話をするのに必要なのは、言葉だけじゃないわ」
少女は、そんなことを言って、すぐに消えた動物たちに声をかけた。
「お話しする気になったら、いつでも近くに来てね! 言いたいことあるなら、身振り手振りとかあるし。これ、本当にありがとう!」
「……」
「木の皆さんも、ありがとう」
“手、それ、効くわ”
“とっても、効くよ”
「そう。えっと、どう使えばいいのかな?」
「貸せ」
クリティアスは、薬草を水で濡らすと揉んだ。その光景のシュールさに少女は、何とも言えない顔をしていた。
(洗濯とか、上手そう)
その手つきで、そんなことを思ってしまった。記憶がないはずなのにおかしなことだ。そもそも、熊が洗濯なんておかしなこと考えるのは、この少女くらいだろう。
クリティアスは、そんなことを少女が考えているなんて思いもせずに少女を見た。
「手を出せ」
「あー、それって、もしかして……」
「その手なら、しみるだろうな」
「……」
(やっぱり。……あー、でも、凄く効きそうよね。しみるって、そういうことよね)
少女は、視線をきょろきょろさせてから、意を決して血豆のできた手をクリティアスに差し出した。
薬草は、凄く効きそうではあった。そして、少女が想像していた以上に物凄くしみた。
(いったい!!)
少女は、その痛みに叫びそうになったが耐えた。自分がやると言い出したことだ。そんなことで叫びたくなくて必死に耐えた。
(これ、片方ずつしたら、駄目なやつだわ)
こんなにしみるのかと思うほどだった。これほどしみる治療をされたことはない気がした。
(覚えてないけど)
「大丈夫か?」
「ん~」
「大丈夫なわけないな。これにこりたら、水運びなんてやるな。お前には、力仕事は無理だ」
「でも、やりたかった。私が言い出したことだし、後悔はしてない」
「……」
涙をためながら、クリティアスにそう言った。それは10歳ほどの少女の顔つきではなかった。
「……頑固だな」
「そうみたい。と、どうしたの?」
さっき、薬草を運んで来た動物とそうではないのが、少女の側に木の実を運んで来ていた。それこそ、大きな葉っぱを引いてから、そこに木の実を置き始めたのだ。
「木の実??」
“お礼”
“食べて”
「いいの? ありがとう! 運んでくれたのね。あなたたちも、ありがとう」
「……」
さっきは、すぐに帰ったリスやうさぎが、少女の側に付かず離れずのところにいた。そこから、ちらちらと少女を見ていた。
「ん?」
「……」
「どうしたの?」
「……」
何か、そわそわとしていたが、他の動物がそんな数匹をそこにいさせまいと寄って来て、名残惜しそうに離れて姿を隠してしまった。
少女は、それに心底残念そうにした。
(残念。まぁ、これからよね)
少女は、言葉が駄目ならばと手を振った。しみる痛みも、それでどうにか忘れられるかと思ったが、痛いものは痛いままだった。
(あ、でも、物凄くしみた後だからか。ズキズキ痛いのは落ち着いたかも。これなら、明日も水やりできそうね)
そんなことを少女は思っていた。
43
お気に入りに追加
97
あなたにおすすめの小説

【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!
桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。
「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。
異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。
初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!

キャンプに行ったら異世界転移しましたが、最速で保護されました。
新条 カイ
恋愛
週末の休みを利用してキャンプ場に来た。一歩振り返ったら、周りの環境がガラッと変わって山の中に。車もキャンプ場の施設もないってなに!?クマ出現するし!?と、どうなることかと思いきや、最速でイケメンに保護されました、

神の加護を受けて異世界に
モンド
ファンタジー
親に言われるまま学校や塾に通い、卒業後は親の進める親族の会社に入り、上司や親の進める相手と見合いし、結婚。
その後馬車馬のように働き、特別好きな事をした覚えもないまま定年を迎えようとしている主人公、あとわずか数日の会社員生活でふと、何かに誘われるように会社を無断で休み、海の見える高台にある、神社に立ち寄った。
そこで野良犬に噛み殺されそうになっていた狐を助けたがその際、野良犬に喉笛を噛み切られその命を終えてしまうがその時、神社から不思議な光が放たれ新たな世界に生まれ変わる、そこでは自分の意思で何もかもしなければ生きてはいけない厳しい世界しかし、生きているという実感に震える主人公が、力強く生きるながら信仰と奇跡にに導かれて神に至る物語。

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?
歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。
それから数十年が経ち、気づけば38歳。
のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。
しかしーー
「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」
突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。
これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。
※書籍化のため更新をストップします。

規格外で転生した私の誤魔化しライフ 〜旅行マニアの異世界無双旅〜
ケイソウ
ファンタジー
チビで陰キャラでモブ子の桜井紅子は、楽しみにしていたバス旅行へ向かう途中、突然の事故で命を絶たれた。
死後の世界で女神に異世界へ転生されたが、女神の趣向で変装する羽目になり、渡されたアイテムと備わったスキルをもとに、異世界を満喫しようと冒険者の資格を取る。生活にも慣れて各地を巡る旅を計画するも、国の要請で冒険者が遠征に駆り出される事態に……。

夫の隠し子を見付けたので、溺愛してみた。
辺野夏子
恋愛
セファイア王国王女アリエノールは八歳の時、王命を受けエメレット伯爵家に嫁いだ。それから十年、ずっと仮面夫婦のままだ。アリエノールは先天性の病のため、残りの寿命はあとわずか。日々を穏やかに過ごしているけれど、このままでは生きた証がないまま短い命を散らしてしまう。そんなある日、アリエノールの元に一人の子供が現れた。夫であるカシウスに生き写しな見た目の子供は「この家の子供になりにきた」と宣言する。これは夫の隠し子に間違いないと、アリエノールは継母としてその子を育てることにするのだが……堅物で不器用な夫と、余命わずかで卑屈になっていた妻がお互いの真実に気が付くまでの話。


はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~
緋色優希
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる