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第1章
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しおりを挟む少女は、初日の終わりに全く別のことを考えていた。
(この森の木って、みんな話せるのかな? 中には話したくない木もいたみたいだけど。古い木には、水やりできないって言ったから、話してくれてないだけだと思うけど。……喉乾いているのに我慢してなんて酷いこと言ってるのよね。私と話したくないのも無理ないわよね)
少女は、今更そんなことを思っていた。話したくないのではなくて、中には話せない木もいたが、彼女は話したくないだけだと思っていた。
そして、古株たちには暴言のオンパレードで嫌味まで言われ放題だったが、都合よく彼女にはまるで聞こえていなかったことで、おかしなこと担っていくことに放ったが、今、彼女を悩ませていたのは木のことだった。
(今日の分じゃ、全然足りてない。もっと頑張らないとこの森の若い木が、幼い木は全部枯れてしまう)
それをどうこうする義理はないはずだが、彼女はそうなってほしくなかった。どうなるかの結果が、少女にはありありと見えていた。それを何もしないままで凄すなんてしたくはなかった。
今は、それより重要な話をツキノワグマとしているはずだが、彼女は自分が熊といることに恐怖を感じてはいなかった。
木々が少女が現れたのは、突然だと言い出して、クリティアスは思案していた。目の前の少女は、別のことを考えていたが、再び目の前で話しかけて来た方に思考を戻した。
「……突然か。なら、匂いが変なのも、そのせいかもな」
「?」
(匂い……? やっぱり、臭い??)
少女は、クリティアスの言葉にピクッと眉を動かした。年頃の乙女には、匂いが変なんて言われたら気にしないわけがない。
「ここの元からの住人ではなくて、記憶もなく他所からやって来たら普通は、存在しているのも難しい」
「ここの住人……?」
「お前の匂いからして、他所から来たのは明らかだ。でも、お前はすぐに存在する理由を見つけ出した。名前も覚えていないのに若木を助けようとして、他の木も困ってると思って動いた。その上、約束だからと俺に食われることにも躊躇いもなかった」
「? そういうものでしょ?」
「違うな。ここの住人は、見返りがないと見ず知らずの奴のために行動なんてしたがらない。知り合いなら、そんなことしないが初対面のましてや人間の子供であろうとも関係ない。そこまで、優しくない。自分たちのことでいっぱいいっぱいな連中が多いんだ」
それを聞いて、少女は変な気分だった。
(それは……)
少女は、俯いた。クリティアスや木々を見ていられなかった。
「それは、なんだか、相手の気持ちに対して勝手に等価交換をしているみたいで、打算的すぎて寂しいというか。虚しいわね」
「寂しさと虚しさか。……そうかもな」
(ん? だとしたら、クリティアスさんて、相当ここでは変わってるんじゃないの?? こうして、初対面の私のやることなすことに付き合ってくれてるんだもの)
それか、相当な世話好きなはずだ。この少女も、クリティアスのことは言えないことをしているが、やりたくてしているのとそれを見かねて手伝ってくれるのは、また意味合いが違っている。
「言っておくが、俺は普段はこうではない」
「……」
「この森に随分と前から住まわせてもらってる。だが、お前のように木々と普通に何でもないように会話できる奴は見たことない」
「あなたも、話してたでしょ?」
「全部じゃない。お前の側にいるせいか。これまで以上によく声は聞こえるが……、若い木が頑張って言葉を発しようとする木々なんて見たことない」
「……」
言葉を発しようとしてできなくて、枝を動かしたりしているのもいた。それもできなければ、葉を揺らしたりしていた。
古株は罵詈雑言ばかりだが、人間の小娘の手助けなんてなくとも、森の主が目覚めれば、どうにでもなると思っていたのも大きかった。
いつも、森の主が、この森を守ってきた。そのせいで、危機感が薄かったのも大きかった。この時の森の主の眠りは深かった。とても深かったのだ。
その深い眠りの中でも、少女の純粋な想いに森の主は動いた。彼女が、桶を用意してもらって何をしようとするかを言葉にせずとも、森の主だけが理解していたのだ。
だが、この時の少女は別のことを考えていた。
(あれは、そういう意味だったのね。水分不足で元気がないだけかと思ってた。話せないのもいるのね)
“ありがとう”
“嬉しい”
そこから、若い木のことや他の木たちも、クリティアスたちを感謝してくれるようになったが、最初は僅かだった。
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