命ある限り、真心を尽くすことを誓うと約束させた本人が、それをすっかり忘れていたようです。思い出した途端、周りに頭の心配をされました

珠宮さくら

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天唯の両親は、芽衣子の両親が揉める前から、既に離婚しようとして、ずっと準備をしていた。そのことは、天唯から聞いていた。天唯は父親から離婚うんねんの話とどちらと一緒にいたいかを聞かれて、父だと即答していることも聞いたが、例の話はしていないこともわかっていた。その話は天唯がしていなくとも、幼なじみがしていないとわかっていた。


(するなら、とっくの昔にしていたものね。それにしても、ようやく離婚するんだ)


芽衣子は、そんなことを思っていた。でも、雲行きが怪しくなるのは、間もなくだった。

円満に離婚するはずが、天唯の母の不倫を知った父によって泥沼の離婚をすることになったのだ。探偵を雇って調べ上げたのは、疑っていたからではなくて何もないことを証明しようとしてだったようだ。

それは、天唯の父親の言い分で、母親の方もまた調べ上げたのは相手のせいにして優位に離婚したかっただけなようだ。


(バレないままの方が、天唯のためになったかと言うとそうは思わないけれど、泥沼になってほしいとは思ってはいなかったのよね)


芽衣子が、それを知ったのはニュースだった。誰も、その手の話題を芽衣子の前ではしなかった。だから、芽衣子が知っているとは思っていなかったかも知れないが、暇を持て余してワイドショーを見てしまっていて、テレビをつけたことを後悔してしまうとは思わなかった。

いや、天唯にはバレていたかも知れないが、芽衣子と話す話題にそれが出てくることはなかった。

そして、芽衣子の両親も泥沼の離婚をすることになり、それに辟易したのは芽衣子よりも芽衣子の弟妹たちだった。

芽衣子は、それでも弟妹たちが両親のことを自分の前で必死に怒鳴り散らそうとするのに耐えているのには気づいていなかった。

ただ、我慢することができない両親たちにげんなりしていた。お互いが浮気していたのだから、どっちがどれだけ悪いかよりも、子供たちをどうするかという現実的なものを話してほしかったが、自分たちのことばかりだった。どちらの方がより悪いか。


(泥沼の離婚の果てに結婚するかと思ってたけど、違ってたみたいね)


前々から浮気している芽衣子の父親と天唯の母親が結婚するのではなかろうかと思っていた。そのために離婚しようとしていると思っていたが、本命同士ではなかったようだ。

それに芽衣子の父親は、天唯を自分の息子だと思っていたら違っていて、それどころか芽衣子やその弟妹たちの父親ですらなかったことがわかったのだ。

他にも、天唯の父親も子供たちと親子鑑定をして散々な結果になったようだ。

でも、天唯の父親はそれはそれとして芽衣子のところに以前と変わらない様子でやって来た。


「芽衣子」
「おじ様」
「新作だよ。サイン入りだ」
「凄い。素敵。ありがとう」


天唯の父親は、芽衣子の喜ぶものを持って現れてくれた。それに芽衣子は、無邪気な顔をして喜んだ。

その顔は、幼い頃から何一つ変わっていないものだった。


「私の宝物。また、増えた」
「宝物か。芽衣子は、私にとって、一番可愛らしいファンだよ」
「可愛らしいかは、ともかくとして、コアなファンな自信があるわ」


そう言った芽衣子に大袈裟に反応したのは、幼なじみの父親だ。芽衣子を見ているのではなくて息子を見ていた。


「相変わらず、自分の魅力には気づいていないんだな」
「……俺を見るな」


天唯は喜ぶ芽衣子を見て、父親の言葉にそう返していた。


「騒がしいな」
「親父」
「見て来ることにしよう」


芽衣子は、本を開いて読み始めていた。その顔は幼い頃と何も変わってはいなかった。


「芽衣子。ゆっくり楽しんでくれ。しばらく、日本にいるから」
「……本当?」
「本当だ。仕事で煮詰まったら、お見舞いに来るよ」
「なら、ずっと煮詰まってほしいな」
「それは、担当が困るだろうが、私は全く困らないからいいよ。私だって、まだかまだかとうろちょろする担当よりも、側で私の本を堪能している可愛らしい女の子に強請られた方が仕事をしようと思うさ」
「それ担当に知られたら、私がお強請りしろって言われそう」
「おっと、それは駄目だ。担当が来たら、上手く隠してくれ」


そんな冗談を言って肩を竦めるのを見て、芽衣子は楽しそうに笑っていた。

天唯の父親は、また来ると言って騒がしい廊下に出て行った。

芽衣子は、本に夢中になっていて、外のことに興味なさそうにしていた。


「天唯」
「わかった。あー、発音にクレームつけるなよ」
「つけないわ」


天唯の父親は、芽衣子が読めているとわかっていたかはわからないが、天唯は呼ばれただけで声に出して読むことになることを察した。

芽衣子の具合が、この日はあまり良くないことに気づいていたのは、天唯だけだったようだ。


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